第77話 イベント発生?

 高等魔法学院生徒会。


 貴族、あるいは魔法の使える平民が集う高等魔法学院において、様々な行事を取り仕切る学生の頂点。いつの世も高い権限を持つ生徒会だが、その実情はこのゲームの世界においては極めて軽い。ファンからは、「ヒロインと主人公の溜まり場」と言われるほど仕事がなかった。


 そんな生徒会室に、生徒会長のフォルネイヤと共に入室する。室内は簡素な作りだ。中央にテーブルがあり、その周りを囲むように本棚が並ぶ。ゲームをプレイしてる時はまったく気にしなかったが、実際に目にするとつまらない場所だな。仕事のための部屋って感じだ。


「ようこそ生徒会室へ。生徒会長として歓迎するわ。……と言っても、見てわかる通りなにも無いけどね」


「仕事で使う場所なんだからこんなものでは?」


「そうね。その仕事もほとんどないのだから、いよいよもって生徒会なんて必要かしら? なくなれば私も楽ができるのに」


「ということは、もともと生徒会長になるつもりはなかったと」


「ええ。誰もやらないから興味本意で立候補したわ。実に退屈よここ」


 そう言いながら、彼女は隣の部屋へつづく扉をあけた。扉の上には「給湯室」と書いてある。


「取り合えずお茶を用意するから座っててちょうだい。味が悪くても文句もんく言わないでね。私、あなたのメイドじゃないし」


「ならメイドに淹れてもらえばいいんじゃ……」


「お茶を淹れるくらいなら私にもできるわ。したいの。させてちょうだい」


「は、はぁ……」


 なんだかよくわかんない人だな。侯爵令嬢なのにメイドもいないし、わざわざ自分からお茶を淹れるだなんて。かと言って積極的なタイプかと思えば、さっきは生徒会なんて退屈だと言った。その真意はどこにあるのか気になる。


 とはいえ、俺はそれを聞けるほどの仲でもない。興味を引かれるが大人しく席に座って彼女を待つ。すると、フォルネイヤ生徒会長がお茶を運ぶより先に、部屋の扉がノックされた。俺がそちらへ視線を向けると、言葉もなしにガチャリと扉が開かれる。入ってきたのは……。




「……あれ? マリウス様? どうして生徒会室に……」


「君は……ティアラ嬢」




 ティアラ・カラー。

 この世界の主人公? が不思議そうな顔を浮かべて入室する。彼女こそ生徒会室になんの用だろう。所属するにはまだ早すぎると思うが……。


「実にいいタイミングで来たわね、ティアラ。お茶を淹れるから席に座っていいわよ」


 給湯室からフォルネイヤもトレイを持って出てきた。慣れた様子でティーカップを並べる。


「もしかして、会長がマリウス様を?」


「ええ。あなたから何度もカレの話を聞いたからね。個人的にも気になったの。で、少し話そうかと思ったら、あなたもここへ来たと。だからタイミングバッチリ」


「え、え~と……お邪魔なら私、一度いちど席を外しますが……」


「邪魔なわけないでしょ。いいから席に座りなさい。せっかくこうして本人と話せるのに、逃げるの?」


「うぐっ……会長、あんまりマリウス様の前でそういうこと言わないでくださいよ! 私が恥ずかしいじゃないですか!」


「事実、恥ずかしいことばっかり言ってたじゃない。なんだっけ……マリウス様が、木から落ちる私を受け止めてくれた~、とか、ハンカチを拾ってくれた~、とか」


「会長——!!」


 ペラペラとお茶を淹れながら喋るフォルネイヤに、ティアラが顔を真っ赤にして怒る。こうして見ると、彼女はヒロインらしいな。可愛い容姿に初心な反応。しかし明るく気さく。まるで物語に登場するヒロインそのものだ。リリア達にもこういった純粋さを学んでほしい。俺は剣より笑顔が欲しいのだ。……まあ、俺のせいなんだけど。ごめんなさい。


「ふふ、ごめんなさいねティアラ。ちょっとからかいすぎたわ。謝るから早く席に座りなさい。彼が待ってるわよ」


「あ! す、すみませんマリウス様。お待たせしちゃって」


「いや全然。なんとなく来ただけだから気にしないでくれ」


「なんとなく……ということは、やはり私の運命の……?」


「ティアラ嬢?」


 ぼそぼそなんか言ったぞ。近くでフォルネイヤがクスクス笑ってるせいでよく聞こえなかった。運命がどうのこうのって言ってた気がする。占いか?


