第188話 スキンシップ
ラフラとの話に決着がついた。
俺とリリア、それにセシリアたちの日々に平穏が戻る。
少なくともこの数日間は非常に穏やかな時間を過ごすことができた。
校内では未だにラフラの悪評が流れるものの、俺たちがそれを積極的に沈静化させることで問題にはならなかった。
しいて言うなら……。当の本人が学校に来ていないことか。
リリアを襲おうとしたあの事件以来、ラフラはもう三日以上も学校に登校していなかった。
理由は体調不良らしいが……。恐らく、俺たちに合わせる顔がないのと、自分の悪評が広がっているため行きずらいのだろう。
自業自得ではあるが、彼女には一刻もはやく復帰してほしい。
婚約者にすることは無理でも、友人として対等に話すことはできるのだから。
そんな淡いを期待を込めて、俺は窓の外に広がる空を眺めた。
透き通るほど青い。
「マリウス様、マリウス様」
のんびりと休み時間に外を眺めていると、ふいに背後から声をかけられる。
視線をゆっくりそちらへ向けると、ほとんどゼロ距離にリリアの顔があった。
当然、俺は驚く。
「——り、リリア……」
「はい。あなたの妻であるリリアです」
「なんでそんなに近くにいるのかな? 息が当たるほどの距離感なんだけど……」
「はい。愛しいマリウス様に声をかけようとしたところ、何やら外を見つめたままボーっとしてましたので」
「理由になってないと思います」
「暢気な顔も素敵でした。思わずその頬に口付けしたいくらいには」
「それってどちらかと言うと俺の台詞では?」
「じゃあ言ってください。どうぞ」
「いや言わないけども」
「——なぜですか?」
カッ。
急にリリアの目が見開かれる。最初は笑顔だったのに表情も真顔に変わっていた。クソ怖い。
「な、なぜって……。恥ずかしいからに決まってるだろ」
見つめ合ったままだと気が狂いそうになるので目を逸らした。
すると、彼女が俺の頭を両手で掴む。ギギギ、と無理やり正面に戻された。
再びリリアと目が合う。すでに彼女の瞳はどす黒い感情に染まっている。やばばば。
「恥ずかしがらないでください。最近はよく甘い言葉を囁いてくれるじゃないですか。私は嬉しいんですよ? ようやくマリウス様が私のことを見てくれたって。なのに……。次はどこの女ですか? きりきり吐いてください。私が襲いますよ」
「落ち着いてください」
「私は冷静です。ええ。いつも冷静でしょう?」
絶対にウソだ。
あのどす黒い目をしてる時のリリアは、間違いなく冷静じゃない。
ここのところずっと落ち着いていたから忘れていたな、この感覚。久しぶりだと心臓を掴まれたみたいな謎の痛みに襲われる。そしてその手にした剣をしまってくれ。
お前は一体なにをしに行くつもりだ。いや、浮気とかではないんだけどさ。
「……わかったよ。ごめんな、リリア。これで許してくれ」
そう言って彼女の拘束を解くと、目前に迫ったリリアの頬にキスをする。
唇じゃないのはせめてもの抵抗と、角度的に唇だと周りにバレる恐れがあったから。
すぐに口を離してリリアの様子をたしかめる。
「~~~~~~!!」
わーお。
自分からこの手のスキンシップを望んでおきながら、リリアの顔は真っ赤になっていた。まるで林檎やトマトのように。
ぽぽぽ、と頭から蒸気を出して一歩、また一歩と俺のそばから離れる。
反面、そんな彼女を見て余裕を取り戻した俺は笑顔を浮かべた。
いつまでも新鮮な反応をしてくれるリリアが大好きだ。
「た、たまに凄く大胆ですよね……マリウス様は」
「そうかな? リリアにだけは言われたくないかも」
「ここまでしません! 人前で!」
「本当に? 心当たりない?」
「し、しません! ……たぶん。こんなことする女性は、フローラさんくらいですよ!」
「それはフローラにも俺にも失礼だね。というか、普通に嫌だった? だとしたらごめんね」
「……い、嫌じゃ……」
「ん?」
ぼそりと、リリアは呟く。顔を真っ赤にしたまま。
「嫌じゃ、ありません……。マリウス様となら、どんなことでも嬉しいです」
「リリア……」
なにこの子。すっっっごい可愛い!
俺の婚約者です。
「次からも、どうぞ……よろしくお願いします……」
「か、畏まりました……」
なぜか妙に気恥ずかしくなってきた。
ここが人目のある所じゃなかったら、下手したら襲ってた可能性もある。
そして、リリアはきっとそれを受け入れてくれる。そういう女だ。
……俺も、いずれはリリアとそういうことをするのかな?
漠然とした未来のことを考える。
——そんな時。
偶然にも視線を外へ移した。
その先で、屋上に佇むラフラの姿が……遠くに映る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます