第177話 浮気ではない
リリアたちに協力を仰ぎにいく。
幸いにも彼女たちは、ちょうど教室の中で集まっていた。話し合う様子を見て、悪いと思いながらもその輪に加わる。
「やあみんな。談笑中だったか?」
「マリウス様。そうですね、軽く色んな話題を共有しています。それより、マリウス様はどこへ? 急に姿が見えなくなりましたが……」
リリアが俺の言葉に返事を返しながら疑問を投げる。それにティルが続いた。
「王女殿下の仰るとおり。急にトイレに行くと言ってどこかへいきましたが、トイレにしては長かったですね。誰かに会いにでもいったんですか?」
じろりと、その眼差しが俺に刺さる。彼女には最初から用件がなんだったのかバレていたらしい。
頬をぽりぽりとかきながら、二人の疑問に答える。
「実は……ラフラに会いにいってたんだ。確かめたいことがあって」
「ラフラさんに……? 妻である私には秘密で? 浮気?」
殺気がリリアから向けられた。慌てて首を左右にぶんぶん振る。
「違う違う! 俺がリリアに隠れて浮気なんてするわけないだろ!? ……いや、まあそう言われても文句は言えないんだけどさ……」
事実、婚約者である彼女には秘密でほかの女と会っていた。それもメイドを教室に置いて。
彼女が浮気を疑うのも無理はないし、世間一般的な意見でもかなりグレーだと思う。
だが、それでも俺は必死に言い訳する。心からリリアが好きだと言いながら。
……なんか、本気で浮気してる奴と同じになっているような……。
いや、負けるなマリウス。ここで退いたらラフラは救えないぞ。
後ろめたい気持ちに気圧されながらも、二人の視線を一身に受け止める。
「……まあ、いまは素直に頷いておきましょう。マリウス様を信じます。マリウス様の瞳には、基本的に私しかいないということは周知の事実。今後はなるべく控えていただければ幸いかと」
「ちょっと、リリア? 一応、マリウスは私のことも好きだって言ってるのよ? なんで自分限定なの?」
「それで? ラフラさんとどんなお話をしたんですか?」
「無視!?」
セシリアの発言は、しれっとリリアにスルーされる。彼女はぴくりとも反応を示さなかった。
こういう時は素直にすごいと思う。見習うべきことではないが。
しかし、俺の感想もほどほどに、セシリアの隣から甲高い声が飛ぶ。
フローラだ。
彼女はぴょんぴょんと跳ねながら賢明に手をあげて抗議の声を出した。
「セシリア様の言うとおり! 意義あーり! マリウスくんがリリア殿下しか見えていないっていうのは、どうかと思うなぁ!」
「あなたはさっさと自分の教室にでも帰ったらどうですか? むしろ寮にでも」
「酷くない!? お姉ちゃんだけ辛辣なんだけど!?」
「酷くありません。あなた、何度も言ってますがしれっと一年の教室に入らないでください。教師がいなくても周りの目があるんですよ」
「だってだってぇ! マリウスくんと話したかったし……」
「今じゃなくてもよかったでしょう」
ハァ、と盛大にリリアがため息を漏らす。それを見て、フローラはムッとした表情を浮かべた。
「あー! 王女殿下たちはいいよね! 毎日何度も何度も何度もマリウスくんに会えるからさ! お姉ちゃんはたまにしか会えないんだよ!? もう留年でもなんでもいいから、お姉ちゃんももう一回2年生の教室で授業受けようかなぁ」
「ダメに決まってるでしょ。あなたはよくても学校側が許可しません。かりに許可されても、サンタマリア伯爵が泣きますよ」
「むぐっ……」
父親の名前を出されては、彼女も強攻策に出ることはできない。哀しそうに伸ばした手を下げて声を抑えた。
それを確認すると、リリアはちらりと視線をこちらへ向ける。話を進めてください、と言わんばかりに。
俺はこくりと頷いてラフラとの一件を彼女たちに聞かせた。
最後まで黙って聞いていたみんなは、最後に各々の感想を漏らす。
「なんというか……相変わらずラフラさんはぶっ飛んだ思考の持ち主ですね。それに、最後の最後で素直になれないとは……」
まずはリリアが。それにセシリアが続く。
「私は昔の自分を見てるような気持ちになったわ」
「セシリアとは違います。あなたは素直でしたよ、結構」
「そ、そう? それならいいんだけど……」
「お姉ちゃんもガッカリだなあ。ある意味で同士って感じなのに、手段が酷すぎるよ」
あのフローラまでもがラフラに苦言をしいる。が、リリアが鋭い目でフローラを睨んだ。
「あなたも人のこと言えませんけどね。私の婚約者を相手に、一体、何度夜這いをしかければ? いい加減にしないと、温厚な私も不敬罪を使いかねませんよ?」
「ひぃっ!? ま、マリウスくん! リリア殿下が怖い! 鬼!」
「全部フローラが悪い」
「マリウスくんまで!?」
いつものように茶番を繰り広げたあと、そろそろ本題に移る。
俺はなるべくみんなに聞こえる声で言った。
「……でも、俺は……そんなラフラを救いたいと思ってる。これ以上、彼女がへんな道に踏み込まないようにしたい。もしくは、彼女の未来を守りたい」
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