第174話 思ってもない心
ラフラ・バレンタインは、男が嫌いだった。
最初から嫌いだったわけじゃない。
人並みに好いていた。いつかは両親のように恋愛をして結婚すると夢みていた。
しかし、あの騒動のせいで男性が嫌いになった。
もはや嫌悪の対象でしかない。
唯一、ラフラが許せる男性は二人だけ。
ひとりは自分を育ててくれた父親。父は、いつもラフラのことを考えてくれた。だから好き。男性へ嫌悪感を滲ませても、父は平気だった。
そして、もうひとりはマリウス・グレイロード。
自分を悪しきバケモノから救ってくれた、ラフラだけの王子様。
気持ちの悪い過去も、マリウスを思い浮かべるだけで輝いて見えた。
中でもマリウスは特別だ。最愛という言葉が相応しい。
逆に、時間が経つごとにそれ以外の男性への嫌悪感が増した。
どいつもコイツも色事しか頭にないクズでケダモノだ。ラフラの顔と体にしか興味がない。
だから本当は嫌だけど、それでも利用できるならなんでも利用する。
触れたいとも触れられたいとも思わないが、彼女は噂に関して男子生徒たちにいろいろと語った。
甘い言葉で惑わし、可愛らしい仕草で誘惑した。当然、そこに好意の欠片もない。
触れられないように距離を適度に離しつつ、囁くように言うのだ。
「ですから……もしよかったら、あなた方も協力してくれませんか? 相手は身分の高い貴族や王族ですが、それでも、いつかラフラたちの想いは届くと思うんです! そうでなくとも、嫌がらせが止まるかもしれません。どうか! どうか……ラフラを助けてください!」
目元に涙を滲ませて懇願する。まるで自分たちに好意があるかのように。
だが、内心では彼らに微塵も興味はない。名前すらも知らないし知りたくない。
ひたすら本心を隠し、リリアたちへの憎悪で蓋をした。
「……そ、そうだな。そこまでラフラ様に頼まれたら、俺たちもなにかしたいって思うよ!」
「うんうん! ただこんなことがあったよ、怖いね、くらいの噂を流せばいいだけだしな!」
「ありがとうございます!」
チョロい。
思わず内心でそう思った。
少しでもそれが正当だと思わせたらこれだ。やはりまともじゃない貴族の子息は扱いやすい。
どんどん都合のよくなる現状に、口元がどんどん緩んでいくが、最後まで気を引き締めるべくグッと堪えた。
そして、
「では、噂のほうはよろしくお願いしますね」
と言ってラフラは彼らから離れる。
「あ、ちょっと待っ——」
制止してくる男たちを無視して、ラフラはどんどん廊下の奥へと突き進む。
彼らが追ってきていないことを確認すると、今度こそ思い切り頬を緩ませた。
「くすくすくす! これで上手くいえばラフラの味方を増やすことができますね……。ああ、気持ち悪い。本当に気持ち悪い。お父様とマリウス様以外の男性とは話もしたくありませんが……これもラフラのため。未来のため。必要な心の犠牲だと割り切りましょう」
にやけ顔のまま次の作戦を考える。
「ひとまず、このまま何人かの男子生徒に声をかけていって……」
独り言の途中、背後から声をかけられた。
よく聞いた、愛しい声が。
「——ラフラ」
咄嗟に振り返る。
「……マリウス様?」
そこには、ラフラの大事な男性が立っていた。
マリウス・グレイロードが。
「どうしたんですか? わざわざラフラを追いかけてくるなんて……。もしかして、心変わりでも?」
「いや。ラフラに言いたいことがあってな。少しだけいいか?」
「もちろんですとも。ラフラはマリウス様のためならいくでも時間を用意します」
「そうか……そんなお前に言うのもなんだが、言わせてもらおう」
マリウスは神妙な面持ちで告げた。
「これ以上、面倒な真似はしないほうがいい。すぐに、自分の首を絞めることになるぞ」
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