第181話 終わりだよ
階段から落ちたラフラ。
予想どおりの行動に、俺は咄嗟に階段の隅から飛び出して彼女を受け止めた。
ずっしりとした衝撃と重さが胸元から全身に流れる。
危ない危ない。身体強化してなかったら俺ごと後ろに倒れていたな。
けど、身体強化していたので耐えられた。
ラフラは、床よりかは柔らかい俺の胸元で、こちらを見上げて驚愕を浮かべた。
震える声で呟く。
「ま、マリウス様……!?」
「やあ、ラフラ。危なかったね。急に階段から落ちるなんて危険な真似、しないほうがいいよ。怪我だけじゃ済まない場合もある」
「な、なんで……」
「なんでここにいるのか? それはね……」
「——私が呼んだからですよ、ラフラさん」
コツコツ、と靴音を立てて階段からリリアが下りてくる。
その視線には余裕があった。笑みすら浮かべてラフラを見つめる。
逆に、その言葉の意味を理解したラフラは、鋭い眼差しをリリアへと向けた。
「わ、私を騙したんですか!? ひとりで来てほしいと言ったのに、マリウス様を連れてくるだなんて……!」
「騙すなんて人聞きの悪い。ちゃんと会話が聞こえないように階段下で待ってもらっただけですよ。ええ。だって私とマリウス様は婚約者。誰かさんと違って親密な関係にあります。別に話が終わったあとで寮まで一緒に帰るのは……不自然ことではないでしょう? むしろ、いきなり階段から落ちるあなたの方が不自然なくらいです。ねぇ?」
ここぞとばかりにリリアが攻める。
ラフラは拳を握りしめて、奥歯までギリギリと鳴らした。完全に怒っているのが解る。
俺の胸元から離れ、詰め寄るようにラフラはリリアの前に立つ。
「ら、ラフラのどこが不自然なんですか! ラフラはちゃんと言いました! 謝罪がしたいと! それなのに階段から突き飛ばしたのはリリア王女のほうでしょう!? なんでラフラばかり疑われないといけないんですか! 聞きましたかマリウス様!? リリア王女はこんな人なのです! 格下の貴族を不当に扱う人間なんです! ラフラは……!」
「——もう、いいんだ」
ぽつりと、俺がそう零す。
ラフラの動きがぴたりと止んだ。
「ま、マリウス様……? 何を……」
「俺は全部知ってる。もう、そんなこと言わなくていいんだ。これ以上、自分すらも傷つけるのはやめてくれ。見ていられない……」
「い、いえ! だからラフラが……!」
なおも抗議の声をあげるラフラ。しかし、階段の上からさらにふたりの女性が姿を現す。
セシリアとフローラだった。
「残念だけど、あなたの嘘はバレバレよ。私たちの他にも何人かの生徒が見ていたもの。よほど焦っていたのね。周りの視線に気付かないくらい」
「びっくりしたよねぇ。まさかあんな大胆に階段から落ちて、バレないと思うだなんて。お姉ちゃん、わざわざ何か起こるかも~! って吹聴して回った甲斐があったなぁ」
セシリアとフローラ、両者から衝撃の事実を突きつけられる。
今度こそラフラは、絶句した。言い訳も憤りすらも置いていき、完全に沈黙する。ありありと表情には「ありえない」という文字が浮かんでいた。
彼女からすれば、計画自体は完璧だったのだろう。
だが、俺たちはそれを読んだ。
突き飛ばすにしろ突き飛ばされるにしろ、確実になにかが起こると。
最初からそう他の生徒たちに伝えたうえで、今回の件に臨んだのだ。俺やリリア、セシリアにフローラだけじゃない。
すでに何人もの生徒が、ひそひそと声を立てながらこちらを見ていた。
どちらが悪役かは、これでハッキリする。
「さあ、もう終わりにしましょう。諦めてください、ラフラさん。あなたの負けです。なにが勝ちでなにが負けなのかは、自分で言っててわかりませんけどね」
「ら、ふら……が、負けた? なんで? どうして? 最初から、ラフラを……騙した?」
「人聞きの悪いことを言わないでください。勝手にあなたが自爆しただけです。あんなことをしなければ何も起きなかったのですから」
「…………ッッッ!!」
バッと、感情に耐え切れなかったラフラがその場から逃走する。
誰も彼女の行為を止めたりしない。誰もが、悲しげにその背中を見つめた。
もう、ラフラは終わった。明日には彼女の悪評が広まっていることだろう。
あとは……その悪評を上手いことコントロールして、彼女へのヘイトを無くすのが俺の役目だ。
せめて、彼女が今回の行いで反省してくれると話は早いのだが……。果たして、俺の思惑どおりに事が運ぶかどうか。
それは、神のみぞ知る話だった。
———————————————————————
あとがき。
もう少しで完結します。
最後までよろしくお願いします!
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