第46話 闇の王
「――― これで終いか。全員無事だな?」
「大丈夫よぉ、みんな怪我もなく済んだわぁ。」
「言われたとおり、モシャスも3回分残してあります。」
「結果は上々だな。アルスの方はどうなってやがるかな。」
無事にバラモスブロスを倒すことに成功した。
ボストロールとは比較にならないくらいの強烈な攻撃だったと思うが、無事に躱しきることができた。
勇者アルスほどではないだろうが、とにかくボスが強くて助かる。
「カンダタさん!そちらは大丈夫ですか!?」
アルス達がこちらにやってきた。
「こっちは無事に倒したぞ。アルスの方も無事に終わったようだな。」
「はい、問題なく。エルスさんから事前に特徴を教えて貰ったお陰ですね。」
うまくゲームの知識が役立って何よりだ。
「この賢者の石というアイテムにも助けられました。魔力を使わないというのも有り難いです。」
賢者の石とは、城内にある宝箱に入っている超スーパーアイテムで、なんと味方全員を回復するベホマラーという呪文と同じ効果がある。
さらに、この世界ではいかづちの杖とかは持ち主の魔力が必要だったのに、賢者の石はそれも不要だというのだ。
これは嬉しい誤算だった。
「ゾーマ戦でも役に立つだろう。アルスかサラキアが持っていた方がいいだろうな。」
「僕が持ちます。サラキアには攻撃に専念して貰いたいですから。」
「ええ、私に任せてよ!」
今はサラキアの声が頼もしい。
「さて……ゾーマはこの先にいやがるのか。」
「そうですね、ゲームではこのすぐ先に……」
言い終わる前に、不気味な声が聞こえてきた。
「……勇者アルスよ、なにゆえ、もがき、生きるのか?」
――― ゲームで何度も聞いた、ゾーマの口上だった。
「……滅びこそ、わが喜び。死にゆく者こそ、美しい……」
目の前に現れたのは、まさにゲームで見た姿そのままだった。
……その圧倒的ともいえる存在感に、恐怖に、震えが止まらない。
「エルス……!」
ヴィクターさんが手を握ってくる。
その手も、やはり震えていた。
「ふん、テメェがゾーマってヤツか。」
流石にボスは気丈だ。
「……ルビスの手下以外にも、ネズミが数匹ほど混ざっているようだな。」
「ゾーマ!僕が、お前を終わらせてやる!」
勇者もビビっていない。
本当に凄い人達だ、とても心強い。
「フッフッフ……ルビスの手下ごときが吠えるな。ルビスもこの大事な場面に出てこれない腑抜けだろうに。」
「ルビス様を嘲笑するな!」
「……まぁよい。さあ、我が腕の中で……」
いよいよ、最後の戦いが始まる……!
「……待て。そこの貴様、一体何者だ?」
……なぜか、ゾーマの視線がこちらを向いた。
「……貴様、この世界の人間ではないな?」
そしてあっさりと異世界人だと見破ってきた。
流石はラスボスということなのか、とんでもないヤツだ。
「わずかにルビスの力も感じるが……勇者とも違う、その力は一体なんだ?」
……おいおい、まさか自分にもルビス様の加護があるのか?
……もしかして……この世界に自分を転移させたのって……ルビス様?
「……ほう、ゾーマとやらも意外に大したことねぇんだな。コイツの正体に気付かねぇなんてな。」
……あの、ボス?私の正体って、一体何のことですかね?
……なんか、とても嫌な予感がするのですが。
「この男はなぁ、ルビスが異世界から召喚した別の勇者様だ。テメェに気付かれることなくここまで来たってわけだが、上手くいって何よりだぜ。」
……なんですか、その設定?
私なんてただのエセ勇者ですよ?ちょーっとハッタリがすぎやしませんか?
