第41話 合流

「――― まさか、カンダタさん達がこの世界に来ていたなんて。」

「色々と調べてたらこの世界の存在にたどり着いてな。バラモスは勇者様に任せて、ちょいとこの世界を調べてたってわけだ。」

「もしかしてゾーマの存在についても御存知だったんですか?」

「……ゾーマという名前までは上の世界ではわからなかったがな。ヤバイ奴が居るっていう情報は掴んでいた。」

 うまく誤魔化しながらボスが勇者に説明している。

 勇者達を待つと決めてから、ルーチンワークをこなしつつ過ごしてきた。

 その2週間後、勇者達がここリムルダールにやってきたのである。

「ゾーマの城に渡る手段が見つからなくてな。勇者様は何か掴んだか?」

「ええ、虹のしずくというアイテムが必要でして、時間はかかりましたがなんとかそのアイテムを手に入れてきました。それと、ルビス様が石像にされていたのですが、その封印も解除することができました。」

「ほう、ルビスまで封印されていたのか。ゾーマってヤツはかなりヤバイな。」

「ええ、あのバラモスを部下にするくらいですからね。でも、明日にはそのゾーマの居る城に渡ることができます。」

 虹のしずくやルビス様についても既にボスには話していたが、ボスはそれをぼかしつつ勇者に話を合わせている。


「そういえば、上の世界にいる竜の女王が持っているアイテムが必要になるかもしれんと勇者様に言ってあったが、ちゃんと回収できたか?」

「ええ、ラーミアを復活させてからバラモス城に行く前に竜の女王様にお会いして光の玉というアイテムを頂戴致しました。ただ、バラモスと戦った時にもそれを使う必要はなかったのですが……」

「ゾーマというヤツは闇の衣ってのを身に纏っていやがるらしくてな。その衣がある限りゾーマに傷一つ付けられないらしいんだが、その衣を引っぺがすのにそのアイテムが必要になるようだ。」

