第20話 お宝

「……さて、これからの話だが。」

 勇者達がグプタさんを連れて出ていった後、カンダタがお茶を飲みながら告げる。

「エルスが色々と貴重なアイテムの情報をくれた。それを頂きに行くぜ。」

 ああ、もう取りに行くのか。

 勇者に先取りされるのを恐れているのだろうか。

「どういったアイテムがあるのー?」

「エルス、説明してやれ。」

 ということで、他の皆にもカンダタに話した内容を伝えることに。

「さとりの書は私のものだからねー!」

 さとりの書にいち早く反応するキャシーちゃん。

「いかづちの杖ですか。誰にでもベギラマが使えるっていうのは凄いですね。」

 アリサさんも感心しているようだ。

「星降る腕輪かぁ。確かに魅力的なアイテムだけど、私は別になくても大丈夫かなぁ。ヴィクターは欲しい?」

 ドネアさんがヴィクターさんに尋ねる。

「……そうね、そんな便利なものが本当にあるのだとしたら、欲しいかも。」

 ヴィクターさんはまだ半信半疑のようだ。


「3つのうち2つはモンスターが居る場所じゃねぇから、オレ様とエルスの2人で行ってくる。」

「残りの1つはどこにあるんですか?」

「エルスによればダーマの北にあるガルナの塔だ。そこにさとりの書があるらしい。全員でそこに向かうぞ。」

 ゲームではパーティは4人までと決まっていたけど、この世界では関係ないらしい。

「じゃあエルス、今から飛ぶぞ。ガルナには明日向かう。」

「わかりました、お供します。」

「ボス、エルスさん、どうか、くれぐれもお気をつけくださいね。」

 アリサさんは心配性だ、ボスが絡んでるからか。


 結論から言えば、2つとも簡単に見つかった。

 スーの村にあるいかづちの杖は、レミラーマを唱えたら井戸の側の地中から反応があり、そこを掘り起こしてみたら出てきた。

 イシスにある星降る腕輪は、王宮の外壁にある隠し通路を通った先の宝箱に収納されていた。

 ……そういえば、ゲームでは星降る腕輪を取った際に骸骨が現れたシーンがあったが、ここではそんなことは起きなかった。どうでもいい話だけど。

 早速拠点に戻り、アイテムの効果を試してみることになった。


「いかづちの杖ですが、持ち主の魔力を使うようですね。呪文を唱えるのと同じ感覚です。」

 アリサさんが試しに使ってみたところ、キャシーちゃんが使うベギラマと同じような炎がモンスターを襲った。

 誰にでも無限に使えるって訳ではないみたいだ。

「じゃあ、私とヴィクターには使えないってことなのねぇ。」

「私はベキラマ使えるからいらないよー。」

「使うとしたらアリサかエルスってとこか。サポーターに魔力は期待できんからアリサが使え。」

 ……残念、ベキラマ使ってみたかった。


「……この星降る腕輪だけど、エルスの使うピオリムと同じ効果ね。凄まじいわ。」

 ヴィクターさんがその効果を実感している。

「その状態で私がピオリムを使ったらどうなりますかね。」

「やってみてくれる?」

 ピオリムを唱えてみた。

 ……とんでもない速さに変身した。

「この相乗効果は凄いわね。サマンオサまでに動きに慣れておかなくちゃ。」

「いやぁ、私よりも断然速くなったわねぇ。ちょっと欲しくなってきちゃったわぁ。」 

 ドネアさんが少し羨ましそうにしている。

「サマンオサの件が片付くまではヴィクターに使わせてやれ。その後は2人で仲良く決めろ。」

「うん、まぁ私はいいわぁ。ピオリムだけで十分だし。ヴィクターがそのまま使って。」

「ありがとう、ドネア。大事に使わせて貰うわ。」

 ……えっと、私にもお礼はないのでしょうか、ヴィクターさん。

 そしてカンダタさん、勇者に渡す気は毛頭無いんですね。


「しかし、さとりの書とやらをキャシーが貰うんなら、私も何か欲しいなぁ……ねぇ、エルスぅ、他に何か知らないのぉ?」

 ドネアさんが甘ったるい声で尋ねてくる。

「……あとは「黄金の爪」という武道家用の武器くらいですかねぇ。」

「おお、なんか凄そうな武器じゃない。それはどこにあるのぉ?」

「イシスの北にあるピラミッドの中にあるんですけどね。アレって宝箱から取り出すとモンスターがどんどん湧き出てくるんですよ。」

「なにそれ、呪われてるじゃない。流石にそれはパスだわぁ。」

 まぁそうだよな、ゲームと同じであれば、アレはちょっと洒落にならないヤツだ。

「そんなのさー、私の呪文でババーンとやっつけちゃえばいいんじゃないのー?」

「その宝箱があるフロアでは、呪文が一切使えないんだ。」

