第8話 子分C
「いやー、掃除って面倒くさいよねー。」
キャシーちゃんが箒をブラブラさせながらボヤいている。
「マジメにやらないと、アリサさんあたりに怒られますよ。」
「えー、告げ口すんのー!?そういう陰険なのはどうかと思うよー。」
今日はマイエンジェル・キャシーちゃんと一緒にお掃除だ。
各人の部屋はそれぞれがやることとして、掃除担当は食堂に台所、お風呂場、トイレといったところが作業範囲だ。
これを午前中に終わらせて、午後は定例のモンスター退治の予定となっている。
「……ねぇねぇ、エルスのいた世界について色々と聞かせてよー。」
「いいですよ。代わりにキャシーさんの事もお聞きしてよろしいですか。」
「とりあえずさー、その「さん」付けはやめてくれるー?あと丁寧語もー。」
「わかりま……わかったよ、キャシー。」
ホントにフランクな子だな。
さて、キャシーちゃんとの個別イベント開始だ。
「じゃあ先に答えてあげるねー。どんなこと聞きたいのー?」
「そうだね、キャシーはなぜボスの子分になったのか教えてくれる?」
「んー。あんまし楽しい話じゃないけどー。」
やはり良い話ではないようだ。
「私ってさー、ロマリアの、とある貴族の出身なんだよねー。」
アリサさんもそんなことを言ってたな。
「簡単に言えばさー、お家の跡目争いで殺されそうになったから、ママがボスに匿ってくれるよう頼んでくれたのー。」
……やっぱり重たい話だった。
「……キャシーを殺そうとしたのは、実の父親ってこと?」
「そうそう。お兄ちゃんを跡目にしたかったんだけどさー、私の方が呪文を扱う能力が高いっていうか才能があったみたいでねー。その私がいると色々と示しがつかないんだってさー。ほんと、くだらないよねー。」
「えっと、この世界って呪文の才能で家の跡目が決まるものなの?」
「少なくともうちではそうだったみたいだよー。だからって殺すことないよねー。」
奴隷商の存在といい、なかなか物騒な世界のようだ。
「ママは私を殺すことに反対しててさー、私が死んだとみせかけてボスに預けてくれたんだー。何でもママとボスは昔からの知り合いだったみたーい。」
先日からカンダタがキリストレベルに昇華していってる。
「やっぱり家に戻りたかったりする?」
「うーん、そんなことはないかなー。あの家に居ると色々と息苦しかったし、ママとは時々手紙のやりとりをしてるしねー。」
「手紙の存在がバレたらヤバイんじゃない?」
「偽名で出してるし娘だってわかることは書いてないから大丈夫だと思うよー。あとボスが直接ママに手紙を届けてくれてるみたいだしねー。」
ホント面倒見がいいな、カンダタ様。
「お兄さんとは仲良かったの?」
「最初の頃はねー。でも、だんだんと毛嫌いされてきちゃったー。」
あぁ、キャシーちゃんの才能を知って、だんだんと妬ましく思ったというところか。
「……キャシーはさ、今の生活は楽しい?」
「うん、ちょー楽しいよー。呪文いっぱい使っても誰も怒らないしねー。」
キャシーちゃんにとっては呪文が第一ということなんだろう。
「じゃあ、次はエルスのこと教えてー。元の世界ってどんなとこー?」
とりあえず、こちらの世界にはないであろう文明の利器ってやつを教えて差し上げよう。
テレビ、冷蔵庫、洗濯機、ゲーム機、スマホ、車、電車、飛行機、etc……
「ほえー、そんな便利なものがあるんだねー。呪文はどうなのー?」
「残念ながら呪文はなかったよ。」
「なんだー、つまんなーい。私、こっちの世界で良かったー。」
文明の利器ってやつも呪文には勝てないらしい。
「エルスの両親ってさー、どんな人なのー?」
「至って普通だよ。貴族でもなければ奴隷商でもない。もっとも、2人とも10年以上前に事故で亡くなったけどね。」
「事故ってどんなー?」
「さっき教えた車ってやつに乗ってたらさ、別の大きい車にぶつけられちゃってね。」
アレが初めて死を身近に感じた出来事だった。
「……そっかぁ、エルス、可哀想だったねー。ヨシヨシ。」
頭を撫でてくるキャシーちゃんに萌え死にそうになる。
まぁ可哀想とか言われても、もう10年以上前の話だ。
その時の感情なんてずっと思い出せないでいる。
……自分が泣いたことすら、覚えていない。
「呪文のことだけどさ。攻撃呪文で一番強いのってどんなのがあるのかな?」
「系統によって異なるけど、火球系のメラゾーマ、火炎系のベキラゴン、氷系のマヒャド、爆発系のイオナズン、風系のバギクロスってとこだねー。」
その辺りはゲームと同じだな。
「他にはないの?」
「なんでも勇者だけが使える呪文があるらしいよー。たしか雷系だったかなー、ずるいよねー。」
おそらくそれはライデインとギガデインのことだろう。
「即死魔法とかは?」
「あー、ザキとザラキのことだよねー。存在はしてるらしいけど、あれって禁忌だよー。もし使えることが判明したら教会に行って封印してもらわなきゃいけないんだってー。」
「封印?そんなことできるの?」
「うん、正確にはルビス様が封印するんだってさー。まぁその呪文を覚える人なんて滅多にいないっぽいけどねー。」
放置するとヤバイってルビス様が判断したってことか。
やはりゲームと完全に一致しているわけではないんだな、気をつけておこう。
「蘇生呪文の方はどうなってるのかな?」
「蘇生?」
「うん、ゲームではザオリクとかザオラルっていう、死んだ人を生き返らせる呪文があったんだけど。」
「へー、そんな凄い呪文もあるんだー。こっちではそんな呪文聞いたことないよー。」
「……えっと、じゃあ死んだ人は教会で生き返らせることもできないの?」
「もちろんできないよー。死んだらそれまでってことだねー。」
……なんてことだ、この世界での生存難易度が大きく跳ね上がってしまった。
死んでも何とかなるだろうって甘く考えていた。
「……まだ色々と聞きたいことがあるけど、早く掃除を終わらせないとね。マジで怒られちゃうかもしれないから。」
「はいはーい。また色々とお話聞かせてねー。」
――― この子には汚れってのをあまり知らずにいてほしい。
この子の純粋さは、どこの世界にいっても、とても貴重なものだ。
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