第17話 誘拐?

「……そうか、オルテガとサイモンの野郎はくたばっちまったのか。」

 シャンパーニでの勇者との対峙から1ヶ月。

 カンダタはたまにバハラタの拠点に戻ってきてはいたが、いつもせわしなく動いていた。

 ある日、拠点内でカンダタと夜遅くまで話し込むことがあった。

「ええ。ただ、オルテガに関しては、今はまだ生きているかと思われます。」

「どういうことだ?」

「ゲームでは、ゾーマが居る城でオルテガがゾーマの部下に倒されたところを勇者が目撃します。この世界も同じなら、今の勇者がゾーマの居る城にたどり着くまでまだ時間があるということです。」

「なるほどな、助ける余地はあるってことか……サイモンの方はもう厳しいか?」

「ゲームでは、既にサマンオサから追放され、ある祠というか牢獄の中で亡くなっている姿が発見されていました。」

「……テメェの言うとおり、この世界でもサイモンは既にサマンオサから追放されているんだ。生存は絶望的と見るべきか……ヴィクターにはこのことを話したのか?」

「いえ、サイモンのことを聞かれはしましたが、私の口からは言えませんでした。」

 自分はそこまで強い人間なんかじゃない。

「わかった。サマンオサが片付いたら機を見てオレ様から話すとしよう。」

「すみません、よろしくお願いします。」

 ……ここでカンダタを頼ってしまうのが情けないところだな。


「……サマンオサの件だが、そのラーの鏡とやらのありかが問題だな。穴から落ちるったって、それじゃあただの投身自殺になりかねん。」

 ゲームでは穴から落ちても平気なんだが、それはゲームゆえの都合ってやつか。

 常識的に考えれば確かに無事では済まないよな。

「ということでだ。イシスで産み出された技術というか呪文がある。これをテメェに教えておくから、練習して身につけておけ。」

「イシスの呪文ですか?」

「ああ。イシスがギアガの大穴からスパイを落とすために編み出したものだ。簡単に言えばルーラの亜種ってやつになる。」

 カンダタは少し集中して呪文を発する。

「……トベルーラ。」

 カンダタの身が浮かんだ。

 なんかどっかの漫画で聞いたことのある呪文だ。

「浮遊術みてぇなもんだ。どんなに高いところから落ちても、地面に激突する心配はいらん。」

「私にも習得できますかね。」

「ルーラを使えるなら問題ねぇさ。後はちょっとしたコツを掴むだけだ。」

 こうしてカンダタに呪文のイメージやコツなんかを教わった。

 少しずつ練習しておこう。

「勇者もこの呪文を使えるんでしょうかね。」

「アイツらにはルビスの加護があるからな。なくても問題なく行けるんじゃねぇか。」

 何でもありだな、ルビス様。

「……しかしオルテガのヤツめ。ギアガのことを知っていやがったとはな。」

「ボス、オルテガとも知り合いなんですか。」

「まぁ……な。昔、ちょっとした縁でな。」

 ……カンダタが今の勇者をやたらと気にしているのも、その辺りが背景にあるのかもしれない。


「このトベルーラについてだが、他に使う機会はありそうか?」

 うーん、何ヶ所かそういう場所があったような。

「ダンジョンを攻略する上では幾つか思い当たります。ただ、あまり勇者の邪魔をするようなことは止めておいた方が……」

「ああ、バラモスやゾーマを倒す上で、どうしても勇者じゃないと駄目だというところまでは必要ねぇよ。それでも、何らか有用なモノがあったりはしねぇのか?」

「そうですね、パッと思いつくのは「さとりの書」でしょうか。」

「どんなアイテムだ、そりゃ。」

「賢者に転職できるアイテムです。」

「おいおい、眉唾物だぞ賢者ってのは。どこにあるんだ?」

「ダーマ神殿の北にある「ガルナの塔」ってとこです。あそこの最上階辺りから飛び降りた先にあったはずです。」

「とんでもねぇ所にあるな、流石は伝説級ってとこか。」

 カンダタは少し考え込む。

「……今の勇者達がそれをスルーするようだったら、オレたちが貰い受けるか。キャシー辺りが欲しがりそうだしな。」

「いいんですか、勇者に渡さなくても。」

「……何でもかんでもやってあげるような、優しい人間じゃねぇんだよ、オレ様はな。」

 いやいや、世界の危機なんですけどね。

 勇者にはこの世界を救って貰わなきゃいけないのに、随分と勝手な人だ。


「他にもそういった有用アイテムはあるか?」

 カンダタは更に情報を欲しがっている。

 ……もう言ってしまうか。ぶっちゃけ自分も見てみたいし。

「イシスにある「星降る腕輪」とスーの村にある「いかづちの杖」あたりですかね。星降る腕輪は身につけた者の素早さを2倍にするもの、いかづちの杖は戦闘で使うとベギラマの効果があるものだったはずです。」 

「ほう、どっちもとんでもねぇ効果だな。簡単に見つかるものか?」

「知らなければ両方とも難しいでしょうね。」

「じゃあそれらもオレ様達で頂いておくか。勇者に渡すかは後でゆっくり考えよう。」

 いかにも悪者っぽいセリフだ。

「星降る腕輪はドネア向けっぽいが、アイツは元々素早さが高いからヴィクターに持たせるのも手だな。いかづちの杖は実際に効果を確かめてから考えるか……」

 カンダタはもう手に入れた後の事を考えている。

「テメェにもそれらの探索に付き合って貰うぜ、近いうちにな。」

「わかりました。」

 勇者に対する罪悪感はあるが、好奇心の方が上回ってしまった。


「それで、バハラタの件なんだが。」

 別の話題に変わる。

「近いうちに胡椒の件で、ポルトガとダーマが動くことになっている。」

「ダーマ神殿もですか?」

「バハラタはダーマの直轄領だからな。」

 なるほど、この世界ではそういう設定なのか。

「胡椒屋の息子と許嫁も真実に気付いたようだ。それを察した許嫁の親族が何かやらかしそうな動きを見せている。」

「具体的には何を?」

「どうやら息子と許嫁を誘拐して、それを人質に胡椒屋のじじいを黙らせる方向にいきそうだ。」

 なかなか物騒なことになっているようだ。

「……それで胡椒屋のじじいに頼まれてな。その息子達を暫くここで匿うことにした。」

 おいおい、急に他人事じゃなくなってきたぞ。

「ポルトガとダーマのガサ入れが終わるまでだ。そんなにかかりはしねぇ。明日改めてアリサ達にもオレ様から話しておく。」


 ……どうにも嫌な予感しかしない。

 アリアハンの勇者が、空気を読まずにここにやってきそうな予感しか。


 そして、こういう嫌な予感ってのは良く当たるものなんだ。

 この世界に来ても、それは変わらないんだ。

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