第38話 はぐれなアイツ
「――― こっから渡るってわけか。」
ラダトームを出発して1週間後、勇者達がゾーマの城へ渡る予定となっている所までやってきた。
「泳いで渡れねぇ距離でもねぇが……装備とかもあるし、なによりこの海がやっかいそうだな。」
目の前にある海は、所々に渦が発生するなど、かなりの荒れ模様だ。
素人目で見ても、ここを泳ぎきるのは至難の業だと感じられる。
「……オルテガの野郎、どうやって渡りやがったんだ?さっぱりわからねぇ。」
ラダトーム、マイラの村、リムルダールの街と3カ所でオルテガに関する情報を収集していたものの、その成果はさっぱりだったためか、ボスはイライラしている。
「ねぇボス。トベルーラみたいにどっかの国で産み出された術とか呪文とかってないですかね。」
「他にそんな呪文があるなんて聞いたことも……いや、まさか……?」
ダメ元で質問してみたんだが、ボスには何か引っかかるところがあったようだ。
「……オルテガの野郎、ひょっとするとトベルーラを改良しやがったかもしれん。」
……トベルーラを改良って、浮いたまま前進するって感じにしたんだろうか。
「でも改良って、そんなこと出来るもんなんですか?」
「そもそもトベルーラ自体がルーラを改良した術だからな。その術を更に改良することも理屈では可能だろう。」
まぁ確かに、理屈ではそうなんだろうけども。
「……他に手がかりもなさそうだし、オレ様は色々と試行錯誤してみる。てめぇらはその間、はぐれメタルを狩りまくれ。」
要はいつものルーチンワークだ。
ただし、その相手はかなり特殊だけど。
ゲームと同様、はぐれメタルはリムルダールの街周辺で多数の群れを何度も見つけることができた。
コイツの最大の問題点は、その圧倒的な守備力と素早さだ。
攻撃呪文や補助呪文も一切受け付けず、しかもすぐに逃げ出してしまうため、うまく遭遇できても倒せる確率は結構低い。
「それで、どうやって倒せるんだ?」
はぐれメタルの特徴をラダトームで皆に報告していたときの話だ。
「倒す方法は大きく分けると3つあります。1つ目はとにかく攻撃を当て続けて4~5回ほどダメージを与えるか、会心の一撃を出せれば倒せます。」
「会心の一撃って、武闘家の私とかだとよくコレだっていう攻撃を繰り出すことができたりするんだけど、それのことかしらねぇ。」
「その辺りの体感はサポーターの私にはわからないですが、おそらくはそれかと。」
ゲームでは武道家が会心の一撃を頻発して輝いていた。
「2つ目は毒針で攻撃することです。うまく急所を突ければ1撃で倒せます。」
「ああ、カザーブの道具屋で頂いてきたヤツだな。」
以前、何かの拍子でボスに毒針の話をしたら、その翌日にボスが取ってきた。
その時は相変わらず抜け目ない人だと呆れたんだが、今思えばファインプレーだったというわけだ。
「3つ目ですが……キャシー、ドラゴラムっていう呪文は使える?」
「うん、使えるよー。これまで使い道がなかったんだけどー。」
「ドラゴラムという呪文でドラゴンに変身して炎を吐けば、これも1撃で倒すことができます。」
ちなみに、このゲームはシリーズもので、シリーズによっては聖水でも1撃で倒すことができたが、この作品においてはそれはできなかったはずだ。
「……じゃあ、オレ様とヴィクターとドネアはひたすら先手を取って攻撃、アリサは毒針で、キャシーはそのドラゴラムとやらでいけば、何匹かは倒せそうだな。」
「……あのぉ、私をお忘れではないですか?」
「話を聞く限り、テメェだと攻撃する前に逃げられるだろうし、攻撃できたとしても簡単に避けられそうだからな。ピオリムをかけるだけじゃレベルは上がらねぇし、テメェは期待できねぇだろうな。」
……ずっと思っていたことだが、この世界における最大の不満点はそこにある。
幾ら何でもサポーターが不遇すぎやしないか。
攻撃手段を一切持たない職業だから、他の職業よりもレベルを上げるのが大変すぎる。
……やはりアレフガルトに来る前に転職すべきだったかもしれない。
「まぁエルスには戦闘以外の所で役に立って貰ってるんだし。無理にレベルを上げなくても私が守ってあげるから大丈夫よ。」
そうですね、いつもの構図ですね、ヴィクターさん。
……でもね、はぐれメタルって、何て言うか……そう、ロマンなんですよ。
誰だってこいつと戦いたい、そして倒したいって思わせるようなモンスターなんです。
あの銀色に輝くボディに、プレイヤー達は誰しもみんな心惹かれているんです。
なにより、あの倒した後の連続するレベルアップ音が気持ちいいんですよ。
……この世界ではそんな音なんて鳴らないけど。
「まぁとにかくやってみるか。リムルダールに着いたら、早速ソイツらを探して戦ってみるぞ。」
で、実際に戦ってみた。
ボスとドネアさんと星降る腕輪を装備したヴィクターさんは、はぐれメタルよりも先に攻撃できている。
はぐれメタルが残った場合は、アリサさんが毒針で攻撃した後、あらかじめドラゴラムを唱えてドラゴンの姿で待機していたキャシーちゃんが、炎を吐いて残ったヤツらを一掃するという流れだ。
素の素早さが最も低いサポーターに出番なんて一切なかった。
一度キャシーちゃんに炎を吐くのを待って貰ったのだが、無情にもその間にヤツらは逃げてしまった。
……何ともヒドすぎる話だ。
「凄いですね。レベルがどんどん上がっていきます。」
アリサさんは思いのほか器用だった。
また、いわゆる「運のよさ」っていうステータス値も高いのかもしれない。
……ただ、毒針を駆使してヤツらの急所を笑顔でプスプスと突いていく姿は、シュールを通り越してちょっと怖かった。
「ドラゴラムって結構面白いねー、クセになりそー。」
キャシーちゃんのドラゴラムも凄かった。
変身したドラゴンの姿もインパクトがあったが、そっからの炎攻撃もかなり強烈なものだった。
はぐれメタルの銀色ボディが、あんなにあっさりと溶けて無くなるなんて。
「私達は1撃で倒すのは中々難しいわね。」
「そうねぇ。それでも今日1日がかりでやって1人頭5匹は倒せてるから、そんなに問題はないかしらねぇ。」
「まぁこんだけ狩れれば十分だな。しかし、まさかオレ様のレベルまで上がるとは思わなかったぜ。」
ボスのレベルが幾つなのかは知らないが、とにかく羨ましい話が不遇職の目の前で繰り広げられている。
……仕方ない、背に腹は替えられない。
こうなったら奥の手を使わせて貰おう。
自分の信用に関わることだから、これまでずっと避けていた。
でも、こうやって置いてけぼりにされるのを我慢できるほど、自分はできた人間なんかじゃない。
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