第34話 ジパング
無事にシルバーオーブを回収し、サマンオサに戻ってきた。
ボスは、洞窟で見つけた2つのアイテムと共に、アリアハンにあるルイーダの酒場にオーブを預けに飛んでいった。
……稲妻の剣、使ってみたかったなぁ。
「あ、エルスさん!」
聞き覚えのある声がしたので振り向くと、かの勇者達御一行様がいた。
「丁度良かったです。カンダタさんに少し御相談したいことがありまして。」
「ああ、ボスはつい先ほどアリアハンに向かいましたよ。無事にオーブが見つかりましたので、ルイーダの酒場に預けているはずです。」
「そうだったんですね、ありがとうございます!では今から向かえば……」
「ああ、でもボスはその脚で別の所に向かうとも仰ってました。その行き先までは聞いていないんです、申し訳ありません。」
「あ、そうなんですね……」
勇者は少しガッカリした様子だが、すぐに気を取り直してこちらに向き直った。
「皆さん、これから一緒にお食事でもいかがですか。皆さんにも御相談した方がよろしいかと思いまして。」
「ええ、勿論構いませんよ。皆さんもよろしいですよね。」
アリサさんが代表して答えてくれる。
「ねぇねぇ、ソフィちゃん!さとりの書の解析、どこまで進んだか教えてー。」
「ええ、勿論です。私もその件でキャシーさんに御相談したかったから。」
「じゃあみんなー、この前のトコに行っくよー!」
というわけで、勇者達と2度目の会食となった。
「八岐大蛇……ですか。」
「ええ、ジパングという国にいる化け物のことなんですが。ジパングを治めている卑弥呼という方から、八岐大蛇を退治すればオーブを渡すと言われているんです。で、実際に討伐に向かったのですが、途中で逃げられてしまいまして……。」
実は、ゲームではこの卑弥呼は八岐大蛇が化けている。
ジパングのすぐ側にある洞窟にいる八岐大蛇を倒すとジパング国内に逃げられてしまうのだが、そこで卑弥呼に化けた八岐大蛇をもう一度倒す必要があるのだ。
勇者達はそれに気付かなかったということなのだろうが、まぁ無理もない。
ゲームではわかりやすかったが、現実世界ではそんなの予め知らなければ中々気付くことはできないだろう。
……うちのボスなら勘付きそうな気もするけど。
「卑弥呼様からは八岐大蛇の死体を証拠として持ってくるよう求められております。何とか逃げられる前に倒したいのですが、それでカンダタさんにお知恵なり御協力を頂けないかと思いまして。」
なるほど、勇者達だけでは難しそうだからボスを頼りに来たのか。
こういった柔軟な考えを持つようになったのも成長の証なのだろう。
なんだか嬉しくなってきた。
「明日にはボスもサマンオサに戻ってくると思います。その時に改めてボスにも相談してみましょう。ボスのことですから、何かしら勇者様のお力になってくれるかと思いますよ。」
「た、助かります!本当に申し訳ありません。」
アリサさんの答えに勇者が喜んでいる。
勇者の中で、ボスは頼れる大人ってヤツに進化したのかもしれない。
「――― それで、どうすればいいんだ?」
勇者達と会った日の夜にボスがサマンオサに戻ってきたため、勇者と打ち合わせる前に我々だけで話し合うことになった。
ちなみに、その勇者達はサマンオサの城下町にある宿に逗留している。
……とりあえず、ゲームで知ってることを皆に話した。
「……なるほどな。それなら勇者達と2面作戦でいくか。」
「2面作戦ですか。具体的には?」
「勇者達がその洞窟にいる八岐大蛇と戦う。そのまま倒せればいいが、もしジパングに逃げ込んだら、それをオレ達が倒せばいい。」
「卑弥呼に化けますけど、どうしましょうか。」
「あん?そのためのラーの鏡だろ?」
まさか、またラーの鏡の出番がくるとは。
