第27話 目覚め

――― 目が覚めると、見覚えのない部屋のベッドで横になっていた。

 全身に気怠さはあるものの、痛みはない。

 ただし、もの凄い空腹感を覚える。

――― みんなは、ボストロールは、どうなったんだろうか。


「お、ようやく起きたねー。おっはよー。」

 いつもの元気なキャシーちゃんがこちらの顔を覗き込んできた。

「みんな心配してたんだよー。すぐにみんなを呼んできてあげるー。」

 どうやらみんな無事のようだ。

 その事実に、ひとまずホッとする。


「――― エルス!!」

 ヴィクターさんが息を切らせて駆けつけてきた。

 なんか、すっごい涙目になっている。

――― こ、これはひょっとしてアレか?

 ありがと!大好き!からのハグっていう流れか。

 ラノベとかでもよく見かけたパターンだ。


 そ、そうだよな、ここでDT云々なんて言い訳をするわけにはいかないよな。

 く、腐っても男だ、きちっと決めるべきところは決めないと。

 さ、さぁ、ヴィクター!この胸に、飛び込んでおいで!

「――― バカっ!!」

 ――― 罵声が飛び込んできた。


「なんで……なんであんな無茶なことしたのよ!死ぬところだったのよ!!」

「いや、あの、体が勝手にですね……」

「何が勝手によ!あなた、自分が弱いってこと、わかってないの!?」

「あ、あれ?おかしいな……」

 予想外の展開に戸惑ってしまう。

「サポーターは戦闘向きじゃないのよ!!ボストロールの攻撃1つで死んじゃうってことくらいわかるでしょ!?やっぱりエルスは攻撃に参加すべきじゃなかったのよ!!」

「アレはそもそも私のミスなんです。ゲームでは自動回復をする敵がいたのですが、ボストロールもそうだったってことを失念しておりました。あのままだといつまで経っても倒せないと思いまして。」

「そういうことじゃないのよ!!」

 どういうことでしょう?

「なんで……なんで私を庇ったりなんかしたのよ!?そんなことされて……私が喜ぶとでも思ってるの!?」

 ああ、そういうことか。

 自分を庇って死なれるのが嫌だったってことか。

 気がつけば、ヴィクターさんは怒鳴りながら涙を流している。


「私は……周りで誰かが死んだりするのなんて……もう耐えられないのよ……」

「……ヴィクターさん。私は、もし次に同じような事が起きても、きっと同じように助けてしまうと思います。」

「……っ!どうしてよっ!?私の気持ちがわからないの!?……あなた、同じ事されたらどう思うのよ!?」

「もちろん、今のヴィクターさんと同じように怒り狂うと思います。」

「だったら!!」

「でも、ヴィクターさんだって私と同じ立場だったら、私と同じ事をするでしょう?」

「そ、それは……」

 ヴィクターさんは、誇り高き騎士だ。

 仲間を見捨てるようなことなんて絶対に出来ないだろう。

「私もヴィクターさんと同じです。これからだって仲間がピンチになったら助けようとします。……でも今回は私がヘマをしたのも事実です。だから、次からはこんな目に遭わないよう、上手く助けられるよう頑張ります。それでは駄目ですか?」

「で、でも……!!」

「――― はいはい、そこまでにしときなさい。」

 いつの間にかドネアさんも部屋に来ていた。


「ヴィクターはさぁ、まずは助けてくれてありがとう、でしょう?まがりなりにも命の恩人なのよ、エルスは。」

 まがりなりにもっていう修飾語は必要でしょうか、ドネアさん。

「そんでエルスもさぁ、まずは心配かけてごめんなさい、でしょう?女の子がさぁ、目の前で泣いてるのよ?」

 DTにはその辺りの機微ってやつがわからないんです、ごめんなさい。

「……でもさ、エルスもやるじゃない。お姫様のピンチを助ける王子様だなんて、ありがちだけど素敵なシチュエーションだわぁ。」

「そうだよねー、あの時のエルス、格好良かったなー。死んだと思って焦ったけどねー。」

 キャシーちゃんも戻ってきていた。

「あの時さー、ヴィクターがバランス崩してヤバイって思ったら、エルスがすぐに動いてねー。エルスって王子様だったんだねー。」

「そんなロマンを感じられるようなシーンじゃなかったけどね。死ぬかと思ったし。」

「その自分の命を賭けてまでってところがイイんじゃない。ホントに死んじゃったりしたらアレだけど、こうやって生き残ったわけだし。後で思い返せば美談になるわよぉ。ねぇ、ヴィクター?」

「なんでそんな風に思えるのよ……。ドネアだって私と同じ立場になったら同じように怒るわよ。」

「どうかなぁ。そりゃあ怒るっちゃ怒るだろうけど、同時に恋心も芽生えたりするんじゃないかなぁ。そこら辺はどうなのよ、ヴィクターさん?」

「そ、そんなの知らないわよ。」

 ……そこは否定しないで欲しかったなぁ。


「で、エルスさん?もし相手がヴィクターじゃなくて私だったとしても、ちゃんと助けてくれたのかしらぁ?」

「それはもちろんですよ。相手がアリサさんでもキャシーでも同じように助けます。」

 ボスは対象外だけどね。

「はぁ……こういう時に「相手がヴィクターさんだったから体が勝手に動いたんです」とでも言えれば、堅物のヴィクターだって落ちるだろうにねぇ。ホント、大事なところでヘタレるわねぇ。」

 ……褒められるかと思ったら、バカにされてしまった。

「えー、いいじゃん、私も助けてくれるってことでしょー。ありがとねー、エルスー。」

 やっぱりキャシーちゃんはエンジェルだ。


「……すみません、そろそろボストロールのこととか、その後のこととか、色々と教えて貰えませんか。そももそ、ここはどこなんでしょうか?」

 色々と疑問が尽きない。

「ここはサマンオサ城内にある貴賓用の客室よ。アンタはここのベッドであれから丸々2日は寝込んでたわぁ。」

 2日も経ってたのか。

「そうねぇ、じゃあまずは……」

「あ、その前に。」

「なに?」

「申し訳ないのですが、何か食べるものを頂けませんか。」


 さっきから腹の虫が鳴き止まない。

 ……そういえば、この世界に来たときも同じ事を言ってた気がする。

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