第16話 胡椒
「――― ボス、エルスさん、お疲れ様でした。」
バハラタの拠点まで戻ってきた。
アリサさんがねぎらいの言葉をくれる。
「それで、勇者ってどんなヤツだった?」
「凄い呪文とか使ってきたのー?」
ドネアさんとキャシーちゃんは勇者に興味津々のようだ。
「まだまだだな。勇者専用の呪文もまだ覚えてなさそうだ。センスはそれなりに感じたが発展途上もいいとこだ。てめぇらの方がまだ強い。」
「なーんだ、たいしたことないんだねー。」
キャシーちゃんがちょっとガッカリしている。
「とはいえ、ルビスの加護を得た勇者様御一行だ。これからどんどん強くなっていくだろう。……問題は、精神面というかオツムの方だ。」
カンダタは渋い顔をしている。
「あれじゃあ駄目だ。いつかどこかで騙されて必ず痛い目にあう。バラモスまでたどり着けるか怪しいもんだ。」
「……それならサマンオサの救出の方も勇者には無理そうね。」
ヴィクターさんが呟いた。
「今のアイツらじゃあ期待薄だな。どこかで一皮剥ければいいんだが。」
「……ボスって、随分とあの勇者達を気にされてますよね。」
それがずっと気になっていた。
「……そりゃあ腐っても勇者様だからな。」
きっと、それだけじゃないはずだ。
まぁ、今はまだツッコまないでおこう。
「……それでボス、胡椒屋の件ですが。」
アリサさんが話題を変える。
「胡椒屋の息子さんに許嫁がいらっしゃるのですが、その親族が裏で暗躍しているみたいです。」
「具体的には?」
「胡椒屋の卸売先と許嫁の親族が繋がっております。卸売先が市場で販売する価格を実家の指示で高騰させ、多額の利益を卸売先と実家とで分け合ってるようです。胡椒を独占的に扱ってるのをいいことに、かなり強気の価格でやってるみたいですね。」
「……なんでその卸売先は許嫁の親族とやらの言うことなぞ聞いてやがるんだ?」
「胡椒屋の息子さんと許嫁が結婚するにあたり、許嫁の親族が胡椒の販売業務を担うことになったと吹聴しているようです。」
「それは事実なのか?」
「いえ、許嫁の親族がそう言っているだけです。」
「胡椒屋の主人は市場価格が高騰している理由を密かに調べた結果、許嫁の親族の仕業だと知ったみたいよぉ。」
ドネアさんが続けた。
「それで息子と言い争いになっているところを見たわ。息子は許嫁を信じ切っちゃってるから許嫁の親族を怪しんではいないみたい。そもそも許嫁の方も親族から何も知らされていないみたいだしねぇ。」
「……ふん、ガキはどいつも一緒だな。」
あの勇者と同じ穴の狢だと言いたいのだろう。
「なるほどな、よくわかった。一度ポルトガの王に会って説明しておくか。」
「それ、前にも言ってたけどさー、なんでポルトガが絡んでるのー?」
「ポルトガはバハラタから胡椒を積極的に輸入していてな。最近、その価格が暴騰していて困っていると相談を受けたんだ。」
ゲームでも勇者にバハラタから胡椒を取ってくるよう依頼していたくらいだからな。
……そういえば、ゲームで勇者とカンダタが2回目に戦うのがこの胡椒絡みだ。
しかし、今までの話からして、どうすればカンダタが胡椒屋の息子達を誘拐して勇者と戦うことに繋がるのか、それがちょっとわからない。
「じゃあオレ様は明日にでもボルトガに飛ぶ。バハラタの胡椒屋についてはオレ様が引き続き調べてみるから、これ以上は探らなくていい。」
「了解しました、ボス。」
「じゃあ、私達はいつも通りレベルを上げておけばいいわけ?」
「ああ、そうしてろ、ヴィクター。」
ヴィクターさんが改まってボスに向き直る。
「……ボスに頼みがあるのだけど。」
「なんだ?」
「サマンオサの件、エルスに手伝って貰っても良いかしら。」
ああ、例の協力に関してボスに了承を得ておこうというわけか。
「それは構わん。そもそも全員で事に当たるつもりだったからな。ただ、今のヴィクターじゃ力足らずだぞ、エルスもな。」
「わかってる。だからもう暫くはレベル上げに勤しむことにするわ。もちろんエルスも一緒にね。」
ヴィクターさんがこちらを見てくる。
「レディからの頼みですからね。頑張りますよ。」
「……あなたのそのお調子者なところ、直した方がいいわよ。」
冷たい目で返された。
「ふ~ん。」
いつものニヤニヤした顔でドネアさんがヴィクターさんに絡む。
「……何よ。」
「いや~、いつの間にエルスとそんな仲になってるだなんてね~。スミにおけないってのはこのことよね~。」
「エルスの情報がアテになりそうだから、サマンオサでの助けになるかと思って頼んだだけよ。他意はないわ。」
他意もあってほしいのですけれども。
「ウフフっ、青春ですわねっ♪」
「なによ、アリサまで。もう!」
あ~、なんていうか、こんな学生生活を送りたかったよなぁ。
「……おい、お前ら。ちゃんと避妊はしろよ。」
「ちょっと!ボスっ!!」
カンダタにもからかわれて、ヴィクターさんの顔が真っ赤になっている。
……こんなヴィクターさんは珍しい。
しっかりとその姿を目に焼き付けておこう。
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