第11話 子分B(V)
カンダタが帰還した日の夜。
いつもの警備当番の時間が近づいたため、塔の正門まで向かった。
自分の前に警備を担当していたのはヴィクターさんだ。
「ヴィクターさん、交代の時間です。」
「……わかったわ。」
そう返事をするものの、ヴィクターさんは部屋に戻ろうとしない。
……自分1人に警備を任せるのはまだ危険だと考えているのだろうか。
他の3人は信頼してくれて、今では当番を1人で任されるようになったわけだが、ヴィクターさんからはまだ信頼を得られていないようだ。
……悲しいなぁ。
「……ねえ。」
ヴィクターさんがこちらを向く。
「あなたに聞きたいことがあるの。」
いつもにもまして、真剣な目つきだ。
「サマンオサについて、貴方が知っていることを、話して貰えないかしら。」
カンダタにはゲームの内容の全てを話しきれていない。
サマンオサに関する話も省いたままだ。
ただ、アリサさんの話によると、ヴィクターさんはサマンオサの英雄であるサイモンの娘だ。
故郷のこと、父親のことが気になって仕方ないのだろう。
今日のカンダタの話を聞いて信用できると判断したのだろうか。
「……あなたのこと、全てを信じたわけじゃない。異世界だなんてありえないって今でもそう思ってる。……でもその一方で、あなたは私が知らない情報を持っている。そして、ボスはあなたの持つ情報を信じている。」
まぁ、少しでも自分のことを信じてもらえるようになったのは前進か。
「わかりました。あくまでも私の世界にあるゲームでの知識だという前提でお聞きください。」
「何でもいいわ、サマンオサのことが知れれば。」
「サマンオサですが、ゲームの世界では王様は偽物でした。ボストロールというモンスターが王様に化けており、こいつの悪政によってサマンオサの治安が悪化したということになってます。」
「……やはり、あいつは偽物だったか。」
ヴィクターさんの顔がこわばる。
「最終的にはオルテガの息子であるアリアハンの勇者がラーの鏡というアイテムを使って王様の正体を明かし、そのモンスターを倒します。それと、本物の王様は城内にある牢屋に閉じ込められていましたが、無事に勇者に助けられたはずです。」
「本物の王様は無事なのね、朗報だわ。そのラーの鏡というのはどこにあるの?」
「サマンオサの南東にある、毒に囲まれた洞窟の中です。」
「……それは試練の洞窟のことかしら。」
「試練?」
「かつてサマンオサ城の兵士になるに当たって課されていた試練よ。その洞窟に出るモンスターを一定数倒して魔石を持って帰ることが試練になっていたの。もっとも、モンスターが強力になった今ではその試練も中止になっているけど。」
「試練についてはゲームになかったのでわかりませんが、おそらくはそこでしょうね。」
「……ラーの鏡なんて、これまで聞いたことすらないのだけど。」
「おそらく未だ誰も見つけてはいないということではないでしょうか。」
ラーの鏡は洞窟内にある穴から落ちた先にあったはずだ。
きっと誰にも見つけられないまま放置されているんだろう。
「ところで……サイモンという男は知ってる?」
「……ゲームでは名前だけ出てきました。サマンオサの英雄ですよね。」
「ええ、そうよ!そっか、そっちでも英雄として伝わっているのね!」
ヴィクターさんが、とても眩しい笑顔で喜んでいる。
こんな顔もするんだな、初めて見た。
――― 心臓が少し跳ねたのは、不意打ちのせいだろう。
「……それで、サイモンはどうなったの?」
ヴィクターさんの質問で冷静になる。
……とても、答えにくい質問だ。
「……ゲーム内では英雄として伝わっているのみでして、彼の生死とかはそのゲーム内では明らかになっておりません。」
「……そっか、残念ね。無事だといいのだけど。」
……ゲームでは、サイモンは偽の王様によってサマンオサを追放され、追放先の孤島にある祠の中で死んでいた。
ヴィクターさんのことを考えると、正直に言うことができなかった。
「……アリサさんから伺ったのですが、ヴィクターさんはそのサイモンさんの娘さんなんですよね?」
「ええ、そうよ。私は父の意思を継いでサマンオサを救わなければならないの。」
ヴィクターさんの目の奥が光る。
「……そのゲームとやらではアリアハンの勇者が救ったみたいだけど、この世界では私がやるわ。王に化けたそのモンスターは、絶対に、許さない。」
怒りのこもった声質に変わる。
「……あなたに頼みがあるの。」
「なんでしょう?」
「私を……手伝ってくれない?」
もの凄く言い辛そうに、お願いされた。
「偽物の正体を明かすにはラーの鏡っていうアイテムが必要なんでしょう?試練の洞窟にあるのに未だ見つかっていないってことは、きっとかなり見つかりづらい場所にあるってことよね。」
「そうですね、あれは見つけづらいと思います。」
「でもあなたは、それがある場所を知っている。」
「ゲームと同じであれば、まぁ。」
「……さらに言えば、その王に化けたモンスターの強さとかも知っているのでしょう?」
「ええ、まぁそうですね。」
「私に協力してくれたら何でもするわ!だから、お願い!」
美人の「何でもする」という発言は破壊力がありすぎる。
……ってここはふざける場面じゃないよな。
不信感しか持たない相手に頼んででも故国を取り戻したいという彼女の思いは、先程見せた笑顔以上に眩しい。
「わかりました。私にできる範囲になりますが、お手伝いします。」
「ホ、ホントに!?」
「ええ。ただし、ボスに相談の上で、ですよ。」
「ありがとう!ボスは私から説得するわ!!」
あの素敵な笑顔でこちらの手をとり、もの凄く喜んでくれた。
これだけでも報酬を貰ったようなものだ。
「ただ、まだ地力を鍛えるべきだと思います。ヴィクターさんのレベルは今18だったと思いますが、あのモンスターと戦うにはレベルを30近くまで上げる必要があるかと。」
「まだまだ遠いわね。でも良いわ、やるべきことがわかっただけでも。気の持ちようが変わるもの。」
その返事はやる気に満ちていた。
「……言っておくけど、まだ全てを信じたわけじゃないからね。サマンオサに行って詳細を確認してみないと、あなたの言ってることがホントなのかはわからないわけだし。」
急に冷静になったようだ。
「そうですね、ゲームとこの世界とが全て同じだという保障もありませんから。」
「……でも……」
でも?
「……あなたのこと、少しだけ、少しだけは……信用できると思う。」
照れながら、恥ずかしそうにボソボソっと呟くヴィクターさん。
……こんな可愛くて素敵な女の子が不幸になっちゃ駄目だろう。
眩しい笑顔が絶えない、そんな世界にしてあげないと。
だから、頼みますよ、アリアハンの勇者さん。
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