第175話 卑屈で哀しい本音
「これ以上、面倒な真似はしないほうがいい。すぐに、自分の首を絞めることになるぞ」
マリウスがはっきりとそう言った。
ラフラは首を傾げる。
「……仰ってる意味がよくわかりませんね。面倒な真似とは?」
「あくまで白を切るつもりなのか? ラフラがやってる、リリアたちへの悪評の件だよ」
「酷い言いがかりですわ! ラフラがやってるなんて……」
「何度も言うが、俺はリリアたちを欠片ほども疑っちゃいない。みんなの意見もそうだ。すべて、キミの起こした自作自演……もしくは勘違いだとね」
ぴくっ、とラフラの心がざわついた。
すぐにバレるとは、疑われるとは思っていたが、マリウスから告げるとその言葉の重みは違った。
少しだけ、良心が痛む。
だが。
「そう……ですか。ラフラも勘違いだと思いたいですよ? でも、怪我をして陰湿な嫌がらせを受けてる事実に変わりはありません。残念なことですが」
いまさらラフラは止まれない。
この行き場のない想いは、暴走や排除以外の方法では救われない。
そう思っている。
「なにを言ってもラフラには届かない、か……」
マリウスはラフラの反応を見て瞳を伏せた。
彼は優しい。ラフラを疑いながらも、きっとなにかの勘違いだと最後まで思いたいのだろう。
それが、ラフラ・バレンタインの惚れた男。ラフラを救った男なのだ。
そのことに一抹の寂しさを覚えるが、すべてはマリウスを手に入れるため。
ここで罪を認め引き下がれば、自分が欲しいものは二度と手に入らない。
卑しい女というレッテルを貼られ、遠く離れた存在になってしまう。
それだけは、なにがなんでも避けるべきことだ。
マリウスのいない日々なんてもう耐えられない。
ズキズキと痛む胸元を押さえつけながら、複雑な気持ちを無視する。
踵を返してその場から立ち去ろうとするマリウスに、しかしラフラは無意識に声をかけた。
自分でも驚きの内容を口にする。
「も、もし! この状況を解決する方法があるとしたら?」
マリウスが足を止める。視線だけこちらに向けてきた。
「どういうこと?」
「ラフラが虐められている状況を解決し、なおかつリリア殿下たちへの悪評を止める方法があるとしたら……どうしますか、マリウス様?」
「…………聞こうか」
自分でも急になんでそんなことを思いついたのか不思議だったが、マリウスが食いついてくれたことでさらさらとアイデアが口からこぼれる。
「簡単です! マリウス様とラフラが結ばれればいいんです! 婚約者だと、好きだと公言してもらえればすべての問題は解決します! まずラフラへの嫌がらせは、マリウス様たちの名が抑止力になってくれるでしょうし、同時に、マリウス様の意中の相手になれば、婚約者であるリリア殿下たちとの仲も良好だと周りに示せる! こんないい方法は他にありません! そうでしょう? マリウス様」
違う。
本当はそんなこと言いたかったわけじゃないとわかってる。
言っておきながら、ラフラは苦痛に顔を歪ませた。
どうにか顔を逸らしてマリウスには気付かれないようにするが、どうしても自分自身が許せなかった。
その提案は、単なる逃げだ。
最低限、マリウスのそばにいるために提示した卑屈な夢。
それをマリウスが認めれば、嫌がっていた三番手に甘んじることになる。
永遠に、マリウスの一番にはなれない。
だが、それでも口を出たその言葉は……。一種の、ラフラの嘆きだった。
もう三番手でもいい。多少愛されてなくても、ずっとマリウスのそばにいたい。
そんな、彼女の哀しき慟哭だ。
しかし、これまでのラフラの態度をみて、そんな提案が通るわけもなく。
「……悪いが、それは受け入れられない。俺だけが決めるべきことでもないし、はいそうですか、とも納得できない。ごめん」
マリウスは哀しげにそう言うと、足早にその場から立ち去っていった。
残されたラフラは、拳から血が出るほどに手のひらを握りしめる。
それは、安堵か悲しみか。もはや、考える必要すらもなかった。
それゆえに、二重のショックを受ける。
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