第48話 ルビス
「……勇者よ……よくぞ……わしを倒した……」
……ゾーマが呟いている。
……あの、ゲームで見た、戦闘後の、エンディングでのセリフを。
「……だが……光あるかぎり、闇もまたある……。わしには……見えるのだ……再び何者かが……闇から現れよう……。」
……倒したのだ、ゾーマを。
……ヤバイ、感極まって泣きそうになる。
「……だがその時は……お前は……お前達2人は……年老いて生きてはいまい……。」
……2人?
……その、もう1人って、ひょっとして私のことですか?
……異世界から来た勇者っていうホラ話を、信じてしまったのでしょうか。
……涙が一瞬で引っ込んだ。
「……わははは………っ。ぐふっ!」
……弁明する機会も与えられないままゾーマが崩れ落ち、跡形もなく消え去った。
「カンダタさん……」
アルスがボスに近づいてきた。
その瞳からは涙があふれ出ている。
「……流石はオルテガの息子だ。よくやったな。」
ボスがアルスの頭にポンっと手を置いた。
「はい……!ありがとうございます……!」
アルスが泣いている姿を見ていたら、途端に全身の力が抜けてしまい、思わずその場に尻餅をついてしまった。
「エルス!だ、大丈夫?」
ヴィクターさんが慌てて側に来てくれる。
「だ、大丈夫です……今更ながら、腰が抜けちゃいました……」
膝も笑ってしまっており、立ち上がることができない。
ゾーマに斬りかかった時はアドレナリンが出まくっていたが、今思うと本当に怖いことをした。
……あんなのは、もう二度と御免だ。
「ここでヘタレが発動するかぁ。……でも、よくやったじゃない。」
ドネアさんが苦笑いしながらも褒めてくれる。
「いやぁ、最後まであんたに助けられたわね。流石は2人目の勇者ってところかしら。」
「……サラキアさん、それはもう忘れてください。」
「あら、割と本気でそう思っているのよ。ゾーマも最後はそんなこと言ってたじゃない。」
アレはモシャスで勇者に変身したからゾーマも勘違いしただけだ。
所詮はサポーターだってことを、どうか忘れないでほしい。
「エルス……最後の行動については、後で説教だからね。」
気がついたら、ヴィクターさんがこちらを睨んでいた。
「ヴィ、ヴィクターさん?」
「……わかってるわよ、あの場ではアレしかやりようがなかったことくらい。最上の結果を得ることもできたわけだし。」
「そ、それなら……」
「でもね……私を心配させた罰は、きっちりと償って貰うわよ。これからは、その……時間もたくさんあるわけだしね……」
ヴィクターさんが少し笑顔になって、最後は少し照れながら言ってきた。
「は、はい。どうぞ、お手柔らかに……お二人は、その冷やかし笑いを止めてくださいね。」
やはりというか、ドネアさんとサラキアがにやつきながらこちらを見ていた。
――― 突然、辺りが光り輝く。
――― 同時に、一人の女性が、目の前に現れた。
「……勇者アルスよ。よくぞゾーマを倒してくれました。この世界を代表して深く感謝します。」
「ル、ルビス様……!」
天使のような姿形をした、神々しい女性だった。
この御方がルビス様なのか。
「サラキア、マール、ソフィ。よく勇者アルスを助け、支えてくれましたね。」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます。」
マールが代表してルビス様に答える。
ゾーマの威圧感も半端なかったが、ルビス様はまた別の威圧感というか貫禄のようなものを感じる。
「あなた達4人には……感謝の気持ちを申し上げることしかできず、歯痒いばかりです。無力な私を許してください。」
「とんでもございません。ルビス様の御加護のお陰で僕達はここまで来ることが出来たのですから。」
これがボスだったら報酬を寄越せとか言いそうだけど、義理の息子はそんなことを言う青年ではない。
「ありがとう、アルス。あなたに託して、本当に良かった……」
ルビス様がアルスに微笑む。
アルスは少し照れてしまっているみたいだ。
「そして……この世界ではエルスでしたね。」
心温まる光景を眺めている中、ルビス様がいきなりこちらに向かって話しかけてきた。
「エルス。あなたには、縁もゆかりもないこの世界で、よく尽力して頂きました。」
「……ルビス様が、私をこの世界に呼んだのですか。」
「……はい。私が、あなたを呼び寄せました。」
やはり、ルビス様だったのか。
「この世界に私を呼んだ方にずっとお聞きしたかったことなのですが、どうして私を選んだのでしょうか。」
この世界は、自分が居た元の世界では超有名なゲームの世界だ。
自分以上にこのゲームをやり込んだプレイヤーなんて、数多くいたはずだ。
「……この世界に呼び寄せる方の条件が3つありました。1つは善の心を持つ方。1つはこの世界にうまく適合できそうな方。……そしてもう1つは、救いを求めていた方です。」
「……救い?」
3つ目は意外な答えだった。
救いだなんて、そんなの求めた覚えがない。
「……私は、人間を愛しております。それは私が管理しているこの世界に住む人間だけではありません。ここ以外の、様々な世界に住む人間のことも見守っています。……そうした中で、あなたはご両親の死により誰かに救われることを心の奥底で望んでいました。……私は、そんなあなたを救ってあげたかったのです。」
……ルビス様が心配になるくらいマズい状態だったというのか。
自分が救われたいと心底願っていただなんて、思いもしなかった。
「……もちろん、誰も彼もということではありません。あなたが、この世界を救いたいと思うほどの善性を持っていたことが大きいのです。」
……そんな大層な思いなんか持っちゃいない。
……自分はただ、大切な人との未来を守りたかっただけだ。
「ただし、私が直接あなたを救うということはできません。ですから、この世界で良い影響をあなたに与えてくれる方々に出会えるようにしました。」
……だからカザーブに、ドネアさんと遭遇するタイミングで送り込まれたのか。
ボス達に……ヴィクターさんに、引き合わせるために。
「……ありがとうございます、ルビス様。お陰で私は救われたと思っています。」
「……そう言って頂けるとわたしも嬉しいです。」
ルビス様が微笑んでくれる。
「ところで、2つ目のこの世界への適合性についてですが、それはやはり私の世界にあるゲームの知識があるという意味ですか?」
「……ゲーム?それはどういったものなのでしょうか?……私はただ、この世界で上手く生きていけそうな方という意図で申し上げたのですが。」
……ルビス様はゲームの存在を知らなかったのか?
てっきりゲームの知識がある者が転移の条件だとばかり思っていた。
……ルビス様にゲームの件について話すことにした。
「……そんなことが……俄には信じられませんが、それは確かなのですね?」
「はい、ルビス様。僕も最近エルスさんからお聞きしたのですが、間違いありません。」
アルスが証言してくれる。
「……そうですか……」
ルビス様が何か思い悩んでいる。
「……エルス、あなたを元の世界へと戻します。」
「えっ……!?」
――― 突然の、予想外の宣言だった。
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