第122話 クマ狩り
昏倒したティルをベッドまで運ぶ。掛け布団を被せて俺は家を出た。扉に鍵をかけてネアとルシアの下へ向かう。二人がどこにいるのかは不明だが、村はそこまで広くない。村長のあとを追いかけていく内に騒ぎが聞こえてくるだろう。
剣を手に俺は真っ直ぐ道なりに走った。
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しばらく村の中を走りまわっていると、ようやくネアとルシア達を見つけた。
場所は村の北口。普段は俺やネア達が外へ出る時に利用してる門のそばで、大きな声を上げる一匹の獣と対峙していた。姉妹の近くには、ぼろぼろの剣を持った村長の姿も。
本当に戦うつもりだったのか。歳だってそう若くもないのに、その正義感は本物だ。しかし得物が悪い。あんな痛んだ剣では、下手すれば攻撃の最中に壊れてしまうだろう。
距離を保ちながらなんとかクマの攻撃をかわしつつ時間を稼ぐ姉妹の下へ、急いで俺は向かった。俺の姿を視界に捉えると、姉妹も村長も目を見開く。
「ま、マリウスさん!? どうしてここに? 東側にある倉庫へ行ったんじゃ……」
「遅れてすみません、村長さん。ティルを宥めてなんとか来れました。今から俺も戦いに参加します!」
本当はティルを無理やり寝かせてここへ来たんだが、それを説明しても彼らを困らせるだけだ。事実を隠し、俺は鞘から剣を抜く。
「いやー、よかったよかった。正直、お姉ちゃんと僕だけじゃキツかったですよ~。前衛を張れるマリウスさんが来てくれて安心しました」
「わ、儂もいるんだが?」
「村長に無理はさせられませんよ。ここはもういいので、村長は倉庫のほうへ向かってください。他の村人たちが心配してるでしょうし、あのクマは僕たちが倒します。その説明をお願いしますね」
「しかし……」
村の責任者である自分が、若者だけを危険な場所に残してはいけない、と言わんばかりに村長は食い下がる。だが、事は一刻を争う。へっぴり腰な村長がいては、逆に足手まといだ。ルシアもそう判断したからこそ、村長へ逃げるよう提案した。
俺も彼女の言葉に乗っかることにする。
「村長、ルシアの言うとおりですよ。クマとネアたちは俺に任せて、村長は村長にしかできない仕事をお願いします」
「マリウスさんまで…………わかりました。気をつけてくださいね」
「「はい」」
俺とルシアが同時に答え、村長がその場から立ち去って行った。
二人で村長の背中を見送ると、前方から甲高い声が届く。
「ちょ、ちょっと! ルシアちゃんもマリウスも早く加勢してよ! さすがに私ひとりじゃこのバケモノの相手は無理よ!?」
「……あ、ごめんなさいお姉ちゃん、すっかり忘れてました」
「もぉおおお!!」
器用に矢を放ちながらも地面を蹴ってクマとの距離を離していくネア。狙撃手らしい? 戦い方だが、運動量が多くあまり長くはもたないだろう。慌てて俺とネアも彼女とクマの間に割って入る。
「ごめんごめん。それじゃあ三人で協力してあのクマを倒そうか。援護射撃は任せるよっ」
「任せなさい。精々、急所を狙わないであげる」
「頭には気をつけてくださいね!」
「そもそも当てないでほしいんだが!?」
軽口を叩きながらも戦闘が始まった。
俺は身体強化魔法で肉体能力を上げて剣を構える。クマは俺の姿を捉え、敵だと認識するや否や、大きな雄叫びを上げてこちらに向かってくる。しかし、俺の下へ到達する前に俺の背後から数本の矢が降り注いだ。
「————!」
獣が忌々しげに後方の姉妹を睨む。厄介な遠距離攻撃を先に潰そうと、
まるで車にでも撥ねられたかのような衝撃が、鉄製の剣を通して俺の体に伝わった。全力で踏ん張ってるおかげでなんとか耐えられたが、身体強化魔法がなかったら確実に吹っ飛んでいた。魔法さまさまである。
それでも俺の魔法を見たリリアたち曰く、昔の俺に比べてぜんぜん魔法の効果が低いらしい。その辺の記憶も全部パァになったので、イマイチ魔力を巡らせる感覚が掴めない。なんとか今にいたるまで練習をしてみたが、恐らく全盛期の半分ほどだろう。なに、戦えるならそれでいい。
やや地面を削りながら後ろへ押し出されるが、次第にクマの力が弱まる。後ろにいるネアたちは距離を離し、矢を番えるのが見えたら俺もクマから離れる。すると、姉妹の矢がクマに再び降り注ぐというものだ。
この戦法なら、俺がミスしないかぎり永遠にネア達は攻撃されず、俺もまた彼女たちに誤射される心配はない。火力面では俺が直接攻撃するのに比べて心もとないが、下手を踏んで俺が傷付けば一気に形勢は傾く。時間をかけながらも慎重に倒したほうがいい。
どんどん苛立つクマには悪いが、ひたすら俺たちは距離をとっての戦闘に集中する。
やがて、全身に夥しい矢の刺さったクマの動きが鈍くなり、隙だらけになったその首へ、俺が剣を振り下ろして————勝負がついた。
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