第6話 育成
「……アンタ、期待に応えてくれるわねぇ。」
ドネアさんがニヤニヤしながら話しかけてくる。
「いいじゃないですか。パーティとして考えると最高の形ですよ。」
アリサさんが優しい言葉をくれる。
「あーあ、一緒に呪文打ちたかったなー。」
キャシーちゃんがつまらなさそうに嘆く。
「……せいぜい役に立つことね、戦闘以外で。」
ヴィクターさんは相変わらずだ。
「レベルは1。職業はサポーターですね。」
フラグ回収は早かった。
攻撃呪文に憧れていただけに、神父様からの宣告はあまりに無慈悲だった。
……まぁいい、ゲームでの盗賊は結構強かった。
サポーターもきっと盗賊と同じくらの強さに違いない……と信じたい。
「 ――― ところで、職業が同じ人は皆同じ呪文を覚えるものなんですか?」
「いえ、それには個人差があります。僧侶ですと、回復呪文の最高クラスとなるベホマズンを覚える方もいれば、ホイミ程度しか覚えられない方もいらっしゃいます。」
「ではアリサさん御自身も、今後どんな呪文を覚えていくのかはわからないということですね。」
「はい、そのとおりです。」
いわゆる才能の有無が問われるということか。
「戦士や武闘家でも、力や素早さとかには個人差があるということですね。」
「そのとおりよ。打たれ強さとかもかなり違うわ。私は武闘家の中でもかなり素早い方だと自負してるわよぉ。」
ドネアさんが自信満々に言う。
「では、一度拠点まで戻って態勢を整えてから、拠点の周辺でモンスター退治といきましょう。」
「拠点まで戻りながらの道中で戦うってのは駄目なんですか?」
「人目につく可能性もありますからね。できるだけそれは避けたいと思っています。」
「何か理由があるんですか?」
「……ボスはこの地方では有名な御方ですから。」
……悪い意味でってことなんだろうなぁ。
「エルスさんはまだレベル1ですので甲冑を着たまま戦ってください。サポーターですのでいずれは甲冑ではなくフードの方が戦いやすくなると思いますが、甲冑の方が守備力が高いですので。あと、チャンスと見たら攻撃してみてください。」
アリサさんの指示に従い、甲冑を身に纏う。
さっきのカザーブ村でも身を隠すために甲冑を着用していたのだが、想像以上に重い。
ヴィクターさんが軽々と着こなしているように見えたから、正直甘く見ていた。
これがレベル差というやつか。
「……来たわよ、アニマルゾンビ3体。」
ヴィクターさんの声で俄に緊張が走る。
「ほんじゃ、いっくよー。ギラ!」
キャシーちゃんが呪文をぶっ放した。
「またキャシーさんはいきなり……では続きますよ、バギ!」
アリサさんがこれに続く。
「後は任せてぇ!行くわよ、ヴィクター!」
「わかったわ!」
ドネアさんとヴィクターさんがアニマルゾンビに突撃する。
ドネアさんが一気に2体を蹴りとばし、ヴィクターさんが残り1体に斬りかかる。
……1歩も動かないまま、いや、動けないまま、初陣が終わった。
「……ごめんねぇ、エルスの分を残しておくの、忘れてたわぁ。」
あまり悪びれてない感じでドネアさんが謝ってきた。
「動けなかったこいつが悪いのよ。」
ヴィクターさんの言葉のトゲが痛い。
……しかし凄かったな。
ヴィクターさんもドネアさんも、素人目からすると達人級の動きだった。
そしてあの呪文。
何となくのイメージはあったけど、その想像を超えるものだった。
モンスターの足下から突然吹き出てくる炎と風、確か両方ともグループ範囲の呪文だったか。
何よりも、忘れかけてた厨二病心をもの凄く擽らせてくれる。
……返す返すも自分の職業がサポーターというのが恨めしい。
「しかし、こういう戦い方で私のレベルは上がりますかね。」
「無理に決まってるでしょ。あなた、何もやっていないんだから。」
「やっぱりそうですよね。」
「……ボスに言われてるから協力はするけど。先行きが不安だわ。」
ため息交じりのヴィクターさんのセリフに肩を落とす。
「……私とキャシーさんの呪文で死にかけとなったモンスターが居ましたら、エルスさんの攻撃でとどめをさしてもらいましょう。先程のアニマルゾンビくらいの状態ならいけますよ。」
アリサさんが励ましてくれた。
「レベルが上がったらわかるものなんですか。」
「ええ、実感すると思いますよ。」
どんな感じだろうか。
そもそも、ちゃんとレベルが上がってくれるのだろうか。
「ところで、モンスターはゴールドとか落とさないんですか。」
「ゴールドは落としませんが、このように魔石を落とします。こちらをギルドで売ればゴールドになりますよ。我々の生活資金になります。」
アリサさんが消えたモンスターの跡に残されていた石を拾い、見せてくれる。
「それが魔石ですか?」
「ええ、魔力を秘めた石です。モノを温めたり冷やしたり、人が生活する上での様々なエネルギー源となります。」
「モンスターによって落とす魔石は異なったりするんですか?」
「魔力の量が異なります。一般的に強いモンスターほど魔力を多く含んだ石を落とします。そして魔力の量によって売値が変わるという仕組みになっています。」
「その魔力の量をギルドで測定して、そのまま買い取ってくれるということですね。」
「はい、そのとおりです。」
この世界のギルドは、ラノベとかでよく見る冒険者用ギルドというよりも商業用ギルドに近そうだ。
「また来たよー。今度はキラービー4体だねー。」
「では先程言った手はずでいきましょう。」
これが自分にとってホントの初陣だ。
改めて、緊張感が走る。
――― 結論、YJS(やっぱり、呪文は、凄い)。
ギラとバギで2体のキラービー消え去り、残り2体も素人目でわかるくらいヘロヘロになっている。
そのうちの1体に向かって、見様見真似で思いっきり剣を振り下ろす。
「……おりゃぁっ!」
正直、かなり不格好だったと思う。
それでも拍子抜けするくらいあっさりとキラービーは消え、あとには魔石だけが残った。
素人の剣でも倒せるくらいだからな、瀕死もいいトコだったんだろう。
「お見事でしたね、エルスさん。」
アリサさんからのねぎらいの言葉がたまらなく嬉しい。
「子供でも倒せるわよ、あれなら。」
そしてヴィクターさんは中々デレてくれない。
「ある程度エルスさんが強くなるまではこのスタイルを続けましょう。」
まぁとにかく頑張ってみるしかない。
現状、頑張るのは他の4人で、自分は傍目からするとタカリ状態なんだろうけど。
でも、この冒険している感じがたまらない。
異世界に来たんだなって、改めて実感した。
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