第5話 職業

 食堂にて一同が介する。

 目の前の料理から漂うスパイシーな匂いが、空腹感を更に刺激してくる。

「私の郷土料理よぉ。」

 ドネアさんが自信満々に言う。

「故郷はどちらに?」

「アッサラームという街よ。」

 たしか、ぼったくり商人やパフパフおじさんがいる街だったな。

「では、いただきましょう。ルビス様に感謝を。」

 アリサさんのかけ声と共に、皆が両手を合わせて目を閉じている。

 とりあえず真似しておこう。

 ……やっぱりルビス「様」だよな。呼び捨てにするカンダタは恐れ知らずだ。

「……おぉ、おいしいですね。」

 空腹もあってか凄く美味い。

 ドネアさんはこちらの反応を見て満足げだ。


「……エルスさん、食べながらでも良いので聞いてください。」

 アリサさんの言葉に頷く。

「この塔で生活するに当たり、幾つかの決まり事を守って頂きます。」

「はい。」

「エルスさんも含めて皆にやってもらうことは、料理、清掃、買い出し、そして警備です。これらを輪番制で行います。」

 どれも生活する上で必要なことだろう。

「食事と清掃はそれぞれ1日ごとに交代。警備とは塔の正門での見張りでして、夜10時から朝6時までの8時間、2時間ごとに交代で4人全員でやっています。買い出しについては週に1度、1人又は2人でカザーブ村まで行っております。」

「私が来たことによって、その辺りのローテはどう変わりますか?」

「警備については1人は休みとして、残り4人でやるようにしましょうか。各業務のローテーションは私が作成して皆様に毎月お渡し致します。」

「了解しました。食事についてはこちらの世界の材料等を把握していないので、暫くどなたかにお手伝いをお願いできませんか。」

「それでしたら、私がお手伝いします。」

 アリサさん、ホント頼りになるし優しい。


「……ホントにそいつにもやらせるつもりなの?」

 突然声を上げた人は、金髪ショートの甲冑女性、ヴィクターさんだった。

「そいつが信用できるかわからないのに、無謀じゃない?」

 見た目通りに厳しい人みたいだ。

「ボスが子分と決めた方ですから信用できますよ、ヴィクターさん。」

「……ボスを疑ってるわけじゃないわ。疑わしいのはそいつだけよ。」

 アリサさんがフォローするも、更に反発するヴィクターさん。

「そもそも異世界から来ましたって何よ。頭がおかしいとしか思えないじゃない。」

「そうですよね。当事者である私ですら、そう思います。」

 ……すごい睨んできた。

 美人なだけに迫力もある。

「その妙に落ち着いてる態度も気に入らないわ。どこかのスパイなんじゃないの。」

「いえ、落ち着いているというより、もう諦めの境地っていうやつでして。」

「……そういう態度が怪しいのよ。」

 こりゃもう何を言っても駄目なようだ。


「……では暫くはこれまでのローテーションで、エルスさんはどなたか1人に付くという感じでやっていきましょうか。実践と監視を兼ねる意味で。」

 アリサさんからの提案に対し、

「えー、別にいいんじゃなーい、エルス1人に任せちゃってもさー。」

 暢気な声をあげたのは、とっても可愛いキャシーちゃんだ。

「ボスが子分にしたってことはさー、エルスは大丈夫だってボスが判断したってことでしょー。そんなに警戒しなくたって良いと思うけどなー。」

「キャシーは危機感が足りないのよ。こいつの言っていること信用できるの?」

「ヴィクターこそ気にしすぎだと思うけどねー。それに異世界から来たって面白いじゃーん。色々とお話聞きたいなー。」

 語尾を伸ばす子は好きじゃないけど、この子はとっても可愛いから許せてしまう。

「……あ、そっかー、エルスと一緒に仕事してれば、そん時にエルスから色んな話が聞けそうだねー。じゃあ、私もアリサにさんせーい。」

 あっさりと前言を撤回するキャシーちゃん。

「私がエルスを連れてきたわけだけど、これまでの言動をみるに、少なくともエルスに害はないと思うわよぉ。まぁでもヴィクターの不安もわかるし、アリサの言うやり方で暫く様子見ってことでいいんじゃない?」

 ドネアさんも同意する。

「ではヴィクターさん、私の提案したやり方でよろしいですか?」

「……それで良いわよ。こいつと馴れ合うつもりはないけどね。」

 目下の課題は、いかにしてヴィクターさんと仲良くなるかだなぁ。


「皆さんからの信用を得るべく頑張ります。それはそれとして、幾つか質問してもよろしいですか。」

「はい、私でよければお答えしますよ。」

 アリサさんはいつだって優しい。

「皆さんのレベルとか、使える呪文とか、あとジョブというか職業というか、そういったのがありましたら教えて貰うことはできますか。」

「はい、問題ありませんよ。ヴィクターさんもよろしいですか?」

「……まぁコイツに知られたところで大した問題はないから良いわよ。」

「では……」

 4人の能力はこちら!


