第13話 ロマリア
バハラタ周辺のモンスターはやはり手強かった。
自分1人だけだったらあっさりと死んでいたに違いない。
キャシーちゃんのベギラマがかなり強力なのが幸いしている。
2つ目の拠点に来てから2週間経つが、その間にレベルが3つも上がって18になった。
呪文も新たに「ボミオス」を覚えた。敵の素早さを下げる、2つ目の戦闘用呪文だ!
ちなみに、他の4人はレベルがもう20を超えている。
「……そういえば、ダーマ神殿っていうのがこの近くにないですか?」
「ええ、ありますよ。転職を司る神殿ですね。」
やっぱりこの世界にもあるのか、転職システム!
「ゲームではレベル20になったら転職できるのですが、皆さんは転職するつもりはないんですか?」
「おっしゃるとおりレベルが20以上あれば転職は可能とされておりますが、現状、我々のグループはバランスが取れていますからね。無理にする必要もないでしょう。それに転職先の素質があるかはわかりませんから、リスクもそれなりにあります。」
そうか、素質がないと転職しても逆に弱くなるということもあるのか。
……しかし、それでも自分は転職したい。
サポーターだと、戦闘では現状ピオリムを唱えるくらいしか役に立たないのだ。
「……レベルが20になっても、あなたは暫く転職はしないでほしいわ。」
こちらにだけ聞こえる声でヴィクターさんが話しかけてきた。
「えっと、なぜですか?」
「転職をすると能力が半減すると言われてるからよ。そのロスは痛いわ。」
ヴィクターさんの言葉で思い出した。
ゲームでは転職するとレベルが1に戻され、ステータスも全て半減していた。
この世界でもその辺りは同じというわけか。
「サマンオサの件が解決するまで、転職は控えてもらえると助かるの。」
「……わかりました。」
残念だが仕方ない。
ヴィクターさんにとっては一刻も早くサマンオサを何とかしたいわけで、こんなところで無駄な時間なんて割きたくないのだろう。
「さて、今日はそろそろ帰りましょう。ボスも戻ってくるでしょうし。」
「そうなんですか?」
「ええ、ボスが3日前に一度戻ってきて私におっしゃっていました。今日こちらの拠点に戻ってくる予定だと。」
アリサさん、それ聞いてないっす。
「……エルス、メシが終わったらオレ様と一緒にロマリアに飛ぶぞ。」
夕食時、アリサさんの言ってたとおりに戻ってきたカンダタがそう告げる。
「ロマリアですか?なぜ私を?」
「アリアハンの勇者が今日ロマリアに着いた。一度ロマリアに行って勇者の様子を見たら、そのままシャンパーニへ飛ぶ。」
随分と早いな、勇者様。
アリアハンを旅立ってまだ2週間しか経っていないのに、もうロマリアですか。
「シャンパーニで勇者を待ち受ける手筈では?」
「そのつもりだが、テメェもその前に一度ツラを拝んでおいた方が良いと思ってな。」
まぁ確かにいきなり対峙するよりかは心の準備ができる。
個人的にも勇者を早く見ておきたかったところだし丁度良いか。
「……あれ?じゃあ私はシャンパーニに行く必要がないのでは?」
そもそも自分がシャンパーニに戻る理由は、勇者を確かめるためだけだったはずだ。
「……それについては後で理由を教えてやる。いいから黙ってついてこい。」
「は、はい……」
有無を言わさぬ圧力に頷くしかなかった。
ロマリア国というだけあって、その城下町はバハラタの比ではないくらいの大きさだ。
夜も遅いというのに未だ人通りも多く、冒険者のような格好をした連中もよく見かける。
「流石は城下町だけあって賑わってますね。」
「この国は世界でも1、2を争うほどの人口数だからな。」
ここには賭けを行う闘技場もあったはずだ。
「明日の朝、アリアハンの勇者がここの王と謁見する予定になっている。そこでおそらく冠を取り戻すよう依頼されるはずだ。」
覆面を被ったカンダタから教えて貰う。
この覆面は正体バレを防ぐためらしいが、正直言って怪しさしかない。
「じゃあ、明日の朝ルーラでここに来れば良かったのでは?」
「その前にテメェとサシで少し話をしておきたくてな。あの宿に向かうぞ。」
「……その覆面をしたままで宿に入るんですか?」
「当然だろ。」
……こっちまで白い目で見られそうなんですが。
宿にチェックインした後、改めてカンダタと2人で話をすることになった。
「……2週間でロマリアまで来るとは、流石は勇者というところですかね。」
「勇者パーティの成長スピードは速い。おそらくルビスの加護によるものだな。」
「そうなんですか。凄いですね、ルビス様。」
ルビス様の加護にそんな効果があるとは。
よくそんなことまで知ってるな、カンダタは。
「……オルテガの息子である勇者の名前はアルス。その仲間だが、戦士のサラキア、僧侶のマール、魔法使いのソフィの3人だ。テメェのいうゲームでもそうだったか?」
「ゲームでは勇者がアリアハンにあるルイーダの酒場というところで自分の気に入ったメンバーを仲間にしてます。また、勇者も含めて名前を自由に付けることもできます。」
「……名前も自由ってか。そのゲームってのはよくわからんな。」
カンダタは不思議そうに呟く。
「その3人の仲間と勇者との関係はどういったものなんでしょうか?」
「3人とも勇者と共にアリアハンで幼少期から育てられてたヤツらだ。」
背景はともかくとして、いわゆる幼馴染みというやつか。
「ちなみに3人とも女だ。」
……カンダタといい、この世界はハーレム志向が強すぎるだろ。
