第2話 シャンパーニ

「まいった……」

 牢屋っぽいところに、ひとり取り残されていた。

「とりあえずここで待っててね。ボスに話してくるわぁ。」

 そう言ったっきり、フード女は戻ってこない。

 警戒されているのか、扉は施錠されているため、外に出ることもできない。

「……お腹すいた……」

 この世界に来てから、もう半日は経っている気がする。

 寝っ転がって呟くも、床の上では寝心地も悪い。

「……シャンパーニの塔かぁ。じゃあボスってのはやっぱり……。」


 カザーブからここまでの道中、フード女は所々で何か振りまきながら歩いていた。

「すみません、それが聖水ですか?」

「そうよ。あぁ、記憶喪失だったわねぇ。これでモンスターは近寄らないわ。」

「はぁ、凄いですね。」

「まぁ、レベルの低いヤツが使っても効果ないけどねぇ。」

 どうやら「レベル」という概念もあるらしい。

 自分のレベルは幾つなんだろう?

「もう少しこの世界のことについて教えてもらえませんか?」

「この世界って……変な聞き方するわねぇ。」

「すみません、何か気分が浮ついてて……」

「まぁいいわよぉ。で、何が聞きたいの?」

 結構親切な女性のようだ。

「そういえば、今更ですが貴女のお名前を教えてもらえませんか?」

「それは秘密よ。ボスの許可がもらえたら教えてあげるわぁ。」

「じゃあ、どんな呪文が使えるのかとかは?」

「それも秘密ねぇ。」

 呪文もあるということか。

 しかし、随分と秘密を徹底してるなぁ。また後で聞けばよいか。


「ここら辺りで出てくるモンスターって、どんなヤツらなんですか?」

「この辺りだと、キラービー、ぐんたいガニ、さまようよろいってところねぇ。」

「そのモンスター達のレベルって、幾つくらいなんですか?」

「大体8~10くらいかなぁ。」

 聖水は自分よりもレベルが低いモンスターの出現を抑える効果があったはずだ。

 となると、このフード女は少なくともレベル10以上ってことか。


「……変なことをお聞きするかもしれませんが、バラモスというモンスターのボスみたいなのは居たりしますか。」

「あぁ、それは覚えてるのねぇ。」

 バラモスは顕在っと。

「バラモスがいるということは、その一方で勇者とかは居ないんですかね?」

「オルテガという人がアリアハンから旅立ったけど、もう10年前から行方不明よ。有名な話だけどねぇ。」

「そのオルテガの息子は勇者として旅立っていないんですか?」

「……聞いたことないわねぇ。」

 ……え、いないのか?

 ゲームそのものの世界ってわけでもない?

「バラモスを倒すことはできないんですかね。」

「現状は無理なんじゃない?どこの国も防衛で手一杯って感じだし。」

 やっぱり勇者じゃないと倒せないってことか。

「……見えてきたわよぉ。うちらの拠点、シャンパーニの塔がねぇ。」

 ……その名前を聞いて目眩がした。


「……やっぱりカンダタなのかなぁ。」

 カンダタ。

 ゲームにおける最初の中ボスのような存在。

 ゲームでは、このシャンパーニの塔とバハラタという村の東にある洞窟で、計2回にわたり勇者と闘うことになっていた。

 ゲームだと、カンダタは覆面パンツの変態オヤジっていうイメージしかないけど、あのフード女はボスをナイスガイだと言っていた。

 カンダタがゲーム通りの姿であれば、ここのボスは違うかもしれない。

 ……頼むからそうであってほしい。


――― しかし、自分をこの世界に転移させた奴は、一体何を考えているんだろう。

 なぜ転移先が「カザーブ」なんだろうか。

 普通は勇者がいる最初の国「アリアハン」に転移させるべきじゃないか。

 そこでゲームの知識を駆使して勇者を助けるってのが王道だろうに。

 ……そもそもチート能力はどうした。

 言葉が通じること、ゲームの知識があることが特典ってヤツなのか。

 それ以上は過分な望みということか。

 ……考えれば考えるほど、色んな疑問というか、愚痴が出てきてしまう。


「お待たせ。ボスがアンタに会うそうよぉ。」

 一人愚痴っているところに、ようやく例のフード女が現れた。

「随分と時間がかかりましたね。」

「……色々と報告することがあったからねぇ。」

 それにしては待たせすぎな気もするが……まぁ言っても仕方がない。

「最上階まで上がるから。着いてきてねぇ。」

「最上階って何階まであるんですか。」

「8階よぉ。」

 ……また目眩がしてきた。

 エレベーターなんてものにはどうも期待できそうにない。


 あとは……ボスがカンダタじゃないことを祈るのみだ。

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