第47話 決戦

「僕達が先行します!」

「頼むぞ、アルス!」

 アルスとサラキアがゾーマの元へと駆け出す。

 その少し後にマールとソフィが続いた。

「ヴィクター!ドネア!予定通りだ、エルスの前に立て!」

「了解よぉ!」

「任せて!ここから先は何も通さないわよ!!」

 ヴィクターさんとドネアさんが盾となってくれる。

「アリサ!キャシー!オレ様の合図で回復だ!遅れるなよ!」

「わかりました!」

「オッケー!任せてー!」

 アリサさんとキャシーちゃんが自分の後ろに回る。

 見た目麗しき女性4人に囲まれた状態だ。

 これがハーレムってヤツか……全然喜べる状況じゃない。

「エルス!呪文の合図もオレ様が出す!下手こくんじゃねぇぞ!」

「わかってますよ!ボスも頼みますね!」

 モシャスの効果は1分だけだ。

 その間にアルス達を避けつつ、ギガデインを撃たなければならない。

 そして、ゾーマの攻撃がこちらに飛んできた場合、ボスと前にいる2人でダメージを請け負い、後ろに居る2人が即座に回復して態勢を立て直す流れになっている。

 いずれも、タイミングが命となってくる。


 アルス達は、やはりというか苦戦しているみたいだ。

 例え相手の攻撃方法がわかっていても、それが強烈な攻撃であることに変わりはない。

「……よし、エルス!」

「モシャス!」

 間髪入れずに変身する。

「アルス、下がれぇ!!……今だ、撃てぇ!!」

「ギガデイン!!」

 アルス達がゾーマから離れた瞬間、ゾーマに雷の嵐が襲いかかる。

「グオォォォォォ!!」

 よし、ちゃんと効いているようだ!

「き、貴様……な、なぜ勇者が2人居る!?」

 どうやらゾーマもモシャスの存在を知らなかったようだ。

「ちっ!くらえぇ!!」

 ゾーマから大吹雪が吐き出されてくる。

「ドネア!来たわよっ!」

「わかってるわよぉ!」

 普段は盾など持たないドネアさんが、ボスやヴィクターさんと一緒に盾を構えて踏ん張ってくれる。

 それでも、3人の壁を突き破ってくるほどの威力だ。

「……回復!」

「「ベホマラー!」」

 アリサさんとキャシーちゃんが同時に全体回復呪文を唱える。

「……ちょっとシャレにならない威力ねぇ。」

「あと2発だ。それまで何としてでも耐えるぞ!」

 ゾーマにはボストロールにあった自動回復はない。

 計算上はギガデイン3発とアルス達の攻撃で倒せるはずだ。

 とにかく目指すは短期決着だ。長引けばそれだけ不利になる可能性が高い。


「――― ギガデイン!」

 2発目の呪文がゾーマを直撃する。

「ぐぅ……!死ねぇ!!」

 全体攻撃呪文のマヒャドがこちらに襲いかかる。

「通すものか!」

 ヴィクターさん達が目の前に立ち塞がってゾーマの攻撃呪文を請け負う。

「「ベホマラー!」」

 アリサさんとキャシーちゃんの回復呪文で立て直すも、盾となっているヴィクターさん達は既に満身創痍だ。

 2発目のギガデインを撃つまでに何度もゾーマからの攻撃がこちらに飛んできている。

 アルス達も頑張っているが、ゾーマの攻撃が想像以上に激しく、サラキア以外は回復と支援で手一杯という感じになっている。

 ……一体どれほどのダメージをゾーマに与えられているだろうか。

 考えるほど不安になってくるが、こちらはギガデインをあと1発撃つだけしか手立てがない。

「エルス!すぐに変身しろ!これ以上はこっちがもたん!」

「モシャス!」

 3度目の、そしてコレが最後の変身だ。

「よし、アルス!引け……」

「うわぁ!!」

「きゃあ!!」

 ボスの合図がアルス達の悲鳴に上書きされる。

 ……ゾーマの激しい攻撃により、前線が、崩壊しつつあった。


「死ねぇ、勇者ぁ!!」

「させないっ!!」

 ゾーマがアルスに襲いかかるも、その攻撃をサラキアが必死に防ぐ。

「マール!ソフィ!アルスをっ……!!」

 サラキアが2人に声をかけるも、2人とも先ほどのゾーマの攻撃で気を失ってしまっている。

「くそ!賢者の石が!」

 しかも、アルスが持っていた賢者の石まで吹き飛ばされてしまったようだ。

「アルス!そこから下がれ!」

 ボスの声に焦りが見える。

「すみません!2人が側に……!!」

 アルスも足を負傷しており、気絶した2人をすぐに引き離すことができなくなっている。

 今のままでは……ギガデインが撃てない。

 アルス達を巻き込んでしまうからだ。

 そして、そうこうしているうちに、モシャスの効果が切れてしまう。

 俄に……絶体絶命のピンチに追い込まれた。


「……ボス!雷神の剣を貸してください!私がいきます!」

 ギガデインが使えない以上、物理攻撃でいくしかない。

 勇者の姿であるうちに攻撃すれば、それなりにダメージを与えることができるはずだ。

「エ、エルス!!何言ってるの!?」

 ヴィクターさんが反対してくるも、説得するヒマなんてない。

「ヴィクターさん!一緒についてきてください!私は攻撃に専念します。私を、守ってください!!」

「…………っ!」

 ヴィクターさんが戸惑う。

「……オレ様も一緒に行く!キャシーは呪文でゾーマを牽制しろ!アリサとドネアはアルス達の救出に向かえ!」

「わかりました!」

「了解よぉ!」

「牽制は任せてー!」

「……絶対に、守ってみせるから!」

 最後はヴィクターさんも納得してくれた。

「全力で走れぇ!」

 全員が、一気にゾーマの元へと駆け寄った。


「メラミー!」

 キャシーちゃんの呪文がゾーマの顔面を覆う。

「……ちっ、こんな呪文、痛くも痒くも……」

 その隙に、ボスとヴィクターさんと3人で一気にゾーマへと接近する。

「……っ!もう1人の勇者か!死ねぇ!!」

 ゾーマがこちらに向かって左手を伸ばしてくる。

「させるかよぉ!」

 最も頼りになる男が、身を挺してゾーマの攻撃を防いでくれる。

 ……この男が、こんな大事な場面で、ヘマなんかするわけがない。

 一気に、射程圏内へと突入する。

「死ぬのは、お前だぁ!!」

 勇者の姿でゾーマへと斬りかかる。

「小癪な!コレで……!」

 ゾーマがカウンターで右拳を突き出すも、

「やらせない!!」

 もう1人の頼れる人が、その拳を防いでくれる。

 ……こんな弱い自分をいつも守ってくれる、この世で最も強く美しい盾だ。

 ゾーマの攻撃なんぞ、届いてたまるか。

「うおらぁぁぁぁ!!!」

 全身全霊を込めて、ゾーマの肩口に向かい、雷神の剣を振り下ろした。


「……グワァァァァァ!!!」

 ゾーマの絶叫が響き渡る。

 手応えがあった、まさに、会心の一撃だ。

「……お、おのれ……」

 しかしそれでも、足下をふらつかせながらも、ゾーマはまだ倒れない。

 ……こちらのモシャスも、解けてしまった。

「……全員下がれっ!アルス!!」

「はい!」

 慌ててヴィクターさんと共にゾーマから離れる。

 ……アルスが、希望の光が、戦場に戻ってきたのだ。

「……これでトドメだ!ギガデイン!!」


 ――― 勇者専用呪文が、真の勇者によって、撃ち放たれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る