「ひえー、そりゃ駄目だー。」

 いかづちの杖があったとしても厳しい気がする。

 それに、ピラミッドから出てもその効果が続くようなら、一生休まらない。

「……じゃあ、予定通り明日はガルナの塔に行くぞ。エルス、中の案内はよろしくな。」

 ダンジョンの構図を丸暗記するまでゲームをやりこんでおいてよかった。

 まさかこんなところで役に立つなんて、当時は思いもしなかったよ。


 翌日、我々一行はガルナの塔の最上階付近までやってきた。

 道中に旅の扉を使って移動を繰り返すっていうギミックがあったけど、アレは体がぐるぐる回ってちょっと気持ち悪かったな。

「こ、ここから、下に落ちる必要があるの?」

 こころなしか、ヴィクターさんの声が震えている気がする。

「すっごい高いねー。楽しみだなー。」

 反対にキャシーちゃんは楽しそうだ。

「オレ様とエルスがトベルーラを使えるから大丈夫だ。アリサとキャシーはオレ様に掴まれ。ヴィクターとドネアはエルスにだ。」

「よろしくねぇ、エルス。」

 ドネアさんがにっこりと微笑む。

「あ、あなた。し、失敗なんかしたら、ゆ、ゆ、許さないからね!」

 ヴィクターさんはどうやら高所恐怖症らしい。

「任せてください。こういう時のために散々練習してきましたから。」

 ……正直に言えば、自分だって不安だ。

 流石にこんな高いトコから飛び降りて試したことなんてない。

 ……でもこっちまで不安がってたら、ヴィクターさんもきっと安心できない。

 こちとら男だ、いつだってレディの前では格好付けなくちゃ。


「おし、行くぜ。」

 カンダタがアリサさんとキャシーちゃんを抱えて飛び降りた。

「うっひょ-、すっごーい!」

 キャシーちゃんがはしゃいでいる。

 片やアリサさんはカンダタに抱き寄せられて嬉しそうだ。

「こっちも行きましょうか。」

「いいわねぇ、こういうのは中々体験できることじゃないわぁ。」

 楽しそうなドネアさんに対し、ヴィクターさんはこちらにしがみついて震えている。

 2人を両手で抱え込むようにしながら、覚悟を決めて飛び降りた。

「きゃあぁぁぁぁ!!!」

「暴れないで、ヴィクターさん!大丈夫ですよ、信じてください。」

 何とかヴィクターさんを落ち着かせながら呪文を唱える。

「トベルーラ!」

 その瞬間、ふわっと浮くような、ゆっくりと舞い降りるような感覚になる。

 ……何度も練習はしてきたが、こりゃあ凄い、クセになりそうだ。

「もうすぐ着きますよ、ヴィクターさん。」

「う、うん。」

 ヴィクターさんはまだ震えながら、ずっとこちらにしがみついたまま目を瞑っている。

 誰にだって苦手なことはあるんだな。

 ヴィクターさんがとても可愛らしく見えた。


 とか言いつつ……

 女性とこんなに密着すると、やっぱり緊張してしまう。

 情けない話が、DTにこういうシチュエーションは、ハードルがとても高い。


「……おっ、この宝箱か?」

 カンダタが宝箱を開く。

 中からは1冊の書物が出てきた。

「ほう、これがさとりの書ってやつか。キャシー、読めるか?」

「ほいほーい。ちょっと貸してー。」

 キャシーちゃんがいつになく真剣な顔で書物を読み始めた。

「……ボス、これ、ちょっとヤバイよー。」

「そんなにか。」

「まださらっとしか読んでないけどさー、これまでの呪文の常識をぶち壊すような事が書いてあるっぽいんだよねー。これさー、全部理解したら賢者になれるっていうか、全ての呪文が使えるようになるかもだわー。」

「誰にでも賢者になれるってことか?」

「まずはこの古代文字を理解できるかってのがあるけどー。あと結局のところ、最後は本人の資質によるって感じだねー。」

 その古代文字とやらは自分にはさっぱり読めなかった、凄いなキャシーちゃん。

 ……そして、古代文字を読めない自分は賢者になれないってことがわかってしまった。

 なんて厳しい世界だ。

「とりあえずキャシーは拠点でそれを読み進めておけ。必要がなくなったら勇者達にくれてやろう。」

 ああ、やっぱり勇者は後回しなんですね。

 賢者がいなくてもクリアはできるだろうが、賢者がいると便利なんだけどなぁ。


 しかし賢者になれないってのはつくづく残念だ。

 どうやらこれからも地道にサポーターとして頑張らないといけないみたいだ。

 ……茨の道だよなぁ。

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