第171話 広がる悪意
ラフラ絡みの問題が続く。
最初は、フォルネイヤ個人を狙った私怨かと思われていた。しかし、たった二日で今度はセシリアにその矛先が向いた。
明確に俺の周りの人物を狙っているのがわかる。
そこに一体なんの意味があるかわからないが、嫌な予感だけはした。実際、ここ数日でフォルネイヤとセシリアに対する陰口が広まった。
二人とも誤解を与えやすいタイプなのでなおさらである。
貴族は醜聞が大好きだ。暇潰しのためなら知り合いですら話の種にする。
さすがに最高位貴族のセシリアと、それに告ぐフォルネイヤの悪口を表立って言うものはいないが、学院全体の空気が悪くなったのはたしかだ。
一方、ラフラの評価は少しだけ上がっていた。悲劇のヒロインのような方向へ。
「なんだか……最近は回りからの視線が多いわね」
「例の噂のせいでしょう。放っておけば問題ありませんわ。誰も、実際にセシリアがやったところを見ていないのですし。それに、噂にはなっても事件にはなってません。歯がゆいですが、余計な真似はできませんね」
「わかってるわよ……悔しいけどね」
「みんな気持ちは同じだよ。大丈夫。俺とリリアが絶対に守るから」
「マリウス……」
セシリアの瞳に喜びの感情が浮かぶ。俺はにこりと笑みを見せた。
「あの……マリウス様の言葉の中には、私も含まれていたように聞こえたんですが? お礼はマリウス様にだけですか?」
「あ。も、もちろんリリアも心強いよ? ありがとう、リリア」
「まるでおまけみたいな扱いですね……」
ぶすっとリリアが頬を膨らませて拗ねる。その反応に、俺は笑った。
すると、そこへ一人の女性が現れる。
「——あ! いた! マリウスくーん!」
「……フローラ?」
二年生のフローラがこちらに向かって来ていた。手を振って挨拶する。
「やあフローラ。俺を探してたみたいだけど、どうかしたのか?」
「それが聞いてよー、マリウスくん! ……リリア王女殿下は、一旦その鎖を置こうか。わりと真面目な話だから」
「あら? ごめんなさい。いつものくせで」
「嫌な癖だなあ……まあいいや。それより、問題だよ問題!」
「問題?」
リリアがフローラを縛ることに、フローラ自身が慣れちゃったことか?
「マリウスくんが前から注意するように言ってたラフラさんだよラフラさん! さっき、たまたまボロボロになった教科書を拾ってね? 誰のだろうって思って、職員室に向かったら……急に彼女が出てきて、私の教科書になんて酷いことを! って言われたの! お姉さんなにもやってないよ!?」
「今度はフローラか……」
しかも巧妙にラフラの姿を見せないことで油断させる作戦。
いや、ラフラがやったかどうかはまだわからないが、少なくともフローラの悪評が立つことは間違いない。
リリアも顔を歪めて苛立ちを覚えている。
「次から次へと……。いい加減、ラフラさんに注意したほうがいいですね。我慢の限界です」
「でもそれをしたら、たまたま被害に遭ってる、虐められてるラフラの思う壺じゃないか? ラフラがわざとみんなに罪を被せてる証拠はないわけだし……」
しかも彼女が表立って文句を口にしてるならともかく、ラフラは加害者を擁護してるくらいだ。
自分がボーっとしてたから悪い、とか。
そんな中、ラフラを責めるような真似をしたら……。リリアにまで懐疑的な視線が向く可能性はある。
せめて確実な証拠さえ入手できれば、話は早いんだが……。どれもすでに起きたことなので証拠もなにもない。
「やり方が陰湿なんですよ……! 絶対に尻尾を掴んで……」
「下手に刺激しないようにね。格下の令嬢っていう部分が強調されると、嫌でもみんなが悪者になる」
ただでさえ、俺の知り合いは高位貴族や王族が多いのだから。
拭いきれない不安やら不満やらを抱えて、俺たちの空気まで悪くなる。ひとまずテンションを変えよう。
そう思って口を開きかけた瞬間。
——とうとう、俺たちの前に彼女は現れた。
長い黒と灰色の髪を揺らして笑う、ラフラが。
全員の顔色が変わる。
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