第14話 勇者

 「誰だ、テメェら。」

 カンダタが目の前にいる4人にそう問いかける。

 ……知ってるくせに、実に白々しい人だ。

「僕はアリアハンの勇者だ!」

 先頭に立つ男が答える。

「……ハッ、アリアハンの勇者とやらが、このカンダタ様に何の用だ。」

「あなたがカンダタか。ロマリア国の冠、返して貰うぞ!」

 ……さて、ここまでは想定の範囲内だ。

 これからどうなるのか、それはカンダタ次第ってところだろう。


 勇者は16歳ということもあってか、やはり若々しい。

 真っ直ぐな目をしていて、その目の奥には強い意志も感じ取れる。

 そして、ムカつくことにイケメンだ。

 更に許せないのは、仲間の3人がいずれも美人だということだ。

 ……この世界、やたらと美形率が高くないか?

 カンダタから少し離れたところで、およそ場にふさわしくないことを考えていた。


「ふん、勇者ともあろうお方が、ロマリアの使いっ走りなんかやってんのか。」

「困った人々を助けるのは勇者の仕事だ!」

「ちげぇだろ。テメェの仕事はバラモスを倒すことだ。」

「当然だ。そして人々を救うことも僕に課せられた使命だ!」

「人々を救うねぇ。また随分とお人好しな勇者様なんだな。」

「なんだと!」

 いやぁ煽るねぇ、カンダタさん。

 勇者さん怒ってますよ?大丈夫ですか?

「……まぁいい。それより勇者様よ、ちょいとばかし聞きてぇことがあるんだがな。」

「悪党と話すことなんかない。」

「そう堅ぇこと言うなよ。別に逃げたりなんかしねぇから、な?」

 嘘だ。ルーラで逃げる気満々のくせに。

「……で、勇者様よ。このオレ様がなぜ冠を盗んだのか、その辺りの事情ってのはちゃんと調べてきたのか?」

「悪事の理由なんて知る必要はない。」

「……そもそもだ。勇者様は何をもって悪事と決めつけるんだ?」

「人の物を盗むなんて、悪事以外に何があるというんだ。」

「ガキはこれだから困る。例えばだ、飢えた幼子がパンを盗んだとする。さて、それは悪事と言えるのか?」

「あなたは幼子じゃないだろ。」

「例えだよ。」

「……例え幼子でも罪は罪だ。」

「……ふん、こいつは駄目だな。ホントに勇者か、テメェ。」

「僕を愚弄する気か!」

 愚弄してるんだろうなぁ、実際。


「……いいか、これは大人からの忠告だ。どんな物事にも事情なり理由なりというのが存在する。幼子の例はその典型だ。」

「それが何だ?」

「オレ様が冠を盗んだのも、そういった事情なり理由なりが存在するってことだ。」

「……どんな理由で盗んだっていうんだ。」

「だからそれをテメェ自身で探ったのかって聞いてるんだ。オレ様が言ったところで勇者様は信じやしねぇだろ?」

「…………。」

 勇者を黙らせちゃったよ、流石だなボス。

「……アルス、そんな盗賊の言うことなんて聞く必要ないわよ。」

 女戦士がカンダタを睨み付けながら言う。

 確かサラキアっていう名前だったか。

「そうですよ。それに王様が悪者なわけないですから、必然的にこの人が悪者ということです。」

 女僧侶のマールとやらがそれに続く。

「……私達は冠を取り戻す。ただそれだけよ。」

 こっちは女魔法使いのソフィだったかな。

「……はぁ、勇者様も勇者様だが、お仲間もお仲間というわけか。ガッカリさせてくれるぜ。」

 カンダタが溜息交じりに呟いた。


「……冠を盗んだ事情は知らない。でもそれは王様に返すべきだ!」

 仲間のサポートで勇者が立ち直ったみたいだ。

 中々に単純なヤツだ。

「……なぁ、聞いたかエルス。どう思うよ?」

 ……っておいおい、ここでこっちに振るのか。

 話を聞いているだけでいいって言ってたじゃないか。

 ……勇者たち御一行がこっちを見ちゃったじゃないか。

「あなたは誰ですか?」

 あ~あ、恨みますよ。

「私は、そちらのカンダタの子分をやらせてもらってるエルスといいます。どうぞよろしくお願い致します。」

 ……いきなりの無茶ぶりでだいぶ混乱しているみたいだ。

 一体何をよろしくするというのか。

「で、エルス。こいつらをどう見た?」

「はぁ……まぁ一言で表すなら、まだまだ子供だということですかね。」

「あなたも僕たちをバカにするのか!」

 あ、怒らせちゃった。

「ボスの言ったとおりですよ。まぁ私も最近事情を知ったばかりなんで、あまり偉そうなことは言えませんけどね。」

「だから、どんな事情があるっていうんだ!?」

「それを私の口から言っても仕方ないでしょう。ただ、1つだけ申し上げるなら、私が事情を知ってもなお、この人の子分でいるというところで察してほしいですね。」

「……ふん、所詮は子分なんでしょ。親分に逆らえなかっただけじゃない。」

 まぁ女戦士の言ってることも間違ってはいないけどね。

「大人には大人の事情があるということですよ。」

「そういうこった。お子ちゃま達にはまだ早かったようだがな。」

「くそっ、バカにしやがって!」

 カンダタさん、あまり煽らないでくださいよ。

 勇者さん、剣を抜いて構えちゃったじゃないですか。


「ねぇ、ボス。勇者さん達がやる気になっちゃったじゃないですか。一体どうしてくれるんですか?」

「まったく、どうしようもねぇよなぁ。」

 からかうようにカンダタが答える。

 ていうか、カンダタの煽りにつられてこっちも随分と気が大きくなってるようだ。

 ……勇者と闘うだなんて、本来は怖いシチュエーションなはずなのに。

「ほらよっ。」

 いきなりカンダタが足下にあった冠を勇者に投げ渡した。

「……えっ!」

 流石の勇者も驚いている。

「こいつにはもう用がねぇよ。テメェらにくれてやる。それでせいぜいロマリアに恩でも売っておくんだな。」

 カンダタは続ける。

「……で、テメェらはそれでもオレ様とやり合うつもりがあんのか?ロマリアからは冠だけの依頼なんだろ?」

「……依頼されたのは冠を取り戻すことだけだ。でもっ!」

「……やるってんなら、覚悟しろよ。」

 ここでカンダタの気配が一気に変わる。

 凄い迫力だ、こっちもビビっちゃうくらい。


「……みんな!やるぞっ!」

 しかし、勇者はカンダタに臆することなく、果敢にも仲間に指示をとばした。

「……ほう、今のでビビらねぇか。根性だけは一人前だな。」

 ニヤリとカンダタが笑う。

「おい、エルス。テメェはここいらで逃げてもいいぞ。」

「ここで逃げたらアリサさんに何て報告すればいいんです?ボスが死んだら逃げますよ。」

「ふん、好きにしな。」

 そして小声で、

「……少しやりあったら逃げる。そのつもりでいろ。」

 そう告げた。

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