第4話 ルイーダという女1
俺は一回深呼吸をし、少し心を落ち着かせ目の前の女に質問する。
「お前はいったい何者だ?」
「何者と言われましても……何度も転生を繰り返しましたので、一言では言い表せません。ルイーダという名前も、一番なじみがあるというだけで、実際は様々な名前で呼ばれてました」
どうやらこいつは俺と同じく転生を繰り返していたらしい。その記憶があると言う事は、その生涯で、魂に死んでも消えない程の深い傷を負ったのだろう。その点は俺と同じだ。ちょっとだけ共感を覚える。
「そうか。では記憶にある一番最初の人生から聞こうか。といっても長々と聞く気はない。かいつまんで話せ」
「はい……分かりました。最初の記憶は人間が生贄を神に差し出して祈っていた頃でしょうか。私はその生贄でした。私は生きたまま全身の皮を剥がされ、石柱に縛られ、鳥に啄まれて死にました。
次は聖女と慕われた時でしょうか。その時私は傷や病気を治す力を持っていました。ですが、突然魔女と言われ、激しい拷問の末死にました。
次は勇者様の仲間になりました。魔王を倒し、世界に平和をもたらした者の一員となったのですが、勇者様に恋をした王女によって、手足を切り取られ、目を抉り出され、喉も潰され、樽に詰められ、放置されて死にました。
次は魔族の支配を打ち破る事が出来る、救世主を生む聖母になると予言されました。ですが、同じ人間からの密告により捕まり、魔族に嬲られ死にました。
次は逆に魔族の王女でした。肉を食えば不死になると信じた人間たちによって、生きたまま切り刻まれ、死にました。
次は王太子の婚約者でした。ですが、罠に嵌められ、地下牢で拷問された挙句、広場で民衆にさらし者にされ、首を切られて死にました。
次は……」
「ストーップ!ちょっと待て、俺はかいつまんで話せといったはずだ」
「ですから詳細な拷問シーンは省いてますけど……」
ルイーダは怪訝そうな顔をする。いやまあ、そうかもしれないけど、そうじゃないんだ。
「悲惨な過去を送ってきたのは分かった。もうその手の話は良い。転機が起きたのは何時だ」
俺は転移や転生を64回経験した。だが、どうもルイーダはそれよりも多そうだった。しかも、悲惨さが俺よりも酷い。俺も大概だと思うが、俺は裏切られた回数が16回を超えてから、考えが変わった。ルイーダも多分どこかで考えが変わったはずだ。
「そうですね。悲惨な死を256回迎えた時です」
思ったより多かった……
「どう変わったんだ?」
「私は生まれた種族は違えど、殆どの場合、同族の中では何らかの強い力を持っていました。それを繁栄の為に使おうと考えていたのです。しかし、成果はありませんでした。どうせ役に立たないのなら自分の為に使おうと決めたのです」
行きついた先は俺と同じ考えか。
「しかし、なかなか上手くはいきませんでした。国を征服しても、他の国に滅ぼされました。種族を統一しても他の種族に滅ぼされました。世界を手に入れても、神々によって世界ごと滅ぼされました……」
取りあえず、世界を手にれるところまでは行ったのか。頑張り方が俺とは違う方向だが、頑張ったなと言うべきだろうか。
「中途半端な力ではどうにもならぬ。世界に対して反逆をするのなら、力を蓄える事も必要だ。例えそれが自分の魂を傷つける事であったとしてもな」
「流石は勇者様でございます。その通りです。私は512回目の死でそれを悟りました。そしてそれからはひたすら力を蓄えたのです」
転生した回数は予想外だったが、ルイーダも世界に対して復讐を決意し、そしてそれをやり遂げたのだろう。この世界はその慣れの果て、というやつに違いない。だが、これ程の悲惨な人生を繰り返して、世界を一つ破壊しただけで満足する物だろうか。少なくとも俺は満足しない。
「そして私は1024回目の死亡後、つまり1025回目の生において、世界を滅ぼしたのみならず、神々をも、そしてその神々を作った神々さえも殺しつくし、魂の輪廻の法則すら壊し、三千世界をことごとく無の世界にしたのです。ヴィル様が足を踏み入れた世界もその一つです。一条の光も、一粒の粒子さえ存在を許しませんでした。あそこには物質を結び付ける力も、精神的な力も、時間すらも存在しません。ヴィル様は耐えることが出来ましたが、本来なら存在が消えてしまう世界なのです」
えっ、途中から理解が出来ない……三千世界をことごとく滅ぼすってなに……しかも、なにものの存在も許さない絶対的な無の世界にするなんて……俺はそんな力持ってない。
「そして、全てを滅ぼした後に気が付いたのです。憎しみで世界を破壊したとしても虚しいだけだと。一人で永遠を生きるのは死よりも苦しい事だと」
悲惨な人生の時もそうだけど、この女、気付くの遅くね?いや、確かに俺も世界を滅ぼそうとしていたが、ここまでじゃない。今まで悲惨な目に遭わせてきた世界に対する復讐心はあったが、無関係の世界まで巻き込むつもりは無かった。いや、ちょっとはあったかもしれないが、少なくとも三千世界をことごとく滅ぼそうとは思っていなかった。復讐を果たした後はその力をもって、どこかの世界の神として君臨しようと考えてたし……
天然か。これが天然ってやつか。天然って怖いな……
しかし、ルイーダからは世界を滅ぼしつくした程の力は感じない。ルイーダは嘘を言っているのだろうか。
「にわかには信じがたいな。仮にそうなら、そんな力をどうやって手に入れた?」
「それはですね……」
ルイーダはよくぞ聞いてくれましたとばかりに、ニッコリと微笑み話し始める。今まで見せなかった屈託のない笑みではあるが、俺は何となく背筋に寒気を覚えた。
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