第151話 雑魚で不安定⁉︎

「あのー……お二人さん? そろそろ話題を変えてもよろしいでしょうか?」


 きゃっきゃっと楽しそうに俺を挟んで会話を進めるリリアとセシリアに、たまらず俺はそう切り出した。


 二人の視線が同時に俺を捉える。


「あら、申し訳ございませんマリウス様。セシリアとばかり盛り上がっちゃって」


「ごめんなさい、マリウス。決してあなたを放置してたわけじゃないのよ?」


 両者揃って謝罪してくるが、別に俺は放置されたことを気にしていたわけじゃない。首を左右に振ってげっそりとした表情のまま言う。


「いや……二人が楽しそうなのはいいんだけど、さすがに話題が気まずいっていうか、聞いてるほうも辛いっていうか……」


「話題?」


つらい?」


 今度は同時に首を傾げる二人。


 俺の意図はあまり理解されていなかった。


「もしかして……マリウス様は照れてましたか? ずっと私がセシリアとマリウス様の素敵なところに関して話してるのを聞いて」


「——そうだよ!? みなまで言わないでくれよ!? もっと恥ずかしくなってくるだろ!」


 頭を抱えて俺が叫ぶ。


 リリアが直接俺の内心を口にしたことで、なぜか俺だけが恥ずかしいみたいな状況になる。実際、俺のことをベタ褒めしていた二人はまったく恥ずかしがる様子がないのだからそのとおりだった。


 ずるいと思う。


「マリウスが照れ…………か、可愛い!」


 うん?


 急にセシリアの瞳にハートマークが浮かんだ。


 俺が、「なに言ってるんですかセシリアさん?」と言う間もなく、姦しい声が庭園内に響く。


「マリウスは全てがカッコイイのに、さらにそこに可愛さまで混じるなんて……もう反則なのでは!?」


「セシリアさん!?」


 あなたどうしちゃったの!?


 トリップしすぎていきなり意味不明なことを言い出した。隣でリリアが「たしかに」みたいなしたり顔で頷いてるが、俺は別に可愛くない。カッコイイとは自分でも思ってるが。


 …………顔の話ね?


「たしかにマリウス様は素敵です。欠点は女癖の悪さくらいで、それ以外はとてもまともで文句の付けどころもありません」


「女癖が悪いのって俺のせいなのかな?」


「八方美人はマリウス様の問題でしょう?」


「……なるほど」


 これには反論の余地などなかった。


 事実、俺の周りには女性が多い。ラフラみたいな精神的に負荷をかけまくってくる相手以外にはわりと優しく接してる。


 人はそれを八方美人と言う。


 ちなみに、ラフラの場合はガチで他人にもすさまじいくらいに迷惑をかけるので大変だ。性的に襲ってくるフローラですら俺以外には迷惑をかけないのに。


「なので今後のマリウス様の課題は、女性に対して過度な優しさを見せないことですね。ちなみに私は嫉妬を抑える努力。セシリアは精神を強く持ちなさい」


「過度に優しくしすぎないこと、か」


 まあ一理ある。優しさは時に刃物にだって変わることもある。ラフラがまさにいい例だ。


「……え? え? 私はべつに、精神はわりと強い方だと思うけど……」


「マリウス様以外の相手にはあれだけ冷たいのに、マリウス様にだけめちゃくちゃ弱いじゃないですか。正直いって雑魚です」


「——雑魚!?」


 リリアのドストレートな言葉に、セシリアがショックを受ける。


 ショックを受けるほど自分の精神が強いと思っていたことに、俺とリリアはびっくりだ。あれだけ急にテンションだだ下がるくせに。


「ひ、酷い……マリウスも黙ってないでなにか言ってよ! 私、雑魚じゃないよね……?」


 擁護を求められておいて申し訳ないが……俺は首を左右に振った。


「すまない、セシリア……。君は、精神が不安定だ……」


「——不安定!?」


 悲痛な面持ちでそう告げた俺に、セシリアは顔を青くする。


 次いで、彼女は俺の服を握りしめてぽろぽろと涙を零した。


「ま、まさか……不安定な私はいらないとか、そういうこと……言わないよね? うざい? めんどくさかった? 困る? ごめんなさい!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! そんなつもりじゃなかったの! 直すから! 嫌なところは全部直すからぁああ————!!」


「そういうところですよセシリア。落ち着いてください。マリウス様があなたを捨てるはずないでしょう?」


 リリアがすぐに彼女の誤解を訂正するが、セシリアの耳には入らない。


 仕方ないので俺が、


「セシリアには居てほしいよ。ずっと俺のそばにいてね? あと、別にウザくもめんどくさくも………ないからね?」


 と言って彼女の体を抱きしめる。


 すると、途端にセシリアは穏やかさを取り戻していった。


「……あ、ありがとう、マリウス……。ありがとう、ありがとう……」


 俺の胸元に顔を埋めて、ひたすら感謝の言葉を繰り返す。


 これが不安定じゃないわけがない。


 でも、俺が絡まなければ普通なのはそのとおりだった。話しかけてくる男子に鋭い目で「なに?」と冷たく言い放ってる姿を見るのは、一度や二度ではないのだから。


 彼女の「興味ないんだけど? 話しかけないでよ」オーラは凄まじい。思わず相手側に同情しちゃうくらいには。




 ぽんぽんと優しくセシリアの背中を撫でながら、目線だけでリリアに次の話題を促す。リリアはこくりと頷いて、「そうだ」と言わんばかりに俺の地雷を踏み抜く。




「言い忘れてましたが、ラフラさんの件でマリウス様に伝えたいことがあります」

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