蟻を殺すと、雨が降る
小さい女の子が、ただ一心にアスファルトを見つめては蟻を殺していた。
茹だるような夏の日のことだった。自動販売機で何か冷たいものでも買おうかと立ち寄った公園で、蟻が死んでいた。それをはっきりとみたわけではなかったけれど。
騒がしくざかざかと走り回る小さな物言わぬ虫は、静かに死んでいく。子供の無邪気な残酷さは誰にも責められないけれど、またそれだけ怖くもあった。
ガコン、と清涼飲料水が落ちてきて、四桁の番号を揃えるくじが始まっていて、当たった試しはないけれど何気に目で追っていた。そんな時に目に入ったのが、先述の一心に蟻を殺す子供で、気付いたらくじなんてとうに終わっていた。
冷えた釣り銭を財布に入れながら、自分も同じことをしていたような遠い記憶を思い出す。だから無性に気になるんだろう。
そして、自分も同じことをしていたから、こうやって平然とキャップを回していられるのだ。ぼうっとしていたら、遠くの空で雷が鳴った。こちら側はずっと晴れているのに。
雲がだんだんこちらに流れてきて、ポツポツと大粒の雨が降り出した。女の子はとっとと簡単な作りのベンチと机がある屋根の下へと駆け足で向かっていく。その足取りは軽く、やけに嬉しそうだった。
ありをころすと、あめがふる。
そんな迷信があったっけ。
贄になった騒がしくて静かな虫たちは、雨にさらされて、きっと川へ、海へと流されていくんだろう。残酷な天気雨はしばらく降り続けた。
あさぼらけ 浅緋 アル @asaake_al
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