第28話 顛末
「――― 食べながらでいいから聞いてね。ボストロールは無事に倒したわよぉ。」
久しぶりの食事にがっついているところに、ドネアさんが朗報を告げてくれた。
「そして、エルスが言ってたとおり杖を落としたわぁ。これが変化の杖ってやつねぇ。」
随分と歪な形をした杖だ。
「少し使ってみたんだけどさー、これも凄いアイテムだねー。まさかドワーフに変身するとは思わなかったよー。」
「ドワーフだけじゃなくて色んなものにランダムで変身できるアイテムだったかな。そこまで効果が持続するものではなかったと思うけど。」
「そうだねー、ボストロールはこの杖じゃなくて独自の術で王様に変身してたっぽいねー。わしの術とか言ってたしー。」
その術が切れた時に変身し直すために、ボストロールは本物の王様を生かしていたのだろう。
「それと何か凄い剣も落としたわよぉ。ボスがエルスに聞きたがってたけど、エルスは何か知ってるかしらぁ?」
……おいおい、まさか、あの「雷神の剣」か!?
……ドロップ率256分の1だぞ!?
「もしかするとそれは「雷神の剣」っていうヤツかもしれません。ゲームでもごく希にしか落とさないアイテムだったのでお伝えしなかったのですが。アレはいかづちの杖と同じ原理のもので、戦闘中に使うとベギラゴンの効果があったはずです。」
「ひえー、それって今の私が使える最強呪文と同じじゃーん。ちょっとヤバイでしょー。」
……いかづちの杖と同じ原理なら、ヴィクターさんやドネアさんには使えない。
……キャシーちゃんは既にベキラゴンが使えるから必要ない。
……アリサさんにはいかづちの杖がある。
……これは、いよいよ自分の出番がきたか!!
「ボスはオレ様が使うとか言ってたから、後でその効果をボスに教えてあげてねぇ。」
……ぬか喜びかよ、ちくしょー。
「それと本物の王様も無事に助けたわよ。いたく感謝されたわぁ。」
そうか、王様が無事だったのも何よりだ。
「父は……サイモンは、既にボストロールによってこの国から追放されたって王様も仰ってたわ……」
「そうですか……」
やはりサイモンの生存は絶望的なんだろう。
ヴィクターさんが悲痛な顔をしている。
「そういえば、ボスとアリサさんは今はどちらにいらっしゃるのですか?」
「ボスは王様とお話ししたりルーラでどこかに飛んでったりしてるわねぇ。アリサは街の復興のお手伝いをしているところよぉ。まぁ私達も手伝っているけどねぇ。」
この国はこれから復興に向けて色々と大変だろうからな。
「それで、王様がエルスにも是非お会いしたいから、目が覚めたらエルスを連れてきてくれないかって仰ってるわよぉ。」
「王様と謁見ってことですか。ちょっと気がひけちゃいますね。」
「ラーの鏡を見つけて偽物の正体を暴いた貢献にも報いたいってお話らしいからねぇ。断るのも無礼ってなもんよぉ。」
「……アレってひょっとして私が見つけたことになってるんですか?」
「そうよぉ。ボス曰く、オレ達が怪しまれる訳にはいかないけど、エルスならいいだろってさぁ。」
相変わらず子分Eの扱いがヒドい。
「……私もエルスと一緒に王様のところに行くわ。王様にお伝えしなきゃいけないこともあるから。」
ヴィクターさんが一緒に王様のところに行ってくれるみたいだ。
「お伝えすることとは何ですか?」
「……今後のことよ。父の代わりにサマンオサ国軍をお願いしたいって言われたわ。」
そうか、ヴィクターさんはこの国の英雄の娘さんだった。
王様の依頼も至極当然の話だろう。
……ヴィクターさん、いなくなってしまうのか、寂しいな。
「エルスが食べ終わったら、王様の所に向かうことにしましょうか。」
……急に食欲がなくなってしまった。
「――― 楽にしてくれ、エルス殿。この度は我が国を救ってくれたこと、誠に感謝する。いや、感謝という言葉では言い表せないほどだ。」
王様から大変有り難いお言葉を頂戴する。
王様の姿を見て、改めてボストロールは王様そっくりに化けていたんだと実感した。
……ボストロールを思い出して震えが出てきた。
トラウマになってなきゃいいけど。
「い、いえ、私なんぞは、あまりお役には立てておりませんでして……」
「何を謙虚なことを。ラーの鏡というアイテムを見つけてあの偽物の正体を明かすことができたのも、其方あってのことであろう。それに、そこにいる我が国の英雄であるサイモンの娘、セシリアを助けてくれたとも聞いておるぞ。」
……あ、ヴィクターさんって、本名はセシリアさんっていうんだ。
いかにも可憐なお嬢様っていう感じの名前だ、似合ってる。
