第84話 変わる覚悟
夕方。リリア達と別れて自室に戻る。
ようやく分厚い鎖から解放され、コキコキと首を鳴らしながらベッドに倒れた。
すでに制服は着替えてある。部屋に着いた途端にメイドに脱がされた。おかげで気楽に休むことができる。
だが、
「……そろそろ、考えないといけない、よな」
一人になると思わず考えてしまう。これまで俺がなるべく直視しようとしなかった現実が。
リリア第三王女。
心優しく、民を想うメインヒロイン。平民だろうと貴族だろうと平等に接し、彼女は婚約者である俺のために尽くそうとしてくれる。たまに……頻繁に恐ろしい顔を覗かせることはあるが、それでも彼女はいつだって俺の味方をしてくれる。本当にもったいないくらいの美少女だ。
アクアマリン公爵令嬢セシリア。
最初はツンデレキャラが面倒だと思ったが、面倒見がよくさりげない優しさでこちらをフォローしてくれるヒロイン。俺へ告白してから情緒不安定らしいが、むしろツン要素が抜けて普通に可愛いから困る。ただし、俺以外には冷たい。話しかけた男子生徒が「なに?」とバッサリ斬られてるのを見て戦慄した。
平民の聖女フローラ。
他者を慈しみ、奉仕活動に熱心なヒロイン。彼女は常に明るく前向きで、どんな状況だろうと諦めない不屈の心を持っている。俺の中ではぶっちぎりの問題児だが、あの無垢なる笑顔を見ると怒るに怒れない。だが夜這いだけは遠慮してほしい。
有能商人アナスタシア。
無愛想で口数の少ないヒロイン。周りに誤解されやすいタイプだが、マイペースゆえにそれを気にしない。他のヒロインに比べて俺との距離感が程よく、最も安心できる友人。なんだかんだ彼女とゆっくりするのが一番好きだったりする。けど、他のヒロイン……特にリリアからは要注意人物の扱いを受けているらしい。なんでだろう。フローラより扱いはだいぶマシだが。
「俺は……もう悲劇の悪役じゃない。破滅の未来を持たないただの貴族で、一人の男」
だから俺は、いい加減逃げずに考えるべきなのだ。彼女たちの想いに。
アナスタシアはともかく、リリアとセシリア、それにフローラからの好意をどうするのか。受け入れるにしろ拒むにしろ、いつまでも彼女たちを待たせるのは失礼すぎる。
まあ、婚約者であり王族でもあるリリアとの関係を、次期公爵になる俺とて安易に変えることはできない。彼女とは間違いなく結婚するだろうが、今のままの関係を続けるのは最低だ。俺の方からも彼女に寄り添わないといけない。
しかし……恋愛、か。
ずしりとその言葉が俺の背中に圧しかかる。前世でも体験したことのない超ド級の童貞に、いきなり婚約者と仲良くしろと言われても難しい。具体的には、こちらからも積極的に好意を伝えるのが難しい。
こんなことになるなら、最初から彼女をいじって遊ばなきゃよかった。その記憶があるからこそ、本気で褒めようとすると絶対に逃げる。「冗談だよ」とか言い出しかねない。
「ハァ……なにか良い方法はないものか……」
できるだけ簡単にこの気持ちを整理する方法。それさえあれば少しは気持ちが楽になるのに……。
見上げた先の地味な天井を見つめながら、俺は悶々と思考を巡らせる。俺が悩めるのもあと三年。学院を卒業したら……本格的に忙しくなる。それまでに、答えを出そう。もちろん、前向きに検討はする。
俺も、変わる時がきたということだ。
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