第29話 再々会
「――― では、サマンオサは無事に平和を取り戻せたのですね。」
「まぁな。で、これが変化の杖ってヤツだ。勇者様はこれが必要なんだろ?この2つのオーブと一緒にくれてやるよ。」
「オ、オーブまで持っていらっしゃったのですか、カンダタさん!?」
「ちょっとした機会があってな。オレ様には必要ねぇシロモノだから、遠慮なく持っていってくれ。」
「な、何から何まですみません。」
サマンオサの解放から10日ほどが過ぎた。
今、我々カンダタ一味は、サマンオサの城下町にある酒場にいる。
一緒に食事しながら喋っている相手は、あのアリアハンの勇者様御一行だ。
「……なんだか信じられないわね、盗賊連中とこうして仲良く食事しているなんて。」
戦士サラキアが話しかけてきた。
「えっと、私達は勇者さん達からまだそう思われているんですか?」
「あ、ごめんね、そんなつもりで言ったわけじゃないのよ。ただ、ロマリアの時には敵対してたのに不思議だなって思って。」
「そうですね。でもこれも縁ってヤツですよ。」
まぁゲームの知識をボスが活用した結果から生じた縁にすぎないわけだけど。
ボスと勇者アルス、自分とヴィクターさんとサラキア、アリサさんとドネアさんと僧侶マール、そしてキャシーちゃんと魔法使いソフィが、それぞれ小さなテーブルを囲んでいる構図となっている。
「それでねー、これがさとりの書っていうやつなんだよー。」
「さとりの書ですか……?どういった書物なんでしょう?」
「いわゆる呪文の理ってやつが書かれていてねー。これが解析できれば僧侶と魔法使いが扱う全ての呪文が使えるようになるよー。ソフィちゃんは古代文字は読めるー?」
「よ、読めますが……それってあの賢者になれるってことですか!?」
「まぁそんな感じだよねー。私はもう解析終わったから、ソフィちゃんにあげるー。」
キャシーちゃんはやはり天才だな、もう解析が終わったのか。
ボスの方をちらりと見やると、こちらに向かって軽く頷いていた。
さとりの書はもう必要ないということらしい。
「よろしいのですか、私が貰っても。」
「うんうん、一緒に賢者ってヤツになろうよー。」
「はい、頑張ります!」
まぁこれで勇者パーティにも賢者が誕生するってわけだし、良いことだ。
……他のアイテムは勇者に渡す素振りすら見せないのな、ボス。
あの雷神の剣もボスが持ってるままにしてるっぽいし。
「――― カンダタさん。僕達と一緒にバラモス退治をして頂けませんか?」
勇者がとんでもないことをボスに提案していた。
「……気持ちはわかるがな。勇者様御一行はルビスの加護があるから死んでも教会で生き返ることができるんだろ?オレ達にはそれがねぇからな。流石に命を賭けてまでというわけにはいかねぇよ。」
「そ、そうですよね……。」
「現にここサマンオサでも子分が一人死にかけたしな。まぁ、そいつがドジったのが原因なんだが。」
ボス、相変わらず辛辣ですね。
もう少し私という存在を有り難がってくれても良いと思うんですが。
「……ねぇ。その死にかけた子分って、アナタのことなんでしょう?」
「え、ええ。サラキアさん、よく御存知ですね。」
「さっきドネアさんって人から聞いたわ。」
ドネアさんも口が軽いなぁ。
他の人にも触れまわったりしているんだろうか。
「なんでもそちらにいるヴィクターさんを庇ったそうね。シャンパーニで逃げ回ってた人の行動だとは思えないわ。」
ああ、あの時はそうだったな。
ていうか、ボストロール戦だって基本的には逃げ回っていたんだけど。
「まさにお姫様を守るナイトって感じじゃない、見直したわよ。……アナタって中々イイ男ねぇ、よく見たら顔もイケてるし。」
……なんか、随分と距離が近くないですか?
「……ちょっと。あまりこの人のことを信用しない方がいいわよ。お調子者なんだから。」
……ヴィクターさん、まだ私のことを信用してくれてないんでしょうか。
「……あらら?もしかして売約済みだった?」
「どういうことよ?」
「えっ?だって、私の男に手を出すなってことなんでしょ?」
「ち、違うわよ!わ、私はただ、この男の毒牙にかかってしまう女性を見過ごせないだけで……」
「……ねぇ、ドネアさん。私って女性を毒牙にかけるような男に見えますか?」
あまりにもショックで、隣のテーブルにいたドネアさんに聞いてみる。
「アハハッ!アンタみたいなヘタレに、そんなことできるわけないじゃん!」
……思いっきり大声で笑われてしまった。
つられて女僧侶マールも笑ってしまっている。
「あ、ご、ごめんなさい。笑うなんて失礼でしたよね。」
「事実なんだから気にしなくていいわよぉ。」
「そうですよ、マールさんが気にされることではありません。エルスさんも反論なんてできませんからね。」
アリサさんも何気にヒドい。
「はぁ……せっかく見直したってのに。ヘタレって言われて否定できないなんてねぇ。」
「ご、ごめんね、エルス。私、あなたがヘタレだってこと、忘れてて……」
……ヴィクターさん、それは謝罪ではありません、追い打ちってやつです。
しかし子分Eでホントに良かった。
これが子分Hだったら、きっとヘタレに改名させられてたに違いない。
「――― バラモス退治は手伝えねぇがな。オーブ集めなら協力してやってもいい。」
「ホントですか!」
一方で、勇者とボスは随分と真面目な話をしている。こっちとはえらい違いだ。
ていうかボス、次はオーブ集めを手伝うおつもりですか。
……そういえば、ボスが勇者を気にかけている理由をまだ聞いてなかったな。
「残り3つか。どこにあるか把握してるか?」
「1つだけ、ランシールにあるということを山彦の笛というアイテムを使って確認出来ています。そこで色々と情報を集めていたところにサマンオサの件が耳に入りまして、先にそっちを解決すべきだと思ったわけなのです。」
ああ、山彦の笛か。
オーブがある場所で吹くと山彦が返ってくるとかいうヤツだったな。
それと、勇者はきちんと情報収集をやるようになったんだな、とても感慨深い。
……親が我が子の成長を喜ぶ気持ちって、こういう感じなんだろうか。
「残り2つはまだどこにあるかわからねぇってわけか。……実はな、そのうちの1つについてはオレ様にアテがある。」
「そ、それはどこに?」
「ネクロゴンドの方だが、現状はそこまで行く手段がない。その手段を見つけるためには、さっき渡した変化の杖が必要だ。」
「で、でもこれは………」
「ああ、北の島にいるじいさんが欲しがってるんだろ?そのじいさんが持っているアイテムがキーになるんだ。変化の杖との交換でそのアイテムを頂く必要がある。」
「カンダタさん、一体どこでそんな情報を?」
「まぁオレ様には色んなツテがあるからな。」
いいえ、ゲームが出典元なだけです。
「それでだ。勇者様は把握していないみたいだから、ネクロゴンドにあるオーブはオレ様が請け負ってやる。」
「わ、わかりました、お願いします。ではこの変化の杖はお返ししますね。」
……なるほど、ボスの考えが見えてきた。
ゲームでは、ネクロゴンドに向かう途中にある祠に、サイモンの死体があった。
ヴィクターさんの目的も同時に達成させるつもりなんだろう。
「オーブを見つけたら、アリアハンにあるルイーダの酒場に預けておく。」
「何から何まですみません。ありがとうございます、カンダタさん。」
「礼なんざいらねぇよ。前にも言ったが、バラモスを倒してくれればそれでいい。」
勇者にはゾーマの存在について教えてはいない。
ボス曰く、今はバラモスの討伐に専念させるべきだということだ。
今の勇者は、以前に比べてだいぶ頼りになってきている。
これなら、バラモスもゾーマも勇者に任せておけば良い……よな?
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