「とんでもございません。全ては我らがボス、カンダタの指示に従った結果によるものであります。もちろん、ヴィクタ……セシリア様の御尽力もあってのことです。」
ヴィクターさんが半ば驚きつつも呆れた表情でこっちを見ている。
……こちとら庶民なんだ、こんな立派な場所で偉ぶるような立場なんかじゃない。
手柄はボスとヴィクターさんに全部押しつけてやろう。
「エルス殿は謙虚が過ぎるな。其方も含め、後ほどカンダタ達には国として幾ばくかのお礼を渡したい。是非とも受け取ってくれ。」
「は、ありがたき幸せ。」
こんなセリフを言う場面がくるなんて、人生とはわからないものだ。
「……さて、セシリアよ。先日の私からの依頼について、良い返事を期待したいのだが。」
ですね、ヴィクターさんにはこれからこの国の騎士として頑張ってほしい。
そりゃあ、ヴィクターさんがいなくなるのは寂しいけど、ヴィクターさんには平和になったこの国で幸せになって貰いたい。
「……王様、申し訳ございません。私は、その任をお受けすることができません。」
――― そう思ってたらまさかの返事だ。
もう偽物の王様もいなくなったのに、これからは騎士としてこの国にお仕えする機会ができたというのに……どうしてまた?
「……理由を聞かせて貰おうか。」
「はい……。私は今回の件を通して、騎士としてまだまだ足りないところが多すぎるということに気付かされました。今のままではこの国の力になることはできません。」
「そのようなことはない。カンダタからもオヌシはもう立派な騎士になったと聞いておるぞ。」
「いえ、私自身が納得できないのです。……それにもう一つ大きな理由があります。私は、父の行方を追いたいのです。」
「……しかし、サイモンはもう……」
「わかっております。おそらく父はもう生きてはいないでしょう。それでも、私は娘としてではなく騎士として、1人の誇り高き騎士の行く末を知る必要があります。」
「……そうか、まぁそういう答えになるとは思っていた。」
どうやら王様もヴィクターさんの答えを察していたようだ。
「……セシリアよ。サイモンの行く末を見届け、騎士として成長した暁には、必ずこの国に戻ってくるのじゃぞ。我が国は、そなたをいつまでも待っておるからな。」
「光栄でございます。必ず、この国に戻って参ります。」
「……何かアテはあるのですか?」
2人で街に向かう道すがら、ヴィクターさんに聞いてみた。
「……正直に言うと、何の手がかりも無いわ。だから、もう少ししたら私はその手がかりを探しに1人で旅立つつもりよ。」
「1人旅ですか、危険ですよ。」
「……私なら大丈夫よ。」
……こんなに大丈夫そうじゃない大丈夫っていう言葉は初めて聞いた。
「ボスは反対すると思いますけど。」
「ボスに反対されても、私は旅立つつもりよ。」
ヴィクターさんの意思は相当に固そうだ。
――― どうしよう、知っていることを話すべきだろうか。
一度、ボスに相談した方が良いかもしれない。
……その考えに至ってしまうあたり、やっぱりヘタレなんだろうな。
「……それとね、エルス。」
ヴィクターさんが改まってこちらを見てきた。
「あの時……私を庇ってくれて……、あ、ありがとう……」
もの凄く照れくさそうに御礼を言われた。
――― だから、こちらもドネアさんのアドバイスに従う。
「私も、心配かけてしまって……、も、申し訳、ありませんでした……」
……どもってしまった。
こっちも照れてるんだと思う。
「そ、そんなに照れくさそうに言わなくても……」
「い、いえ、ヴィクターさんの方こそ……」
何とも気恥ずかしい雰囲気になる。
――― これが青春っていうやつなのだろうか。
だとしたら、遅まきながら自分にも青春時代ってやつが到来したのかもしれない。
――― だったら、更にカッコつけてやろう。
「……ヴィクターさんが旅立つというのなら、私もお供しますからね。」
「えっ?……でもこれは私の個人的なことで……」
「私がそうしたいんです。ボスに反対されても、私は一緒に旅立つつもりですよ。」
ヴィクターさんは黙ってしまった。顔を真っ赤にして。
……ヴィクターさんが喜んでくれているかはわからない。
余計なことをって思われているのかもしれない。
でも、この可愛くて素敵な女の子を放っておくことなんて、自分には出来ないんだ。
――― 街の、平和を知らせる風が、2人を、優しく包み込んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます