第10話 整合
この世界に来て2ヶ月が経過した。
おそらくアリアハンの勇者が旅立った頃だろう。
その間、レベルは15まで上がり、1つだけだが新しい呪文を覚えた。
その名も「ピオリム」、まさかの戦闘用だ。
正確に言えば戦闘用の補助呪文で、その効果は、味方全体の素早さを上げるというもの。
ゲームでは結構チートな呪文だったはずだ。
「この呪文、ちょっと凄くないですか。」
内心ウキウキしながらドネアさんに聞いてみる。
「私も初めて聞いた呪文だけどねぇ……相手が強くて素早い敵とかなら助かるだろうけど、少なくともこの辺りのモンスター相手なら必要ないわねぇ。」
このレベルまでくると、この辺りの敵ではそもそも相手にならないからなぁ。
ドネアさん、もともとが素早いし。
「……私はとても助かるわ。」
肯定的な発言をしたのは、なんとあのヴィクターさんだった。
「ドネアの言うとおりここでは無駄だろうけど、私はその呪文の効果に慣れておきたい。今後の戦闘ではその呪文を使って貰えるかしら。」
「は、はい。わかりました。」
……サマンオサ絡みだろう。
ゲームではサマンオサの王に化けたボストロールというモンスターと勇者が戦っていた。
この世界でもきっと同じことが起きていて、ヴィクターさんはそれに何かしら気付いてるからこその発言っぽい。
――― これは、一刻も早く、ヴィクターさんとの個別イベントを進めなければ。
2ヶ月経った今でも、ヴィクターさんの壁は厚くて高い。
「――― おう、みんな揃ってるな。」
ふと、後ろから野太い声がする。
「ボス!お帰りなさいませ!」
「ボスだーっ!おかえりー!」
アリサさんとキャシーちゃんが喜んでいる。
「4人とも元気そうだな。……あん?テメェは誰だ?」
「……あなたの子分E、エルスですよ。もう忘れたんですか?」
「冗談だよ。ノリが悪ぃな。」
少ししか話をしたことのない相手に、一体何を期待しているのか。
「少し早いがメシにしてくれ。そこで色々と話をしたい。」
「承知しました。すぐに準備致しますので、それまで部屋でおくつろぎください。」
アリサさん、かなり張り切っている。
カンダタは情報の裏取りをするとか言ってたが、その話をするということだろう。
「……エルス、テメェの話は信用できそうだ。」
料理にがっついてる最中だったから、咄嗟でうまく返事ができなかった。
「どちらまで行かれたんですか、ボス?」
アリサさんが代わりに質問している。
「エルスの話で一番気になったのがギアガの大穴の件だ。さすがに穴に落ちてまでして確かめるつもりは無かったから色々と探っていたんだが、数人ほどが穴に落ちてそのまま行方不明になっている。そして、イシスはその事実を公表していない。」
やはりカンダタはゾーマの存在が気になったということか。
「イシスが何か知っているだろうと踏んで、イシス城内にある関係者しか入れないという書庫を漁ってみた。それでわかったんだが、イシスはバラモスと同等がそれ以上のモンスターの存在を認識しているようだ。ゾーマという名前までは見当たらなかったが、その辺りを察したことが書かれている報告書を見つけた。」
「それを盗んで来たんですか?」
「流石にそれが無くなると大騒ぎになるだろうからな。その場で読むだけ読んで元に戻しておいた。」
よくもまぁ、バレなかったものだ。
「ギアガの大穴で行方不明になったヤツらはイシスのスパイだ。全員ルーラが使える上にキメラの翼まで持たせてな。1ヶ月経過するか誰か1人でも死んだらすぐにイシスに撤退するよう指示していたらしいが、誰1人としてイシスに戻ってきていない。イシスはその事実を踏まえ、何らかの強力なモンスターに監禁されたか、皆殺しにされたか、はたまたルーラで戻ってくることができない世界なのではないかと推察している。」
……ゲームでは下の世界と上の世界をルーラで行き来することができたはずだが、ここでは違うかもしれないってことか。
「……次に調べたのが6つのオーブについてだ。」
カンダタは懐から大きな水晶玉を2つ取り出してきた。
「バラモスに滅ぼされた村テドンと、女海賊んとこから回収してきた。」
おいおい、こいつ、よりにもよってオーブをゲットしてきやがった。
「それ、勇者がラーミアを手に入れるために必要なものですよ。大丈夫なんですか?」
「暫くはオレ様が預かっておく。どうしても勇者様が必要になったらくれてやるさ。……ちゃんと見極めた上でな。」
勇者が相手でも臆さないんだな、この人。
「商人の街とやらにも行ってみたんだがオーブは見つからなかった。あとの3つは面倒くさそうだったから勇者様に任せる。」
あとの3つは、ネクロゴンドの洞窟というゲーム内屈指の難所を越えた先にある祠、ジパングという国にいるボスの八岐大蛇、ランシールにある地球のへそという1人でしか入れない洞窟にそれぞれあったはずだ。
確かにどれも面倒くさそうだ。
「あとラーミアの卵ってのも見てきた。双子の巫女とやらが側でずっと卵を守っていやがったからそのまま放置してきたけどな。……オレ様がオーブを渡さなかったら双子は泣きそうになってたよ。」
何ともまぁひどい男だ。
「とりあえずここまでは確認できた。テメェは貴重な情報源だということだ。」
「信用して貰えたようで何よりです。」
「オレ様は疲れたからもう寝る。明日、また色々と話し合いだ。」
まだまだ自分から聞き出したいことがあるということだろう。
大きなあくびをしながら、カンダタは食堂から出て行った。
……カンダタに話す内容を、予め取捨選択しておいた方が良いかもしれないなぁ。
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