 実に白々しくボスが答えている。

「カンダタさん、よくそこまで調べられましたね。こちらでも色々と情報を集めて回っていたつもりだったのですが……」

「まぁオレ様には色んなツテがあるからな。」

「ホントに凄いですね、カンダタさんって。」

 この世界にまでツテがあるなんて普通は思えないはずだけど、勇者にはボスが単に凄い人だと見えているらしい。

「す、凄いわね、あなた達のボス。一体何者なの?」

 サラキアも驚いている。

「ボスは本当に凄いですよ。何と言ってもあのオルテガさんの仲間だった人ですから。」

「えっ!!カンダタさん、父を御存知なんですか!?」

「おい!アリサ!!」

「すみません、ちょっと口が滑っちゃいまして。」

 ……アリサさん、確信犯ですよね。

「カンダタさん!父のこと、色々と教えてください!僕は物心が付いた時から父の記憶があまりなくて……」

「いや、あのな……」

「そうだ!ここではなんですし、これから僕の泊まっている部屋に行きましょう!そこで色んな話をお聞かせください!」

「わ、わかったから、腕を引っ張るんじゃねぇよ……」

 ボスがここまで困っている姿は珍しい、っていうか初めて見た。

 アリサさんといい、どうやらボスは押しの強い人間に弱いらしい。


「……色んな縁があるものなんですね。だからカンダタさんは私達を助けてくれたのでしょうか。」

「そうですね、ボスはオルテガさんのことも、その息子さんであるアルスさんのことも、かなり気にされていましたから。」

 およそ反省した素振りなぞ見せずにアリサさんが僧侶マールの質問に答えている。

 ……この人だけは敵に回してはいけない。

 ボスが勇者に拉致られて退席した後、勇者の仲間3人とボスの子分5人で1つのテーブルを囲んでいた。

 キャシーちゃんは相変わらず魔法使いソフィと呪文談話を繰り広げている。

「そっちはみんなレベル50を超えてるのね、ちょっと驚きだわ。」

「はぐれメタルを狩りまくったからねぇ。それで一気にレベルが上がったのよぉ。」

「へぇ、この辺りで出てくるんだ。もっと早く知ってたらなぁ。」

「サラキア達はレベル42前後ってことだけど、もうそれ以上は上げるつもりはないのねぇ。」

「アルスは一刻も早く世界を救うべきだって言ってるからね。」

 ドネアさんとサラキアの会話を聞く限り、勇者はとにかくスピード決着を求める節があるようだ。

 そういや、アリアハンを旅立ってからロマリアに到着するまでも早かったもんな。


 呪文談話やメタル話などが繰り広げられている中、自分の隣に座っているヴィクターさんは、ずっと押し黙ったままこちらを見ようともしない。

 ……いや、チラッ、チラッとこちらの様子を伺っている感じはするのだが、こちらから視線を向けると目をそらされてしまうのだ。

 2週間前の夜ドネアさんに何か言われたのか、それ以来、ヴィクターさんが自分に対して余所余所しくなっている。

 ……さすがに堪えきれなくなった。

「……あの、ヴィクターさん。」

「は、はい!……なにかしら?」

「あ、いえ、何か様子がおかしかったのでお声がけしたのですが、大丈夫ですか?」

「な、なにもないわよ。お、おかしなエルスね。」

 おかしいのはヴィクターさんの方です……って言いかけたが止めておいた。

「ひょっとして、私が何か粗相でもしてしまったのでしょうか。もしそうであるならば謝罪したいのですが……」

「あ、あなたは別に何もしていないわよ。……そう、何もしてこないのよ……」

 語尾の方はボソボソって呟く感じだったが、どうも自分が何もしていないことに問題があるらしい。

 ……何だろう?自分は知らないうちに大事な役割でも放棄しちゃってるのだろうか。

「あの、私は、何か重大な見落としでもしてしまっているのでしょうか。」

「……私にもよくわからないわ……」

 やはり自分はやるべき何かをやっていないみたいだ、しかも天然で。

「ヴィクターさん、気になるのでどうか教えてくれませんでしょうか。私は一体何をすべきで……」

「はいはーい、そこまでよぉ。」

 ドネアさんが割って入ってきた。

「エルスはさぁ、その辺りのことは自分で判断して、そして決断しなきゃダメなのよ。他人に、ましてや女性に言われてやることじゃないわぁ。」

「しかしドネアさん。ホントに情けない話ですが、私には見当もつかなくて……」

「まぁあんたがヘタレなのはわかってるけどねぇ。それでもってことよ。」

「なに?またアナタのヘタレがなんか問題起こしてるの?」

 サラキアも食いついてきた。

「まぁ半分はそうねぇ。もう半分は別に原因があるんだけどさ。」

「ふーん、何か色々と面白いコトが起きてそうじゃない。」

「あっちでじっくりと教えてあげるわぁ。お酒のおつまみにはピッタリよぉ♪」

 ドネアさんとサラキアが2人揃ってテーブルの隅に移動してしまった。

 なんだか下世話な雰囲気がする。

「……ごめんなさい、私は先に上がるわ。皆はゆっくり楽しんでてね。」

 ヴィクターさんが俯いたまま立ち上がり、そのまま酒場から出て行った。

 ……ホントにどうしちゃったんだろうか。

「エルスー、ヴィクターを追いかけなさーい。」

 ドネアさんが声を上げてきた。

「そーよー、レディを1人で帰すんじゃないわよー。」

 それにサラキアも乗っかってくる。

 言われるがまま、よくわからないまま、ヴィクターさんを追いかけることになった。


 学生時代も、社会人だった頃も、人付き合いっていうのがひどく億劫だった。

 集団行動よりも1人で居る方が気楽だったからだ。

 そのためか、こういったことで苦労するなんて今まで経験がない。


 ……他人と向き合うってことを、きちんとしてこなかった罰なのだろうか。

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