……そういえば、あの鏡はもう用済みだと思ってキャシーちゃんにあげるって言ってしまったけど、どうしたんだろう。
「ねぇボスー。あの鏡さー、もう魔力が残ってないよー。」
「なんだそりゃ。1回こっきりで終いだったってことか?」
「そうみたいだねー。今はただの鏡になっちゃってるっぽいよー。」
だからゲームでもボストロール戦のみでお役御免だったのかな。
「……おい、エルス。八岐大蛇が逃げ込む場所ってのは具体的にわかるか?」
少し考え込んでいたボスが聞いてきた。
「卑弥呼が居る部屋ですね。」
「じゃあオレ達がそこで張っておくしかねぇな。卑弥呼に変身される前にやるぞ。」
「見張りとか居ると思いますよ。」
「レムオルがあるだろ。」
なるほど、レムオルで姿を隠して潜伏しておくということか。
何だかんだで役に立つなぁ、この呪文。
「勇者達には全て話しておくんですか?」
「……卑弥呼が八岐大蛇だって言っても俄には信じられねぇだろうな。明日、オレ様の方から上手く勇者に説明してやるさ。」
ボスは口も達者だからなぁ、上手いこと騙すつもりなんだろうか。
翌日、勇者達と再度合流し、今回の作戦がボスから説明された。
「――― カンダタさん達が洞窟の外で見張ってるということですね。」
「そうだ。逃げるって言ってもな、勇者様に傷つけらた状態では、そう遠くには行けねぇだろうと踏んでいる。」
「なるほど、そうかもしれませんね。」
「まぁ何度か試す必要があるかもしれんがな。……それよりもだ、勇者様から見て卑弥呼ってヤツはどう見えた?」
「卑弥呼様に限らずですが、ジパングという国はかなり閉鎖的でして、外の国から来た人を歓迎する素振りすらありません。……そういえば、卑弥呼様は一時体調が優れないからってことで、僕達との面会すら断られてしまいました。」
勇者にやられた傷の療養に努めていたのだろう。
「……ひょっとしてだが、それは勇者様が八岐大蛇と戦った後か?」
「そうですね、言われてみれば確かにその頃でしたが……」
ボス、これ幸いとばかりに、勇者にヒントを匂わせてきた。
「――― カ、カンダタさん、もしかして……!」
「ああ、勇者様もそう思ったか。」
流石の勇者も気が付いたようだ。
「で、でも、国の長が化け物だなんてあり得る?」
サラキアが口を出す。
「サマンオサでもバラモスの部下とやらが王様に化けていやがったからな。十分にあり得る話だろ。」
「そうか、だから卑弥呼さ……卑弥呼は、最初から僕達を避けるような態度でいたのか。」
「勇者様も思い当たる節が色々とあるみてぇだな。よし、じゃあオレ達は卑弥呼が居る部屋で待ち伏せておく。勇者様は洞窟で1戦したらすぐにそこまで来い。」
「卑弥呼を直接倒しては駄目なんでしょうか。」
「卑弥呼の姿のままで倒しちまったら国際問題になりかねんからな。八岐大蛇になったままの状態で倒した方がいい。」
「そ、そうですね……でもカンダタさん達を危険な目に遭わせるのは……」
「勇者様が洞窟で八岐大蛇を倒してくれればそれで問題ねぇし、例え逃げられたとしても手負いのヤツなんかにドジは踏まねぇよ。まぁ勇者様が頑張ってヤツを瀕死に追い込んでくれりゃあ、それだけこっちも助かるってもんだ。」
「は、はい!できるだけ、カンダタさん達に負担をかけないよう頑張ります!」
おお、敵対からの、和解からの、協力からの、共闘だなんて、まさに男心を擽る展開じゃないか!
これだよ、これ。これこそ皆が求めているストーリーなんだ!
「……そん代わり、ジパングから報酬が出たら、ちゃんと分け前を寄こせよ。」
――― なんでそこでオチをつけるんですか、台無しじゃないか……
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