第9話 子分D
この世界にやって来て早くも1ヵ月が過ぎようとしている。
モンスターの動きにも慣れてきて、今では甲冑を脱いで戦っている。
一方で、初日にレベルが2上がったのが嘘かのように、それ以降は少しずつしか上がらなくなった。
それでも、なんとかこの辺りの適正レベルである10にまで到達した。
さぁ、刮目せよ!
子分E【エルス】
職業:サポーター レベル:10
<取得呪文>レミーラ、レミラーマ、トヘロス、トラマナ、ルーラ、リレミト、インパス
(エルス様による呪文の解説)
トヘロス:自分より低いレベルのモンスターとの遭遇を避ける。聖水と同じ効果。
トラマナ:毒沼やダメージ床の上を歩いても平気。
リレミト:洞窟内から外に脱出。
インパス:宝箱に潜むモンスターを見破る。
ルーラを覚えた日なんかは、アリサさんとドネアさんが特に喜んでくれた。
「これで買い物がとても楽になりますね。唯一ルーラが使えるボスは、お忙しくて中々買い物には付き合ってくれませんでしたから。キメラの翼は高いですし。」
「カザーブ村まで歩いて行く必要もなくなるし、結果として聖水代も必要なくなるし。ホント便利な呪文よねぇ。」
ふふん、聖水だってトヘロスを覚えた今となっては必要ない。
しかし、レベル10までに7個も呪文を覚えるとは……やはり天才だったようだ。
この世界に転生させたヤツは、きっとこの潜在能力に目を付けたに違いない。
さぁ、どうだ!見たか!ヴィクタぁぁぁ!!!
「……ホント、戦闘で使えないものばかりね。流石だわ。」
……うん、まぁ、知ってた。
この日はドネアさんと2人でカザーブ村まで週に1度の買い出しにやってきた。
ルーラを覚えて以降、自分と他1名が買い出しに行くことになっている。
自分1人で買い出しに行っても問題ないと思ってそのように提案したのだが、女性専用の買い物とやらがあるらしく、全会一致で否決された。
……ちょっと配慮が欠けた提案だったか。
「いやぁ、ルーラが使えるってのはやっぱ羨ましいわねぇ。」
「キメラの翼があれば問題ないじゃないですか。」
「あれって1つ千ゴールドもするのよ。流石にそんな値段は出せないわぁ。」
確かゲームでは数十ゴールドだった代物なんだけどな。
まぁそんな便利なモノが安売りされているはずがないってことか。
「さっ、ギルドで売るもん売って、皆から頼まれてるモノを買って、そのままデートとしゃれこみましょうか♪」
「この村には娯楽なんて何もないですけどね。」
「そんなの、気の持ちようってやつよぉ。」
ドネアさんはいつだってノリノリだ。
「……アンタもだいぶ馴染んできたわよねぇ。」
カザーブにある小さな酒場兼食事処でランチデートを楽しんでいた。
「そうですね、皆さんによくしてもらっているお陰です。」
「アンタ、キャシーにはタメ口だけと、私らには敬語のままよねぇ。」
「キャシーは明らかに年下ですし、本人からそうお願いされたからってのがありますが。他の御三方にはまだ恐れ多いですね。」
「アンタ25歳とか言ってたっけ。私、アンタよりだいぶ年下だんだけど。ていうか、ボスを除けばアンタが最年長よぉ。」
「そういえば、今更ですが皆さんはお幾つなんですか?」
「アリサとヴィクターが同い年で17歳、私がその1つ下、キャシーは12歳よ。」
全員未成年だったのか。
……この光景も、元の世界だと条例違反になりそうな事案だな。
「アリサさんは頼りになるお姉さんって感じですし、ヴィクターさんは終始あんな感じですしね。」
「……ヴィクターのアンタへの態度は変わらないわねぇ。まぁ彼女も色々あって警戒心が人一倍強いのよ。別に悪気があるわけじゃないからねぇ。」
「そう思うようにしてます。」
「それで、私はどうなのぉ?」
「ドネアさんはこのグループに入るきっかけを作ってくれましたからね。いわば私の恩人です。」
「大げさねぇ。別に私に対してもタメ口で良いのにさぁ。」
「もう少し親密度が上がってからにします。」
「……へぇ、私にいったい何をするつもりなのかしらねぇ。」
ドネアさんがニヤニヤしている。
