第168話 事実と疑い
俺の前にラフラが現れた。
ちょうどいい。俺は噂の真偽を確認すべく、ラフラへ声をかける。
「……やあ、ラフラ。ちょうど、君に会いたかったところだよ」
「ラフラに? まあ! それは奇遇ですね。ラフラもマリウス様に会いたいと常日頃から思っていました。やはりラフラ達は運命によって結ばれている……!」
「悪いけど、個人的な用件ではないんだ」
喜ぶラフラに釘を刺しておく。
続けて、俺はフォルネイヤの件を持ち出した。
「いま、学院ではとある噂が流れている。ラフラは知っているかな?」
「噂……? はて? ラフラは知りませんが、どのような内容でしょう」
ラフラは首を傾げて問う。
その仕草はとても嘘をついてるようには見えないが……。
「なんでも、フォルネイヤ・スノー生徒会長が、キミに足をかけて転ばせた……もっと言うと、格下の令嬢を虐めている、みたいな噂が立っているんだ」
「ラフラを……生徒会長が?」
「ああ。心当たりはあるかい?」
「そうですね……マリウス様が仰った内容に心当たりはあります。ご覧ください」
「ッ」
唐突にラフラは自らのスカートをめくった。
白く細い足が露になる。
咄嗟に俺は視線を逸らすが、直後、ラフラが、
「大丈夫ですよ、マリウス様。下着は見えないようにしてますから」
と言ったので、仕方なく視線を正面に戻す。
すると、
「……すり傷」
ラフラの左足、脛の近くがわずかに赤身を帯びていた。
ジッと見つめると、それがすり傷だとわかる。
ラフラが俺の疑問に答えてくれた。
「ええ。フォルネイヤ様に足をかけられた時に負った傷です。軽傷ですからご心配なく。きっと会長も、わざとではありませんから」
「そ、そっか……怪我を……」
まじまじとラフラの傷跡を見つめる。
正真正銘の証拠だ。
これで、ラフラが転んだ件に関しては正しいと証明された。
問題は、本当にフォルネイヤ会長がラフラを転ばせたのかどうか。
そればかりは本人の証言しかない。
まあ、恐らく会長がそんなことするわけないが。
「あ、あの……」
「ん?」
唇に人差し指を当てながら思案していると、正面のラフラが頬を赤くして言った。
「さすがに、マリウス様にジッと見つめられると恥ずかしいです……。せめて、そういうのは二人きりの時がいいなぁ、と」
「!?」
やっべ。
噂の件に熱中してて、自分がどれだけヤバい行いをしているのか忘れていた。
幸い、いまいる場所は人通りが少ない。
客観的に見た変態行為は、誰の目にも映ってはいない。
そのことにホッと胸を撫で下ろしてから、ラフラに「ごめん。もうスカートは下ろしていいから」と告げる。
ラフラはすぐにスカートをおろす。
だが、そのあとで「続きはマリウス様の部屋でいたしますか?」なんて言い出した。
さすがに咽る。
「ごほっ! ごほっ! いや……ほんと、そういうのはいいから。でも、ありがとう。貴重な意見をもらったよ」
そう言って俺はラフラにお礼を伝えてからその場を離れる。
帰り道。
廊下を歩きながらずっと俺の後方で控えていたメイドのティルが口を開く。
「……どうでしたか、マリウス様。知りたいことを知って」
「うーん……。個人的には、ラフラが怪しいとも思うけど……。双方ともに誤解してるって線はないかな?」
「これまでの行いを鑑みるに、ラフラ様が勘違いしてるという線は薄いかと」
「ティルはどこまでもラフラに厳しいね」
「ご当主様からの指示ですので」
短く言うティル。
彼女の瞳には、明確な敵意があった。きっと、命令だからというだけではないのだろう。
ティルは俺が絡むと必死になってくれるからね。それが嬉しい反面、やっぱり自分は完全にラフラを疑えない。
そんな中途半端な気持ちを半分ほど引きずっていた。
「取り合えず、次はもうひとりの当事者に話を聞こうか」
「そうですね。それがいいかと」
真っ直ぐ教室へ戻りながら、俺は次の予定を決めるのだった。
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