第31話 幽霊船

「ね、ねぇ。幽霊って、冗談でしょう?」

「ゲームではそうだったわけですが、こちらではどうなんでしょうかね。」

 ボスが船乗りの骨を手に入れ、今は船旅を満喫している。

 中世時代の船っていう感じだが、船旅ってのも中々悪くないものだな。

 ロマリア半島を過ぎた辺りで幽霊船のことについて皆に具体的な説明をすると、ヴィクターさんの顔がどんどん青ざめていった。

「幽霊なんて、い、いるわけ、ないわよね?」

「私のいた世界ではモンスターすらいなかったわけでして。そのモンスターがこの世界にいるってことは、幽霊もいるのでは?」

「そ、そんな……」

 高い所といい幽霊といい、ヴィクターさんは女の子らしい弱点を色々とお持ちのようだ。

「幽霊とはいえ、最後は恋人同士が結ばれるんでしょ?素敵じゃない。」

 かたやドネアさんは、幽霊だろうがモンスターだろうが、恋愛事となるとその目を輝かせる。

「おう、どうやら例の幽霊船とやらが見つかったようだぜ。」

 ボスが船室にやってきて教えてくれた。

 看板に出てみると、いかにもっていう雰囲気を醸し出しているオンボロの大きな船が漂っているのが見える。


「――― そんじゃ船長さんよ、とりあえずあそこに見えている船まで寄せてくれ。オレ達が飛び移れるくらいの距離までな。」

 流石にボスは全く動じていない。

 船長さんも船員さんたちも、まさかこんなところに付き合わされるだなんて、思ってもみなかっただろう。

 船が幽霊船に近づいていく。

 幽霊の1匹や2匹、出てきてもおかしくない雰囲気だ。

 ヴィクターさんの顔色が更に青ざめている。

「そんじゃあ乗り込むぜ。ドジって海に落ちたりすんなよ。」

「エルスくらいよぉ、心配なのは。」

 ドネアさんからの評価がよくわかるセリフだ。

 身長ほどの幅があったが、その評価を覆すべく何とか飛び移ることに成功する。

「エルス、道案内たのむぞ。」

「了解です。すぐ近くにあるはずです。」

「おい船長。こっちはもういいから、とっととポルトガまで戻んな。」

 船長さん、これ幸いとばかりにとっとと離脱していった。


「……貴方達はどなたですか?」

 ペンダント「愛の思い出」を発見したところで、一人の青年が話しかけてきた。

 ヴィクターさんが、こちらの裾をギュッと掴んで離さない。

 ……普段は見せることのない、こういった姿が萌えポイントなのだ。

「あなた、ひょっとしてリックさんですか?」

「ええ、そうです。よく御存知ですね。」

「そいつは誰だ、エルス?」

「このペンダントの本来の持ち主さんです。オリビアさんの恋人ですよね。」

「オ、オリビアのことも御存知なんですか!?彼女は無事なんでしょうか!?」

 ああ、そうか。

 リックは、オリビアがリックの死を苦にして自殺したってことを知らないんだ。

 ……真実を伝えるしかないよなぁ。


「――― そうですか、オリビアも亡くなっていただなんて……」

「そのオリビアさんですが、恋人のあなたへの思いというか無念があって成仏できないようなんです。それで、このペンダントを捧げれば成仏できるかと思いまして。」

「わ、わかりました。私の魂もそのペンダントに込めておきます。そちらをオリビアに捧げてくれれば、私が彼女を成仏させることができるかと思います。」

 ああ、ゲームで見たリックとオリビアの成仏シーンの裏には、こういった仕組みがあったのか。

「では皆さん。どうか、どうかよろしくお願い致します……。」

 その途端、リックの姿が消えると同時に、「愛の思い出」に光が灯った。

 おそらくこれでオリビアの岬も通れるようになるはずだ。


「ね、ねぇ、エルス。さっきのリックさんってやっぱり……」

 ヴィクターさんが少し怯えながら聞いてきた。

「ええ、幽霊だったようですね。今はこのペンダントに宿っているみたいですが。」

「そ、そうなのね。でも、思ったよりは、こ、怖くなかったわね。」

 声が震えているけど、紳士だからそれには気付かないフリをしておこう。

「悲恋よねぇ。ちゃんと成仏させてあげないと。」

「そうですわね。リックさんとオリビアさんには現世で果たせなかった幸せを天国で叶えてもらわないといけません。」

 ドネアさんとアリサさんは2人の恋物語に浸っているようだ。

「幽霊って不思議だよねー。どういう仕組みなんだろうなー。」

 キャシーちゃんは相変わらずだった。

「ボス、これでおそらく大丈夫です。次に向かいましょう。」

「わかった。一度ポルトガまでルーラで戻る。そっからはまた船旅になるが、さっきの船が戻るまではポルトガで待機だな。」


 さっきの船長さんたち、次も幽霊に会いに行くなんて、思ってもいないだろうなぁ。

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