「……ところでボス、一つ教えてほしいことが。」
「なんだ?」
「ボスはなぜ冠を盗んだんですか?」
そもそもそんなことしなければ、勇者と対峙しなくてすんだのに。
「ああ、実はそれについてテメェに話を聞きたかったんだ。」
何か事情でもあるということだろうか。
「……この国の王族はな、奴隷商と繋がっていやがるんだ。遊ぶ金欲しさにな。」
おいおい、王様自らヤバイことやってんのか。
「ここの王族は色々と腐ってやがるんだが、それを良く思わない一部の貴族がこのオレ様に冠を盗むよう依頼したんだ。王の威厳ってのを落とすためにな。そして、それを機にクーデターを企んでるってわけだ。」
話があまりにも壮大すぎた。
「……それで、ゲームとやらではその辺りがどうなっていたのか知りたくてな。」
「いえ、ゲームではそんな裏事情なんてありませんでした。」
「ちっ、期待外れか。」
そんなん期待されても困る。
「……しかし、そうであるなら勇者もロマリア王の依頼なんか受けないのでは?」
「ふん、あの勇者は正義感が強くて真っ直ぐな性格をしてるが、人を疑うってことを知らなさすぎる。いわば世間知らずってヤツさ。偉い人が嘘をつくはずがないと考えてる節もある。……まぁアリアハンがそう育てたんだろう。扱いやすいようにな。」
……勇者がそんなんで、この世界はホントに大丈夫なんだろうか。
こちらの不安を見越したかのようにカンダタが続ける。
「あの勇者は誰かがうまく導いてやらねぇと駄目だ。このままだと、どこかで使い潰されるのが目に見える。」
一般的にRPGゲームというのはいわばお使いゲームみたいなものだけど、そのお使いで潰されるってわけか。
……今の勇者には不安しかないな、こりゃ。
「明日の朝、勇者の姿を確認したらすぐにシャンパーニへ飛ぶぞ。あの勇者のことだ、多少準備に時間をかけるだろうが、まっすぐにそちらへ向かうだろうからな。」
「……ボスは勇者をどうするおつもりですか?」
「うん?まぁ色々と話をしたいだけだ。勇者が聞く耳を持つかはしらんがな。」
……悪いやつの話なんて聞くかっていう態度で来られそうだけど。
「そういえば出発前にも聞きましたけど、なぜ私もシャンパーニに行く必要があるんです?明日の朝、勇者の姿を確認できたら、少なくとも私には用がないのでは?」
「……アリサ達の前では言えなかったがな。勇者がいきなりオレ様に斬りかかってくるかもしれん。万が一、オレ様に何かあった時のためのメッセンジャーが必要だろ?」
そういうことか。
確かにアリサさんがそれを聞いたら何としてでもボスについてきただろう。
「でもそれなら私も危険ってことですよね?」
「テメェはオレ様から少し離れたところで話を聞いてるだけでいい。オレ様が合図したらすぐにルーラで飛べる態勢でな。」
「承知しました。でもボス、くれぐれも死んだりしないでくださいよ。」
「なんだ?心配してくれんのか?」
「アリサさんにそんな報告をしたくないだけです。アリサさんが悲しむ顔なんて、私は見たくないですからね。」
「ふん、そんなことだろうと思ったよ。まぁ心配すんな、あの勇者はまだまだオレ様には及ばんよ。」
相変わらず、凄い自信だ。
「話を戻しますが、もし勇者が冠を取り戻せなかったら、そのクーデターとやらは成功するんでしょうかね。」
「……無理だろうな。」
あ、無理なんだ。
「そもそもオレ様のようなヤツに依頼している時点で、クーデターの連中に行動力なんか期待できねぇんだ。冠が盗まれて2ヶ月以上も経ってるのに、騒動なんて起きる気配もしねぇ。せっかくのチャンスをふいにしちまった。」
「そもそも冠が盗まれた程度で、なんとかなるものなんですか?」
「ああ。冠ってのはいわば王族の象徴みたいなもんだ。それを盗まれるだなんて、前代未聞の、恥ずべき事件ってことさ。」
だから王様は勇者に頼んででも取り戻したいってことか。
「しかしクーデターが失敗に終わってしまうと、ボスのやったことも無駄だったってことですよね。」
「クーデターの連中にとってはな。このまま奴隷商がのさばるってのはムカつくが、オレ様自身は既に報酬を貰ってるから特に問題はねぇよ。それに勇者と話す機会ができたってのも棚ボタもんだ。」
「……ボスは今の勇者に会ってまでして、一体何をしたいんです?」
「……勇者様は世界を救うんだろ?オレ様はこう見えてミーハーなんだよ。」
どうもカンダタは何かを隠している気がする。
多少なりとも命の危険があるというのに、そのリスクを背負ってまで勇者と相まみえたいという理由が他にあるとしか思えない。
翌朝。
王城へと続く道を見張っていたところ、4人の若者が城に向かって歩いてきた。
遠くから見ているため顔まではよく見えないが、先頭を歩いている男はゲームでよく見た特徴的な立ち姿をしていた。
あれが勇者に違いない。
「……どうだ?」
「背格好だけでしか判断できませんが、おそらく間違いないかと。」
「そうか。」
カンダタは少し満足げに頷いている。
「よし、確認もできたことだし、すぐにシャンパーニへ飛ぶぞ。」
「どれくらいで来ますかね、勇者は。」
「遅くとも5日以内だろうな。」
流石は勇者だ、動きが早い。
はたして、勇者とは一体どんなヤツだろうか。
勇者と対決するという恐怖もある一方で、少しワクワクもしてしまう。
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