第18話 導き
「グプタさんとターニアさんはどこだ!?」
……ほら、やっぱりね。
だから言ったじゃないか、嫌な予感しかしないんだって。
「誰ですか、あなたたちは。いきなりやって来て無礼ですよ。」
アリサさんが冷静に、しかし果敢に立ち向かう。
「僕はアリアハンの勇者だ。グプタさんとターニアさんを解放しろ!」
このパターンでゲームと合致するとはなぁ。
そして、もっと最悪なことに、今ここにはカンダタがいない。
……まったく、空気を読んで欲しいもんだ。
カンダタにも、勇者さんにも。
「皆さん、よろしくお願いします。私はグプタと申します。」
「私はグプタさんの許嫁でターニアです。この度は私の家のせいで、皆様にまで御迷惑をおかけして申し訳ありません。」
カンダタと話をした翌日、早速カンダタが胡椒屋の息子さんとその許嫁さんを拠点に連れてきた。
「さっき話をしたとおりだ。アリサ、頼んだぞ。」
「お任せください、ボス。」
言い方は悪いが、アリサさんはボスの忠犬って感じがしちゃう。
「ところで、ボスはこれからどうするんです?」
「ポルトガとダーマとの連絡調整で留守にする。大詰めの段階だからな。」
「随分と協力的なんですね。」
「もちろんタダじゃねぇさ。これが解決した暁にはたんまりと報酬を頂く予定だ。ポルトガからも、ダーマからも、胡椒屋のじいさんからもな。」
まぁそういうことだと思った。
そのじいさんの息子が目の前にいても気にしちゃいない。
「……それと、ポルトガの王から聞いたんだが。」
カンダタが話を続ける。
「1週間ほど前にアリアハンの勇者にも胡椒の調査を依頼したようだ。船との交換条件でな。アイツらもそろそろバハラタにやってくるかもしれん。」
「はぁ?なんでまた勇者にも依頼したんですか、その王様は。」
「単に手数を増やそうと考えただけらしい。だが、まぁ心配ねぇだろう。ここまで事が大きく動いてるんだ、勇者も動きようがねぇはずだ。」
……オチが見えましたよ、ボス。
そしてその3日後。
かの勇者達がこの拠点にやってきたのである。
「ふーん、勇者って結構イケメンなんだねー。」
この場面でもキャシーちゃんは相変わらずだ。
……ちょっと勇者に嫉妬してしまった。
「グプタさんとターニアさんはどこだ!?」
「あなた方に教える筋合いはございません。」
そんな勇者に怯える素振りも見せることなく、アリサさんが答える。
「抵抗するなら容赦はしないぞ!」
「……上等よぉ。勇者だかなんだか知らないけど、私達を簡単に倒せるだなんて思わないことねぇ。」
ドネアさん、戦う気満々だ。
その隣にいるヴィクターさんも、いつの間にか剣を構えていらっしゃる。
……まぁ奥にいるグプタさん達をここに連れて来れば問題はあっさり解決しそうだけど、その前に勇者には聞きたいことがある。
そんなわけで、勇者の前に出ることにした。
「少しよろしいでしょうか。」
「……あっ!あなたはあの時の!たしか、エルスさんと言いましたよね。……そうか、カンダタの仕業だったのか!」
「まぁそれはおいといて。少しばかり勇者さんにお聞きしたいことがあるんですよ。」
……もっとも、答えには期待していないけど。
「勇者さんはポルトガの王様から胡椒の調査について依頼を受けたと伺っております。それがなぜ、ここでグプタさん達の身柄を求めることに繋がっているのでしょうか?」
「……よく知ってますね、ポルトガのこと。」
勇者は少し驚いている。
「ターニアさんの御実家から依頼を受けました。ターニアさんとその許嫁であるグプタさんが誘拐されたので助けてほしいと。」
女僧侶のマールが勇者の代わりに答える。
……ああ、例の黒幕からの依頼だったのか。
「あなた達はそれをあっさりと信じたのですか。」
半ば呆れて質問する。
「依頼された方からのお話ですと、誘拐犯から胡椒の価格を釣り上げるよう脅されているとのことでした。ポルトガの王様からも胡椒の価格が高騰していると聞いていますし、話の整合性はとれます。」
キリッとした顔で女魔法使いのソフィが答えた。
……あぁ、そうだった。
こいつら、みんなバカだったわ。
「……なんていうか、もう少し考えて行動されてはいかがですか。」
「どういう意味ですか!」
勇者がくってかかる。
「いえね、仮にその話が真実だとして、一体誰が得をすると思います?」
「えっ?」
「だからね。胡椒の価格を高騰させることによって、最も利益を得るのは誰なのか考えたのかということですよ。」
「それは……誰だろう?」
こいつ、そこまで頭が悪いのか。
「まず思いつくのが胡椒屋さんですが、胡椒屋さんは卸売店に適正価格で販売してます。その卸売店が実際に市場で販売しているわけですよ。ここまで言えばわかりますよね。」
「じゃあ、その卸売店とやらとアンタ達がグルってことなんでしょ!」
女戦士のサラキアがドヤ顔で詰め寄ってくる。
その情報をもたらした当本人に対してなぜドヤ顔できるのか、全くもって理解に苦しむ。
「それで、卸売店の方からはそのような話を聞いたのですか?」
「え、いや、それは……」
あっさりと答えに窮するサラキア。
「……あなた達カンダタ一味は、ロマリアでも王冠を盗んだ悪党だろ!」
「あのね勇者さん、よくよく考えてみてくださいよ。許嫁さんのご親族が胡椒の価格を釣り上げる立場にあるってこと、つまりは卸売店と繋がってるのは、我々じゃなくてむしろそのご親族だって簡単に推察できるでしょ。でなきゃ、ご親族に対して誘拐犯が価格の釣り上げを要求するなんておかしいですからね。」
「そ、それは……」
「……以前お会いした時にもうちのボスが言いましたよね、物事には色々な事情なり理由なりがあるってことを。どうやら勇者さんは、まだそれを理解されていないようですね。」
「…………。」
勢いよく啖呵を切っていた勇者が黙ってしまう。
……しかし、その依頼主のご親族とやらも、随分と杜撰な計画を立てたもんだ。
こんなの、少し考えれば破綻していることなんてすぐにわかるだろうに。
相当慌てていたのかもしれない。
「……いいですか、改めて私からも申し上げておきます。勇者さんはきっと正義感の強いお方なんでしょう。私は少しだけしか貴方とお話ししたことはありませんが、これまでの言動を見てもそれが伺い知れます。しかし、世の中は勇者さんが思うほど単純に正義と悪に分かれるというものでもありません。今後は、どんな些細なことに対しても情報をきちんと収集・精査して行動されることをオススメします。これは大人からの忠告です。」
最後はカンダタの言い回しを真似してみた。
「……そんなこと……教えて貰ってない……」
……あの、勇者さん?なんか泣きそうになってませんか?
これじゃあ、大人が子供を虐めてるみたいじゃないか。
「……これから学んでいけば良いのです。それが大人になるということです。」
だから優しく、諭すように言ってあげた。
「アンタさぁ、なんでそんなに偉そうなのぉ?」
ドネアさんが小声で茶々を入れてくる。
……いや、ここは大人としての威厳の見せ所だからね。
ちょっと黙ってようね。
「……グプタさんとターニアさんをここに連れてきます。お二人からもよく事情を聞いてみて、それから改めて判断なさってください。」
……これが導くってやつなんですかね、カンダタさん。
思ってたよりも大変なんですね、こういうのはもう勘弁願いたいです。
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