第43話 オルテガ

「カンダタさん……どうか、どうかお気をつけください。」

「まぁオレ達に任せておけ。ゾーマは勇者様に任せるが、そこまでの道は切り開いてやるよ。」


 いよいよ、ゾーマの居る城までやってきた。

 城内にある隠し階段を見つけて地下へと降り立ったところで、予定通り露払いの名目で先行することになった。

 厳しいことに、ここではトヘロスが一切効かない。

 さすがにラストダンジョンは甘くないっていうことなんだろうか。

 そのため、いつも以上にサポーターがお荷物と化している。

「はぐれメタル様々ねぇ。ここの敵もかなり強いけど、それでも危なげなくやれてるからねぇ。」

「そうね、エルスには感謝しなくちゃいけないわ。」

「ヴィクターもホント変わったわねぇ。少し前まではそんなセリフを吐くなんて信じられなかったのに。」

「それは……私もまだまだ未熟だったってことよ。」

「……ねぇ、エルスぅ。昨日の夜さぁ、ヴィクターと何かあったのかしらぁ?」

 ドネアさんが意地の悪い顔で聞いてきた。

「な、何のことでしょうか。」

「……ま、いいわぁ。全部終わったらじっくりと聞かせてねぇ、ヴィクター?」

「べ、別に聞かせるような……ううん、ドネアのお陰でもあるから、終わったらね……」

 昨夜の気恥ずかしさからか、今朝からヴィクターさんの顔をまともに見ることができない。

 それはヴィクターさんも同じらしく、こちらに視線を合わせてこようとはしない。

 ……でも、それまでの余所余所しい雰囲気は一切なくなっていた。


「……ふふっ、お二人は本当にわかりやすいですね。」

「えー、アリサは何かわかってるのー?」

「いずれ詳しい御報告があると思いますよ。私達はそれを楽しみに待つことにしましょうね♪」

 なんか、ラストダンジョンにいるとは思えないくらい暢気な空気だ。

「……ねぇボス、大丈夫ですか?なんか皆、危機感が足りてない感じですよ。」

「テメェこそ緊張しすぎた。ここで気張っても大事な場面でへばっちまったら意味がねぇ。テメェよりも他の4人の方が力の抜きどころ、入れどころをわかってるさ。」

 どうやら自分がビビってるだけのようだ。

 どっしりと構えれるほどの心の余裕ってのが欲しい。

「テメェの話を聞く限り、ゾーマの部下3体がオレ達にとって最大の山場になりそうだからな。」

 ゲームでは、ゾーマとの最終決戦直前に、ゾーマの部下であるバラモスゾンビ、バラモスブロス、そしてカンダタを倒したキングヒドラの3体とそれぞれ戦うことになる。

「オルテガを助ける際にキングヒドラを倒せりゃあ1体減らせる。そこが一番の気合いの入れどころだ。それまではもっと気を楽にしてろ。」

 ボスは、きっと何よりもオルテガのことを気にしているのだと思う。

 ……うまくゲームのストーリーを覆すことが出来れば良いのだが。


 地下4階にある大きな橋の前までやってきた。

「ボス、この橋を渡った先でオルテガが……」

「そうか。よしテメェら、ここがオレ達にとって一つの山場だ!気合い入れて……」

 突然、橋の向こうが大きく光るとともに、雷音が鳴り響いた。

「……チィ、始まっちまったのか!?急ぐぞ!!」

 ボスが一気に駆け出す。

「ピオリム!」

 少しでも早くたどり着けるよう、全員に呪文をかけて、走り出した。


「――― オルテガ!!無事かっ!!」

「……カ、カンダタ……か……?」

 橋を渡ったその先に一人の男が横たわっており、そこにキングヒドラが襲いかかろうとしていた。

「……テメェは、引っ込んでろ!!」

 ボスが強烈な一撃をキングヒドラに繰り出す。

「いっくよー!マヒャド!!」

 それにキャシーちゃんの攻撃呪文が追撃する。

「アリサ!オルテガを頼む!!」

「は、はい!」

 アリサさんはオルテガの元に回復へ向かう。

 しかし……

「ダ、ダメですボス!回復しても一時しのぎにしかなりません!」

「ど、どういうことだ!?」

「毒か呪いか……こちらでは対処できない力が働いてます!解毒呪文も効きません!」

「……テメェの仕業かぁ!!」

 ボスの怒りにまかせた攻撃がキングヒドラを襲う。

「ヴィクター!ボスに続くわよぉ!」

「わかったわ!エルスはそこでじっとしてて!!」

 2人の女性もボスに続いて攻撃に加わっている。


 ……こんな時に何も力になれない自分が、本当に恨めしい。

 ……でも、せめて、オルテガの延命だけでも!

「アリサさん!失礼します!!」

「エ、エルスさん?」

「モシャス!」

 アリサさんに変身する。

 自分の信用云々なんて、そんなのは些細な問題だ。

「私も回復を手伝います。ベホマ!」

 オルテガに回復呪文をかける。

「エルスさん、先ほど言ったとおり、回復しても……」

「わかってます。でもせめて……勇者がここに来るまで、オルテガさんには……」

「……わかりました。では2人で回復を続けましょう!」

 ……キングヒドラが倒れれば、オルテガを蝕む不可思議な力も消えるかもしれない。

 ……もはや……それにかけるしか……。


「トドメだ!このくそったれがぁ!!」

「ギャアァァァァ!!!」

 2度目のモシャスを唱えてオルテガの回復を続けている最中、ボスがキングヒドラを倒したようだ。

「アリサ!オルテガは!?」

「ダメです……オルテガさんを蝕んでいるものが消えません……」

「くそ……!おい、エルス!何とか……何とかならねぇのか!?」

 ……ボスの声に、黙って首を振るしかなかった。

「カンダタさん!そちらで何が……!?」

 ここでついに勇者達がやってきた。

「おい、オルテガ!テメェの息子が来たぞ!しっかり気ぃもちやがれ!!」

「……えっ?オルテガって……と、父さん!?」

 勇者がオルテガの元に駆け寄ってくる。

 ボスも一緒に側にやってきている。

「……カンダタ……そこにいるのは……オ、オレの……息子か……」

「あぁそうだ!テメェがアリアハンに置いてった、一人息子のアルスだ!」

「父さん!父さん!僕です、アルスです!」

「……そうか……立派に……なったな……」

「マール!回復を!!」

「う、うん!ベホマ!キアリー!」

 マールが回復呪文や解毒呪文を唱えるも……

「……ダメ……ベホマも、キアリーも……効かないわ……」

「な、なんで!?ベホマ!!」

 勇者も回復呪文を唱えるが、オルテガの顔からは精気が失われていっている。

「……アルス……すまない……後は……お前に……母さんを……」

「父さん!父さん!!」

「……カ、カンダタ……息子を……た……の……」

「ふざけるな!……おい!!オルテガぁ!!」

 ……オルテガは、ボスの怒声に、答えることはなかった。

 声を発することが……できなくなったから。


 ――― 幾らゲームの知識があっても、訪れる悲劇を知っていたとしても、それを防ぐことができなかったら何の意味もない。

 ただでさえ戦闘でも非力なのに、大事な場面でも役に立つことが出来なかった。


 それが……たまらなく悔しかった。

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