第157話 女の勘
ラフラと別れた俺とティルは、真っ直ぐ男子寮にある自室へと帰った。
ティルが用意してくれた紅茶を飲みながら、先ほどの光景を思い出す。
「それにしてもラフラは……制服を水で汚されるくらい他の女子生徒に嫌われていたのかな? それだけのことをやったとは思えないけど……」
「暴力を振るわない分、女性のほうが過激な報復をすると聞きますが?」
即座にティルがそう言った。
「それに……。ラフラ様の過去の行いは、マリウス様が思うよりかなり過激かと」
「え? そ、そうなの?」
「はい。私はラフラ様がマリウス様に接見禁止になった際、当主様よりさまざまなお話を窺いました。中には、マリウス様に話すのも憚られるようなものが」
「ちなみにそれ、いま聞いてもよかったりする?」
俺の問いに、しばしティルは頭を悩ませてから答えた。
「……知らないほうがいいこともありますよ。マリウス様だって、リリア王女殿下とのやり取りを他人に話したいとは思えないでしょう? 被害に遭ったご令嬢のためにも、気にしないほうがよろしいかと」
にこりと笑うティル。
その表情に底知れぬ不安を抱いた俺は、こくこくと頷いて聞くのをやめた。
たしかに俺も、リリアに病んだ真似をされた件は誰にも言えない。
それが両親の許可をとって行われていたなど、余計に言えなかった。
……今さらながら、俺の両親はちょっと頭がおかしいと思った。
さすがは元・悪役貴族。
破滅フラグがなくても中々にぶっ飛んでる。
「それと……マリウス様には言っておきます」
「——ん? なにを?」
唐突に空気が変わったような気がした。
ソファの後ろで、ティルが目を細めて言う。
「あまりラフラ様の発言を信じすぎないように気を付けてください。これはリリア王女殿下からの伝言でもあります」
「ラフラの発言を? なんで?」
どうしてそこでリリアが?
あの二人は、俺に口を挟むくらい仲が悪いのか?
「残念ながら私にも明確な根拠はありませんが、なんというか……ラフラ様は怪しいのです」
「怪しい……」
ま、まあ外見は完全にゴスロリ系が似合う地雷女子だしね……。
SNSとかでリ○カ写真とか載せてそう。偏見だけど。
「水を掛けられた、という話も、その後マリウス様にたまたま遭遇するという偶然も、すべてが怪しい。リリア王女殿下曰く、いまだマリウス様のことを諦めた様子もないようですし……。マリウス様は夏のあいだに変わりました。大人らしく成長しました。それでも、人の悪意には疎いです」
「普通だと思うけど……」
「いえ、特に女性からの悪意には鈍感です。それがマリウス様の美点でもありますが、同時に欠点でもあるかと」
「どっちよそれ」
馬鹿にされたあとで褒められた。
ぜんぜん嬉しくない。
言いたいことはわかるけどさ。
「なので、ほんの少しでも構いません。ラフラ様へ警戒と疑いを持ってください。直接マリウス様になにかしらの被害を与える可能性は低いですが、ゼロではありませんので」
「……要するに、もっとラフラには厳しくしろってことかな?」
「そうですね……。女性に優しいマリウス様には酷な話ですが」
「基本的に男って生き物はね、異性には優しくしたいんだ。カッコイイところを見せたいんだ」
見栄を張る生き物なんですごめんなさい。
「ええ、わかっています。あくまでも、可能性の一旦として頭の片隅にでも置いてもらえればそれで。マリウス様のそばにはティルがいますから」
「はは……頼りになるメイドさんだ」
「ティルはマリウス様の専属メイドですからね」
お決まりの言葉を投げて、俺とティルは同時に笑った。
まだラフラが悪人には見えない。彼女は外見ほど苛烈な性格でもないし、暴走さえしなければいい子だ。
言わばリリアと同じ。リリアも暴走すると刃傷沙汰になるから本当に恐ろしい。
どこまでも似てる二人だった。
飲みかけの紅茶をグイッと喉に流しこむ。
話しこんだせいですっかり紅茶は冷めていた。それでも美味しいと思えるくらいに、俺の喉は渇いていた。
▼
翌日。
ティルに言われた通りラフラへわずかながらの警戒を抱いた俺は、しかしその当人にまたしても突撃されていた。
今度はひとりでトイレに行ったとき。
ボロボロになった教科書を抱いて、彼女は俺を見つけるなりこちらへ走り寄ってくる。
そして、涙を流しながら言った。
「マリウス様! こ、これ……。今朝、私の机に入っていた教科書が……!」
これには俺も動揺してしまう。
———————————————————————
あとがき。
近況ノート作成したので、よかったら見てね〜。
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