第21話 進展?
「……ところでエルス、テメェのレベルは今いくつだ?」
拠点に戻った矢先にカンダタから尋ねられる。
「えっと、22まで上がりました。」
「新しい呪文はなんか覚えたか?」
「ニフラムっていう、ゾンビとかを消滅させる魔法を覚えました。魔石を落とさないっていう欠点付きですけど。」
「そうか、まぁそれはいい。」
もっと何か、こう、ピオリムみたいに便利で凄い呪文とか覚えないもんかなぁ。
「レベルを25まで上げろ。それぐらいねぇとサマンオサでは通用しねぇからな。」
「じゃあ、エルスのレベルが上がったら……」
「ああ、サマンオサに乗り込む。」
ヴィクターさんの顔が引き締まる。
「ヴィクターも星降る腕輪に慣れておけ。相手は手強いだろうからな。」
「もちろんよ。あいつは私が倒す。」
ヴィクターさんの目の奥がキラリと光った。
「キャシーはさとりの書の解析を進めておけ。サマンオサに向かうまでに解析が全て終われば御の字だが、まぁそこまでは求めない。」
「りょーかーい。確かにこれはちょっと時間かかりそうだしねー。」
といいつつ、キャシーちゃんもかなりやる気をみせている。
何といっても全ての呪文が使えるかもしれないわけだからな。
呪文第一のキャシーちゃんにとって、賢者は夢のような職業なんだろう。
「私達はエルスさんと共にレベル上げってことなんでしょうが、ボスはどうされるんですか?」
アリサさんがカンダタに尋ねる。
「色々と野暮用があってな。暫くは留守にする。」
「そうですか……。」
アリサさん、寂しそうだ。
「あの勇者も船を手に入れて行動範囲が広がるだろうからな。アイツらの動向も追っておきたい。」
「……改めてお聞きしますが、ボスは勇者に何をしたいんですか?」
ちょっとツッコんで聞いてみる。
「何度も言ってるだろ。勇者様に興味が……」
「そんな単純な理由なんかじゃないでしょ。他に何かあるんじゃないですか。どんな物事にも事情なり理由なりがあるって言ってたのはボスですよ。」
「……ったく、面倒くせぇヤツだな、テメェは。」
カンダタが溜息をつく。
「悪いが今はまだ秘密だ。サマンオサの件が片付いたら、改めて説明してやるよ。」
「そうですか、約束ですよ。」
「ああ、ルビスに誓ってやる。」
……ルビス様を呼び捨てにしている時点で信用なんかできないんだよなぁ。
まぁいいか、サマンオサの件が終わったらまた聞くことにしよう。
その日の夜。
いつもの警備当番の時間がやってきた。
といっても、住居地の入り口の部屋でのんびり過ごせばいいだけだから、シャンパーニよりかはだいぶ楽ができる。
「ヴィクターさん、交代の時間です。」
「そう。」
ヴィクターさんはお茶を飲みながらリラックスしていた。
「……私はもう一杯頂くけど、あなたも飲む?」
「ありがとうございます、頂きます。」
こうして、2人で向き合ってお茶を楽しむことになった。
「……ありがとう、エルス。」
まったりとお茶を味わっているなか、突然ヴィクターさんがお礼を言ってきた。
「えっと、何がですか?」
「星降る腕輪のこと。最初に聞いたときは眉唾ものだったけど、効果はあなたの言ったとおりだったわ。ピオリムもあるし、私の目標に大きく近づくことができたから。」
「御礼はその目標を達成するまでとっておいてください。」
「そうね、そのとおりかも。でも一度あなたにはちゃんとお礼を言いたかったの。」
今日のヴィクターさんはいつになく殊勝だ。
「……そして、ごめんなさい。」
今度は、まさかの謝罪だ。
「これまでのあなたに対する態度は自分でもヒドかったと思う。騎士として恥ずべきことだったわ。」
「……私は、ヴィクターさんがサマンオサでどれほど大変だったかについて、詳しくは知りませんが推察はできます。私のような正体不明な人間を警戒するのはむしろ当然だと思ってます。ですから、ヴィクターさんが御自身を恥じる必要はないかと。」
「……違うのよ。」
何が違うのだろう。
「少なくともボスはあなたの本質を初見で見抜いていた。だからあなたを仲間に加えたのよ。他の皆だって気付いていたのかもしれない。……私だけがわからなかった。気付くことができなかった。それが恥ずかしいの。」
いやいや、カンダタはちょっと例外だろう。
あの男の器は底が知れない。
17歳の女の子がカンダタと同じようなことができたら、それこそ化け物だ。
「……私は父のような立派な騎士を目指している。でもこんなんじゃ……」
「あまり御自身を卑下なさらないでください。うちのボスは、良い言い方をすれば規格外ですが、言い換えればアレは化け物です。アリサさん達もボスが決めたことだから信用したに過ぎません。……私は、ヴィクターさんには年相応のまま、ありのままの自然体でいて欲しいですね。ヴィクターさんの笑顔は、とても素敵ですから。」
「……それは慰めなのかしら。口説いているようにも聞こえるけど。」
「いかようにも解釈してください。」
「あなたのそのお調子者なところは変わらないわね。なんだか真面目に悩んでるのがバカらしくなってくるわ。」
クスクスと笑ってくれる。
……それでいい、変に思い悩む必要なんてない。
ヴィクターさんは、笑顔でいるべきなんだ。
「……ねぇ。」
ヴィクターさんが尋ねてくる。
「……あなたのこと、あなたの世界のこと、色々とお話ししてくれない?」
「もちろん、喜んで。そうだ、お茶のお替わりを用意しますよ。」
「私が入れるわ。こう見えて得意なのよ。」
「そうですね、ヴィクターさんが入れてくれるお茶はとても美味しいです。美人という補正付きですから余計にね。」
「……っ、ホントにあなたってば……ふふっ。」
……あま~い雰囲気になってきた気がする。
ナイスガイなら、ここで上手に口説いたりでもするんだろう。
でもDTの自分にはこれ以上は無理だ。
……胸の奥の、チリチリとした、経験したことのない感情に、ただただ戸惑うだけだった。
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