第3話 どういうこと?

 俺はテーブルの反対側のソファーに座るようにルイーダを促すが、ルイーダは恐る恐るといった感じで、ソファーを触るだけで、一向に座る気配がない。


「どうした?」


 俺は少しイライラして聞く。


「申し訳ありません。大変聞きにくいのですが、これは座ると針が飛び出る仕掛けなのでしょうか?それとも拘束して圧し潰すタイプの物でしょうか?もしかして燃えるのでしょうか?」


 ルイーダの返事はこちらの予想外のものだった。


「そんなソファーなんて持ってねーよ!さっさと座れ!」


 俺が怒鳴ると、びくりと肩を震わせ、おずおずといった様子でルイーダは対面のソファーに腰を下ろす。


「凄いです!これ、ふかふかです。痛くも、苦しくも、熱くもありません!」


 感動したと言わんばかりの無邪気な笑顔でルイーダがそう言う。放っておいたら飛び跳ねそうだ。


「そうか。それは良かったな……取りあえず落ち着け」


 一体全体この女は何者なんだ。そう言った疑問が頭をよぎる。兎も角一つずつ疑問を解決していこう。そう思った矢先、床が変化し汚い石畳から、美しい絨毯が敷き詰められた床へと変わる。周りも灰一色の世界から王城の一室の様な豪華な部屋に様変わりする。壁には暖炉が備え付けられており、パチパチと炎が暖かく燃えている。今まで感じていた冷気も無くなっていた。

 

「一体何が起きた……」


(それはこの娘の喜びの一部が形になったものじゃ)


 その呟きに答えたのは、いつの間にか自分の精神に入り込んでいた何かだった。


(お前は何者だ)


 俺は自分自身に問いかける。


(何者と言われると答え辛いが、強いて言えば原初の存在だろうか。具体的に言うとそなたらの様な知的生命体が神というものの神、そしてその神のさらに上位の神の、更に根源となったものじゃ)


 頭に直接聞こえてくる声は、男とも女とも分からないどころか、若いとも老人とも分からない不思議な声だ。声も分からないが、言ってる内容も分からない。


(へぇ。そんなお偉い方が俺如きに何用で?)


 再度正体不明の何かに心の中で問いかける。こいつの言う事をそのまま信じるなら、とんでもない存在だ。だがほいほいとそれを信じる程、俺の脳みそは沸いていない。いつの間にか俺の精神の中に入り込んでいた事には驚くが。


(そう警戒するでない。今の私は何の力もない、ただの残滓にすぎぬよ。そなたの目の前の娘に取り込まれていたのだが、その娘が喜んだことにより僅かに拘束力が弱まり、一部がそなたの中に逃げ込むことが出来たのじゃ)


(で?)


(かつて私は世界の元となったが、その世界は滅んだ。私の創造した世界は何処か間違っていたのじゃろう。そんな私に世界を再び戻してくれという資格はない。ただ、このままそなたの中に住まわせてくれればありがたい。そしてそなたらの行く末を見守りたい。かつてのように全知とまではいかなくとも、ある程度の知識はある。何か疑問が有ったら問いかけるが良い。私の知る限りの事を教えよう)


 俺の中にいることで分かるが、少なくとも敵意を持っている訳では無い様だ。言っていることの真偽はともかく、暫くは辞書代わりに住まわせてやっても良いだろう。追い出す方法も分からないし……


「あっ、あのう。どうされましたか?何か失礼な事をしましたのでしょうか?」


 おずおずと上目遣いにルイーダが尋ねてくる。いかんいかん。この訳が分からない事の中心にいると思われる人物の事を忘れていた。


「いや。少し考え事をしていただけだ」


「えっ。それは、どうやって私を苦しめるとかですか?それとも油断させて殺すおつもりですか?」


「ちげーよ!」


「はいっ。すみません」


 俺が怒鳴ると。ルイーダはソファーに座ったまま縮こまる。


「まあ、いい。先ほど言ったように、先ずはそちらの話を聞こう。俺にどうして欲しいのだ?」


「はい。最初に申し上げた通り、滅びた世界を救ってほしいのです」


 ルイーダはそう俺に懇願してくる。


「どうやってだ?俺も最初に言った通り、世界再生の力なぞ持ってはいない。どこかの世界を滅ぼせば救われるのか?もとよりそのつもりでやってきたんだ。世界を滅ぼせというのなら協力してやろう」


 どこかの世界が、世界ごと封印してしまうという事はありえない事ではない。実際俺でも時間を掛ければどこかの世界を破壊し尽くした後、復活せぬよう封印することは可能だろう。その場合俺を殺したらその世界は復活するかもしれない。まだやったことが無いので何とも言えないが。


「それが、私にも分かりません。どうしましょう?」


 いや、だからそれを聞いてるのは俺だよ。俺は心の中で頭を抱える。話を聞くだけで長くなりそうだ。俺は気を取り直して、不思議の塊であるルイーダの正体から聞くことにした。


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