第7話 子分A

 この日はレベルが2つ上がったあたりで終了することとなった。

 1日で2つ上がるとは予想外だったが、敵がそれなりに強いというのもあるのだろう。

 なにより、ちゃっんとレベルが上がってくれてホッとする。

 レベルアップ音でも聞こえるのかと思ったが、体中に活力が湧いた感覚がどうやらそれだったみたいだ。

「何か呪文は覚えましたか?」

 アリサさんが聞いてくる。

 ……覚えましたよ、なんと2つもね!

 これってさ、もう天才ってやつじゃんね?

「レミーラとレミラーマですね。」

「どういった効果なのでしょうか。」

「レミーラは洞窟の中とかで照明として使うもの。レミラーマはフィールド上とかに落ちているアイテムを発見するもののようです。」

「……便利ですね。」

「……はい。」

 所詮はサポーターということか。

 もちろん期待なんかしてなかったよ……ちくしょう……。

 アリサさんの苦笑いが心に染みる。

「ねぇねぇ、そのレミラーマってやつさ、使ってみてよー。」

 キャシーちゃんからの無邪気なお願いだ、応えないわけにはいかない。

「やってみますね。レミラーマ!」

 数メートルほど離れた草むらの辺りがぼんやり光っている。

 お、早速なんか発見したか?

「……2ゴールド見つけました。」

「おー、すごーい。お金持ちになれるねー。」

 キラービーが落とす魔石は10ゴールドになるみたいですけどね。

「それで、呪文は何回使えそうなのぉ?」

 ドネアさんが尋ねてくる。

「今の私ですと、レミーラとレミラーマ、併せて4回ですね。」

「随分とちっぽけな成果ね、あなたと同じで。」

 ヴィクターさんからの蔑みも、ここまでくるとクセになりそうだ。


「……エルスさん、今日は私が料理当番なのですが、一緒にやってみませんか。」

 アリサさんのような美人からのお誘いを断るわけがない。

「ええ、私も早く覚えたいですし。よろしくお願いします。」

「料理はお得意ですか。」

「得意というわけではありませんが、元の世界に居た頃は10年ほど1人で暮らしていましたので、必然と覚えました。」

 あまりお金もなかったからね。

「ではその腕前に期待してますね。」

 アリサさんがいたずらっぽく微笑む。

 これで落とされる男性も数多くいそうな笑顔だ。


 食料のほか、砂糖や醤油などの基本的な調味料も元の世界と同じだった。

 お米や味噌まであるのは正直意外だった。

 あと、昨日知ってやはり意外だったのだが、きちんと上下水道も整備されていた。

 トイレも、お風呂も、シャワーまであるとは。


「それでは、エルスさんはそちらの野菜を切ってもらえますか。」

「わかりました。」

 腕の見せ所だ!って意気込むことでもない。

 淡々と野菜を切っていく。

「アリサさん、料理しながらですが、少しお話してもよろしいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。」

 とりあえず、最も知りたいことを聞いてみる。

「……我らがボスについて教えてください。」


「ボスのことですか……。」

「ええ。ボスは、普段いったい何をやっているのでしょうか。」

「ボスは基本的に1人で行動していることが多いです。行き先や内容については私達にもあまり教えてくれません。」

「一緒に行動することはないんですか?」

「私達と共に行動するのは、最近だと商隊を襲う時くらいですね。」

 なんかいきなり物騒な話が出てきた。

「その……商隊を襲う理由はお金のためですか。」

「それもありますが、一番の目的は、奴隷商の壊滅です。」

「奴隷商?」

「ええ。この世界において人身売買は違法とされております。しかし、それでもそのような輩がいるわけでして。」

 マフィアみたいなものか。

「ロマリア地方では特に人身売買がひどく、主に子供がターゲットとされております。ボスがここを拠点の一つとしているのも、その子供達を救うためだそうです。」

 ……すげー良いヤツじゃないか、カンダタ。

 もちろん信じてたさ、当たり前じゃないか。

「奴隷商から解放した子供達を教会や孤児院に連れて行っております。その際に奴隷商から奪ったお金を寄付しているんです。」

 カンダタの株価が爆上がりして止まらない。


「……私もボスに救われた奴隷の一人でした。」

「……そうだったんですか。」

「元々は小っぽけな、誰も知らないような村で生まれ育ったのですが、生活に困窮した両親が私を奴隷商に売り払ったのです。」

 何とも重たい話だが、この世界ではよくあることなのだろう。

 こんな美人がこんなトコにいる時点で訳ありだとは思っていたが。

「……ボスは私にとって救いの神なんです。私は、ボスのためならどんなことでもやってみせます。」

 アリサさんの声に熱がこもる。

 そりゃそうだ、自分だってその立場だったなら同じように思うだろう。

「ボスに助けられた後、教会や孤児院に行くことは考えなかったのですか。」

「ボスに仕えることが私の使命だと、助けられた時にはっきりと感じました。ボスはずっと渋い顔をしていましたけれども、最終的には私を受け入れてくれました。」

 アリサさんは見た目に反して激情家なのかもしれない。

 そして、押しも強いんだろうな、あのカンダタを押し切るだなんて。


「……他のお三方も同じような理由で?」

「キャシーさんはロマリア国のとある貴族からボスが引き取ってきたとのことですが、詳しいことは私の口からは申し上げられません。ドネアさんはイシス地方にあるオアシスで息も絶え絶えになっていたところを拾ってきたと言っておりました。」

「ヴィクターさんは?」

「……サマンオサという国がどのような状況か御存知ですか?」

「ええ、治安が悪化している国ですよね?」

「はい。ヴィクターさんはサマンオサの英雄であるサイモンさんという方の娘さんでして、そのサイモンさんにヴィクターさんの保護を頼まれたのだそうです。」

 ……意外なところと繋がった。

 ゲームではモンスターがサマンオサの王様に化けていて国を荒らしており、その国の英雄サイモンも偽物の王により追放されていた。

 この世界では、国の危機を察したサイモンが、カンダタに自分の娘を逃がすよう依頼したということなのか。

 ……しかし、カンダタがあのサイモンの知り合いで、しかも、大事な娘を預かるほどの仲だなんて、そんな設定はゲームにはなかったはずだ。

「……それぞれ詳しいことをお知りになりたければ、皆さんからお聞きください。」

「今までの話ですが、私に教えてしまっても大丈夫なんですか?」

「エルスさんはもう私達の仲間なんですから特に問題ないでしょう。……まぁ、ヴィクターさんあたりは怒っちゃいそうですけどね♪」

 ……だからその笑みは卑怯だって。


 しかし、ボスのことを聞き出すつもりが、いつのまにかアリサさんたち4人の話になってしまった。

 4人とはそれぞれ個別イベントをこなしていくこととして、カンダタとも一度じっくり話をしてみたいところだ。

「さ、早く料理を仕上げましょう。そろそろキャシーさんあたりが……」

「ねー!ご飯まだー!?」


 お腹をすかせた子猫ちゃんが騒ぎ始めた。

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