「……ルビスはな、アリアハンの勇者以外にもテメェを倒す手段を確保してたんだよ。テメェは片方しか気付かなかったみたいだが、随分と間抜けなヤツだなぁ!」
……ああ、ボスは少しでもゾーマを煽って、精神的に優位に立とうとしているのか。
自分もボストロール戦で似たようなことしたわ。
「……ふん、それが何だというのだ。1匹増えようが100匹増えようが、虫けらごときに何ができよう。」
ボスの煽りはあまり効かなかったようだ。
「……その額に流れる汗さえなけりゃあ、格好良いセリフだったけどな。」
「ルビスの力すら与えられないゴミが随分と囀るものよ。……言っておくが、キサマらに希望なぞ一切ないぞ。」
「……そうだな、闇の衣があるお陰でな。」
「……っ!貴様ぁ!!なぜそれを知っている!!」
はじめて、ゾーマが動揺を見せた。
「アルス!」
「はい!!」
ボスの合図でアルスが光の玉を掲げる。
「なっ……!そ、それはまさか、竜の……!!」
ゾーマの周りを目映い光が包み込む。
「ぬ、ぬおぉぉぉ!わ、わしの……わしの衣があぁぁぁ!」
ひとしきり輝き続けていた光が、一気に弾けた。
同時に、アルスが掲げた光の玉も砕け散る。
「き、キサマら……なぜ闇の衣の存在を知っておった!?なぜこれを消す手段まで知っていやがったのだ!?」
セリフから察するに、無事に闇の衣が剥がれたようだ。
ゾーマの周りにあった瘴気のようなものも消え去っている。
「ふん、ルビスを……勇者を舐めてかかるからだ。ざまぁねぇな、ゾーマさんよ。」
「聞かれたことに答えろぉ!!」
ゾーマが怒鳴り声を上げている。
相当腹に据えかねた出来事だったのだろう。
「……おい、異世界の勇者様よ。あちらにいる裸の王様にお答えしてやりな。」
……っ!な、何でこのタイミングでこっちに振るんですか、ボス!?
前にも似たようなことがあったけど、流石にしんどすぎる場面ですよ!
「き、貴様かぁ!貴様のような得体も知れないヤツがぁ!!」
……恨みますよ、ボス。
「……ハーハッハッハー!わた……オレ様はなぁ、お前の全てを知りつくしているぞぉ!闇の衣しかりぃ!その解除手段しかりぃ!そしてぇ……凍てつく波動しかりなぁ!!」
……もうやけくそだった。
こんな偉そうなセリフをラスボスに吐くだなんて心臓に悪すぎる。
……ちなみに凍てつく波動とは、ダメージこそ受けないもののこちらの補助呪文の効果を全て解除してくる、ゾーマ固有の特技だ。
ついでに答え合わせをしておくことにしよう。
「貴様!わしの秘術まで知っておるのかぁ!」
あ、良かった、ちゃんとゲームと同じだった。
「ふん、他の能力も言い当ててやろうかぁ!?といっても、後は氷系統の攻撃だけしかできねぇんだよなぁ!?マヒャドと吹雪だっけかぁ!?」
もうこうなったらとことん煽ってやる。
……傍目にはどっちが悪者かわかったもんじゃない。
「き、貴様ぁ!一体何者だぁ!!」
あのゾーマが、かなり慌てている。
まぁ自分の力をこうも見破られるなんて、思いもよらなかった事なんだろう。
「もう忘れたかぁ!オレ様はルビス様に召喚された異世界の勇者だぁ!!お前のことは、全てルビス様から教わったものだぁ!!」
調子に乗って嘘まで混ぜ込んでやった。
「彼奴に……ルビスに知る術なぞあるものかぁ!」
「そこがお前の限界ってヤツなんだよぉ!」
……ここが私の限界ってヤツです、もう煽る言葉が思い浮かびません。
「……もうよい、貴様が何者であろうと知ったことか!キサマら全員、我が腕の中で息絶えるがよい!!」
想定外のハプニングがあって中座したものの、ゲームで見たゾーマの口上が無事に終わった。
「フバーハ!」
「スクルト!」
「バイキルト!」
「ルカニ!」
「ピオリム!」
同時に補助呪文が飛び交う。
――― いよいよ、最後の戦いが、始まる。
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