・子分A【アリサ】 

 職業:僧侶 レベル:13

<取得呪文>ホイミ(回復)、キアリー(毒治療)、キアリク(麻痺治療)、バギ(風系攻撃)、スクルト(守備力増加)


・子分B【ヴィクター】

 職業:戦士 レベル:14

<取得呪文>なし


・子分C【キャシー】

 職業:魔法使い レベル:13

<取得呪文>メラ(火玉攻撃)、ギラ(火炎攻撃)、ヒャド(氷系攻撃)、ルカナン(守備力減少)


・子分D【ドネア】

 職業:武闘家 レベル:14

<取得呪文>なし


 前衛2人、後衛2人とバランスの取れたメンバーだ。

「ボスのレベルとかはどんな感じなんですか?」

「それが私たちにも詳細を教えてくれなくて……。ただ、私たちが4人がかりで挑んでもボスには敵わないと思います。」

「そりゃ凄い。流石はボスですね。」

「はい。ボスは凄いんです。」

 アリサさんが嬉しそうに微笑む。

 尊敬してるんだなぁ、カンダタのこと。


「職業やレベルとかはどうやって知ることができるんですか?」

「教会にいる神父様やシスターさんが判別してくれますよ。」

 ……あれ?レベルに関してはゲームでは王様が教えてたよな。

 まぁ、便利だからいいや。

「では、私のレベルとか職業とかもそれでわかりますかね。」

「ええ、判別できると思いますよ。明日はまずカザーブにある教会でエルスさんの能力を判別してもらうことにしましょう。」

「ありがたいです。」

 ちょっと楽しみだ。

 絶望する可能性もあるけど。


「あと、ちからとか生命力とか魔法力とか、そういったステータスというか能力を数値化して見ることはできますか。」

「ゲームというものはそこまでわかるのですね。こちらでは数値として見てとれるのはレベルだけになります。」

「へー、能力も数値で見れるってのはなかなか便利だねー。」

 キャシーちゃんが食いついてきた。

「そのゲームではどんな能力がわかるのー?」

「えっと、ちから、すばやさ、みのまもり、かしこさ、うんのよさ、生命力を示すHP、呪文の容量を示すMPとかだったと思います。」

「呪文の容量ってどういうことー?」

「例えばですが、メラの呪文を唱えるのにMPを2消費するとして、自身のMPが30あれば計15回メラを唱えることができるってことですね。もちろん呪文によって消費するMPは異なりますが。」

「なるほどねー。私が呪文使うときはパッと頭に浮かぶんだよねー、あとメラ10回打てるとかさー。」

「私もそんなイメージが頭に浮かびます。」

「なるほど。こちらの世界ではそうなんですね。」

 ステータスが数値で可視化されないのはちょっと不便かもしれないな。

 ……ステータスオープンって呟いても、何も出てこなかったし。


「生命力っていうのは何?」

 今度はドネアさんだ。

「生命力を示すHPとは、例えばそれが50あったとして、キラービーからの攻撃で10のダメージ受けると、HPが残り40になるっていう感じです。HPが0になれば死ぬということです。」

「なるほどねぇ、数値で見えるんだったら随分と戦い方が楽になるわねぇ。」

 ドネアさんが少し羨ましそうに呟く。

「……レベルが上がれば、自分のちからとかがどれほど増えたのかを数値で確認することができるということね?」

 気がつくと、ヴィクターさんもこの会話に興味を示していた。

「はい、そのとおりです。職業によって能力値の上昇値は異なりますが。」

「自分がどれだけ強くなったかを、具体的に見てとれるというわけね。」

 信用できないとか言ってたのに……そのギャップに萌えそう。


「ところで、戦士、武闘家、僧侶、魔法使い以外にはどんな職業があるんですか?ゲームでは、商人、盗賊、遊び人、賢者とかがありましたが。」

「盗賊や遊び人が職業だなんてありえないわよぉ。商人も別に職業ってわけではないわねぇ。あれはギルドの許可さえあれば、誰でもなれるものだし。」

 ドネアさんの言うことももっともか。

 てか、この世界にはギルドがあるのか。

「賢者も伝説の職業と言われております。僧侶と魔法使いが扱う全ての呪文を使えるとされている職業ですが、少なくともここ数十年は現れていないという話です。」

 アリサさんの言うとおりだとすると、「さとりの書」の存在はどうなってるんだろうか。 ゲームでは、それさえあれば「ダーマの神殿」で賢者に転職することが可能だった。

 ……まぁ「さとりの書」は簡単に見つけられる場所にはなかったはずだから、誰にも見つからないまま伝説化しているのかもしれない。

「他にあるのは「サポーター」だけよぉ。」

 ドネアさんが教えてくれる。

「サポーター?」

「そう、サポーター。どちらかといえば戦闘以外で力を発揮する職業ねぇ。パーティに1人いると便利よぉ。」

「はぁ、随分と変わった職業なんですね。」

「うちのボスもルーラを使えるからそうなのかなと思ったんだけど。ボスは攻撃呪文も使えるし、剣も得意なのよねぇ。」

 ルーラはサポーターが覚える呪文なのか。

 しかし、ドネアさんの話からすると、ひょっとしてカンダタはダーマの神殿で何度か転職しているのかもしれない。

 ……ゲームにおける転職システム、当時は凄く斬新だった。

 魔法使いから戦士に転職して魔法が使える戦士になれるとか、当時は子供心を大いに擽ってくれたものだ。


 ……しかし、サポーターか。

 ゲームにはなかった職業だが、盗賊に近い職業なのだろうか。

「アンタがもしサポーターだったら、このパーティもかなりバランス良くなるわねぇ。」

「そうですね。エルスさんがルーラを使えるようになってくれますと、買い出しも楽になりますので大変助かります。」

「……戦闘では役立たず職だから、こいつにはお似合いかもね。」

「えー、私と一緒に呪文唱えようよー。ダブルギラとかやってみたーい。」

 みんな好き勝手言ってくれる。


 個人的にはやはり攻撃呪文を使ってみたい。

 異世界と言えばやはり呪文だ。

 当然、第1希望は魔法使いだな。DTだから素質もあるかもしれない。


 ……着々とサポーターのフラグが立っている気もするが、きっと気のせいだろう。

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