第14話 意味が違う

 現金なもので、余り美味くない飯でも、腹が膨れればそれなりに気持ちが落ち着く。我ながらなかなか図太い神経を持っていると思う。そう思わないとやってられないというのもあるが。


(そういや、さっき小鳥が飛んでいたよな。森の中に動物もいるのか?)


 俺はユニに尋ねる。もしいるのなら、干し肉じゃないちゃんとした肉が食べたい。出来ればどこかの秘伝のたれを付けたものを食べたいが、この際丸焼きにして塩コショウだけの味付けでも良い。


(おそらくいるでしょう)


(ハッキリとは分からないのか?)


(ハッキリと分からないというか、この新たに作られた世界がどこまで本当なのか、私には判断できないのです。彼女が騙そうと思ったら、私に見破る力はありませんので……)


 申し訳なさそうにユニが答える。


(となると自分で探して狩りをするしかないか……)


 ちょっと面倒だな、とは思ったが仕方がない。いや、狩り自体はいい気分転換になるのだが、如何せん自分が持っている武器は狩りをするには大仰な武器ばかりである。当てたら獲物が消し飛ぶので、武器を自作する必要がある。弓とまではいかなくても、投げ槍ぐらいは作れるだろう。

 そう思い俺は一本の木に近づくと適当な枝を切ろうとする。だがごく普通の木に見えるその木の枝は、俺の所有する魔剣をもってしても、ほんのわずかな傷がついただけだ。思ったより頑丈な枝に、さてどうしようかと悩んでいると、ユニが話しかけてくる。


(少々お待ちいただけませんか。貴方様が枝を折ろうとしているその木はおそらく世界樹です。まだ未完成ではありますが、その枝を折ると数千、数万の世界が生まれることなく消えていきます。貴方様の望みの一つは世界の滅亡であることは存じておりますが、この様な形での消滅はお望みではないのではないでしょうか)


 俺はそれを聞いてギョッとする。えっ?世界樹?世界樹ってこんなに無造作に沢山生えてるものなの?それに俺の知っている世界樹とは大きさもも違う。形は何となく似ている気もするが……俺が知っているものは神聖な空間に立っており、その頂も、枝の広がりの先も、分からないぐらい巨大なものだった。


(貴方様の疑問はもっともでございますが、ここは今や世界の始まりの場所なのです。世界樹とて多くの世界を宿す木の1本にすぎません)


(もしかして、踏みつぶしている草花も世界に関係しているのか?)


(それはご心配には及びません。世界樹以外は関係ございません。おそらくという注釈が付きますが……)


 そういや、ルイーダがごまかしたら見破れないといっていたな。どうせ分からないのだ。こんな突拍子も無い話を何時までも気にしてはいられない。


(それでは動物はどうなんだ。神獣とか言う奴なのか?)


(いえ、それより上位の存在です)


(それは殺しても大丈夫なものなのか?)


(そのものらは、死んで血肉が世界の元となるのです。気になさることは無いかと)


 なんかその手の神話は聞いた事がある。それに自分が関わり合うようになるとは夢にも思わなかったが、兎も角気にしないでおこう。精神衛生上それが一番だ。それに幸いな事に武器を手作りしなくても自分の武器で良さそうだった。むしろ通じないかもしれないのが心配なぐらいだ。


「ヴィル様。先ほどから何をなされているのですか?」


 ルイーダが近寄って聞いてくる。


「干し肉ばかりではつまらないからな。狩りをしようと考えていた。気分転換にもなるし、身体も動かしたいしな」


「えっ」


 ルイーダはそう言って驚いた顔をして言葉に詰まる。あれ?俺なんか変な事言ったか?疑問に思うも、思い当たる節がない。まさか動物が居ないなんてことじゃないだろうな。居ても俺の武器が通用しないとか……それは先ほど考えていた事だ。あっても不思議じゃない。


「その……大変申し上げにくいのですが、ヴィル様の所有する武器では、私は傷つけられないと思います。勿論逃げ回れと言われればやりますが、私は演技が上手いとは言えませんので、ヴィル様の気分を害することになるかと……」


 こいつは何を言ってるんだ?


「俺は狩りハントの話をしてるんだが……」


「はい。狩りマンハントの話ですよね……」


「ルビがちげーよ!」


 ルビとは言葉のあやだが、同じ言葉でも、違う意味で使っているのは分かる。


「俺が狩るのは俺が狩るのは動物アニマルだ」


「はい。承知してます。人間アニマルですよね」


「それもちげーよ!」


 同じ言葉を話しているのに、会話が通じないことがこんなに疲れる事だとは思わなかった。俺は深呼吸をして心を落ち着ける。そうだこんなことで怒鳴っていてどうする。ちょっとばかり癇に触ったといったところで、俺を裏切った奴らのように酷いことをしている訳ではない。ちょっと、というかかなり馬鹿にされている感じがするが、逆に言えばそれだけだ。それもわざとやっている訳ではないだろう……多分。


「いいか、良く聞け。俺は人間狩りをするつもりはない。そうだな、例えば鹿や猪、兎でも良いが、そういったものを狩るつもりなんだ」


「ヴィル様は随分と変わった狩りをされるのですね」


 変わっているのはお前の頭の中だよ。そう言いたいのをぐっとこらえる。言い出したらまたルイーダの悲惨な過去を知るだけだからだ。俺はルイーダの過去なんかに一切興味は無いのだ。


「興味が無いなら俺一人で行くから、お前はここでじっとしていろ。もし付いて来るなら、邪魔はするなよ」


「勿論です。後から眺めさせてもらいます」


 おれはグングニルと呼ばれている槍を取り出すと、森の中に入っていった。

 

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