第30話 善人の国2
凱旋パレードのせいで街に入る審査が甘いのか、それとも元々甘いのか、おざなりに調べただけで、街の中に入ることが出来た。金は少し不思議そうな顔をされたが、通用した。門番に通用するなら、中でも通用するだろう。吟遊詩人とは直ぐに別れた。情報を貰った礼代わりに、聞きに行っても良いかもしれない。吟遊詩人の歌など長らく聞いていないし、少し楽しみではある。
待ちの中は祭り独特の浮ついた雰囲気に充ちている。屋台の数も前の街より多いが、パレードの為か、中心部の大通りは一軒もない。
宿でも探すかと、歩き出すと、ルイーダの様子が少しおかしい。俯き加減で、俺の左手を掴んでいる。まるで何かに怯えているようだ。
「どうした?祭の雰囲気は嫌いか?」
俺が聞くと、ルイーダははっとしたように顔を上げ、少し迷った後に答える。
「その、こういう場合は、私の処刑だったことが多くて……何だか昔を思い出してしまうんです」
そう言ってまた俯く。
「じゃあ、パレードを見るのは止めて、次の時代まで進むか?」
俺はちょっと残念に思ったが、ルイーダが嫌なら仕方がない。変に感情が高ぶって、この都市を吹き飛ばされても困る。滅んだ理由がルイーダの癇癪なんて、検証にも何もなりはしない。
「いえ、大丈夫です。私、頑張ります。それにドラゴンのお肉食べたいです!」
「そ、そうか」
意外と食い意地がはっているのか、ルイーダは気合を入れなおしたように言う。だが、食べたいといわれても、ドラゴンの肉はそんなに流通している様なものだろうか?生息している以上、最悪俺が倒せば良いのだろうが、出来るだけこの世界への干渉は避けたい。
宿はパレードがあるせいで、どこも満杯だった。一時間以上も歩いてようやく一軒の宿を見つける。外見からしてこの都市ではかなりの高級宿だ。前回ルイーダに服を買っておいてやって良かったと思う。前の飾り気のない質素な服だったら、話も聞かず追い出された可能性もある。
「この金貨は使えるのか?」
俺はフロントにいる男に聞く。
「失礼します」
そう言って男は金貨を受け取ると、しげしげと眺め、重さも確かめる。どうやら魔法も使っているようだ。
「かなり珍しい金貨ですね。純金のようですし、当店では問題ございませんが、宜しければこの国の金貨にお替えしましょうか?」
「ああ、それは助かる。つでに両替も頼みたい」
「畏まりました」
おとこは恭しく頭を下げる。そしてしばらくすると両替をした金貨銀貨を持ってきた。図柄が違うだけで、俺の持っているものとほとんど変わりは無かった。俺は無造作にそれを懐に入れると男に聞く。
「ドラゴンを倒したと言う事で凱旋パレードが開かれると聞いたんだが、ドラゴンはそんなに珍しいものなのか?」
「それは珍しいものですよ。数年に一度どこかの冒険者が倒した、というのを聞く程度でしょうか。今回のような国難に、国王自ら軍を率いて討伐したというのは、おとぎ話に聞く程度ですけどね」
まあ、普通は国の王なんてふんぞり返って、適当な奴を勇者に祭り上げて、命令するだけだからな。俺の記憶にもそんな殊勝な国王なんていない。
「じゃあ、ドラゴンの肉を食うのは無理か」
ちょくちょく討伐されるようなものなら、それを扱う店もあるかと思ったが、その頻度では難しそうだ。
「えっ、お客様は知らないでこの街に来られたのですか?このパレードの目玉として、最後にドラゴンを解体して、この街にいる者全員に肉が配られるんですよ。ドラゴンの肉なんて、食べようと思っても、なかなか食べれるものではないですからね。それを目当てに来てる人も多いという話ですよ」
「全員に?どうやってだ。整理券か何か配られるのか?」
配るのは良いとして、住民票もないような世界だ。そこそこ大きい街なので、皆が顔見知りというわけでもないだろう。ずるをして何度も肉を貰う奴が居ても不思議じゃない。
「整理券?普通に、並んだものに、切り分けて配られると思いますが……何か他に方法があるのでしょうか?」
逆に支配人に不思議そうな顔をされる。なんだ、この街の奴らも善人ばかりなのか。善人が悪いとは言わないが、今までの経験からこの先また滅びそうな予感がする。
「いや、変な事を聞いた。俺の故郷ではそんな事をしたらズルをして、何度ももらう奴が出ただろうからな」
この街にいるもの全員といったら、配るのに必要な列は一列や二列じゃすまないだろう。違う列に並べば、バレずにもう一度もらえる。
「はぁ。それは大変なところからいらしたんですね。少なくともこの国で、そんな事をしたという話は聞きませんから安心してください」
だからそれが安心ならないんだよ。俺は心の中でそう叫びつつ、努めて平静にして部屋へと向かった。
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