……下心はできるだけ悟られないよう、気をつけておこう。
「そうえいば、ドネアさんってアッサラームの出身でしたよね。」
「そうよぉ。」
「なんでイシスのオアシスで行き倒れていたんですか?」
「アリサから聞いたの?まぁ情けない話よぉ。」
「よければ教えてください。」
「……うちの実家ってアッサラームにある商家なんだけど、そこでの生活が嫌になって家出したってわけ。それでお小遣いかき集めてなんとか護衛を数名見つけてイシスまで行こうとしたんだけどねぇ。道中にあった小さなオアシスで休んでた時に、その護衛達が私の荷物全部奪って逃げちゃったのよぉ。」
それはまた何とも災難な話だ。
「水はまだしも食べ物が一切なくてねぇ。飢え死にって思ってた以上に苦しい死に方なんだって、身をもって知ったわぁ。」
「そこにボスが助けに来たというわけですか。」
「意識が朦朧としていたから、その時は誰が助けてくれたのかよくわからなかったけどねぇ。ゾンビみたいだったとボスが笑いながら言ってたし、ボスが私を直接助けてくれたみたいよぉ。」
「しかし、そこまでしてでも家を出たかったんですね。」
「まぁねぇ。生活そのものは安定してたというか、むしろお金に余裕があった方なんだけど、好きなこととかできなかったからねぇ。」
その辺りはキャシーちゃんと通じるところがあるな。
「……あと致命的だったのは、親に結婚相手を勝手に決められたことねぇ。」
「自由恋愛をしたかったということですか。」
「当たり前でしょぉ。しかもその相手ってのがホントさえない男でさぁ。名家の長男だかなんだか知らないけど、あんなモヤシ男が私に釣り合うわけないわよぉ。」
ドネアさんの実家としては、その名家とやらと繋がりをもつことによって商家としての権力とか販売網とかを拡大したかったのだろう。
……しかし16歳で結婚か、この世界は随分と結婚年齢が早いんだな。
「……ご実家さんはドネアさんがいなくなったことで、そのダメージも大きかったんでしょうね。」
「そんなの知らないわよぉ。実家はこれまでも割と悪どいコトして稼いでたしねぇ。あの親なら他にいくらでもチャンスを見つけてくるわぁ。」
なかなかに逞しい御家族のようだ。
「……アンタの身の上話とかもこれまで色々と聞いたけどさぁ。浮ついた話とかはこれまでなかったわけぇ?」
ドネアさん特有のニヤケ顔で聞いてくる。
「顔も頭も運動神経も須く平凡ですからね。モテる要素なんてないですよ。」
「……つまんないわねぇ。その諦めてる感じとかが。」
「別に諦めてるってわけでもないですよ。中々うまくいかないってだけで。」
「アンタは何かしら冷めてるのよねぇ。相手に好意が伝わっていないんじゃない?」
そうなのかな、気にしたこともなかった。
そういえば……最後に人を好きになったのっていつだろう。
「……じゃあさぁ、今いる4人の中でアンタのタイプは誰なのよ?」
「それはもちろんドネアさんです。」
「おべっかはいいわよ。どうなのぉ?」
うーん、みんな美人だし可愛いからなぁ。
「4人ともタイプが異なる美人さんですからね。その中から1人を選ぶというのは難しいですよ。」
「……本音は?」
「4人とお付き合いしたいです。」
「ハーレムかぁ、貪欲ねぇ。」
「真面目に答えますと、そういうのは考えたことすらありません。」
「……まぁ1ヶ月程度じゃまだわかんないかぁ。」
ドネアさんが席を立つ。
「さ、そろそろ帰りましょ。デートらしく、最後は仲良く腕でも組んでねぇ。」
「それはいいですね。」
……冗談だと思ったら、ホントに腕を組んできた。
こう見えて、自分は照れ屋さんタイプのDTなんだ。
元の世界では営業をやっていたお陰か軽口をたたくことはできても、こういったボディタッチには一切慣れてない。
プライベートで妙齢の女性と話すことすらほとんど経験のなかった人間にとって、これはあまりにも刺激が強すぎる。
――― 顔が赤くなっているのがバレないよう、俯くのが精一杯だった。
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