 俺が首をかしげる中、まだ顔の赤いティアラは控えめな動きで俺のとなりに腰をおろす。なぜかそれを見たフォルネイヤが、


「ティアラったら大胆」


 とか言ってたが何の話だろう。直後、


「会長!」


 とまたティアラが怒っていたが……これはあれだ。女の世界だ。男の俺がなにか言える状況じゃない。黙って差し出された紅茶を飲む。


「マリウス様! 会長の言葉は全部ウソで冗談ですから、気にしないでくださいね!?」


「あ、はい。二人は……その、仲がいいの? 入学したばかりなのにすごいね、ティアラ嬢は」


「彼女は特待生だからね。その有能さに有能な私が目をつけたってこと」


「自分で言わないでください。でも、まだ生徒会には所属してませんけどね、私」


「学院側のルールでね。新入生は一ヶ月は経たないと、生徒会には所属できない。まったく面倒な決まりだよ」


 やれやれといった風に、自分で淹れた紅茶を飲む。その姿にクスリとティアラが笑った。


「別にいいじゃないですか。仕事なんてほとんどないんでしょう? 今だ会長ひとりで回ってるのがその証拠です!」


「……まあね。大きな行事がある時は忙しくなるけど、それもまだまだ先の話。しばらくはティアラと私の二人きりかもしれない」


「いやいや、今のうちに役員を決めておかないと後で後悔しますよ。……そうだ! どうせならマリウス様も入りませんか? 生徒会に」




「——へ? 俺が?」




 急におかしなことを言い出したぞ主人公。モノグサな俺が、生徒会に入れ? なぜ。


「マリウス様は文武両道とお聞きします。生徒会に入る資格は十分かと。仕事なんてほとんどありませんが」


「なら別に俺じゃなくても……」


「私は構わないよ。ティアラとは親しい仲になったし、応援もしてあげたい」


「会長……いい加減にしないと、明日からはお菓子かし作ってきませんよ?」


「おっと。おふざけはここまでらしい。まあ、参考程度にでも考えてみて。強制はしないけど、私は歓迎するからさ」


「そう言われても……」


 生徒会になんて興味はない。これが男主人公のいる状況なら考えなくもないが、ティアラを見張る意味はないし、わざわざ自分から仕事をする気もない。俺は「ないな」と心の中で結論を付けてお茶を飲む。




「あら、あんまり乗り気じゃないわね。……生徒会に入ったら、ティアラの美味しいお菓子が食べられるわよ? 彼女、料理が上手なの」


「料理? へぇ、そうなんだ」


 さすがは女主人公。ものすごくヒロインっぽい。


「そ、それほどでもありませんけどね……」


「謙遜しなくていいわよ。少なくとも私は食べたことあるけど、王都の高級店にも負けない味だった」


「それはすごい。そんなに美味しいなら是非とも食べてみたいな」





「あ、でしたら!」


「うおっ!?」




 急にバン! とテーブルを叩いて彼女の顔が近付く。キラキラと瞳を輝かせてティアラは言った。


「助けてもらったお礼に、なにか作りますよ! お昼ご飯とか!」


「え? いや、悪いよそれは。食堂で済ませればいいし……」


「決定ね」


 おい俺の話を無視するな。


「安心しなさい。ティアラの料理は一級品よ。それに、お礼をうけ取るのも紳士の嗜み。謙虚なのはいいけど、たまには男らしく振る舞いなさい」


「私、頑張ります! 明日あした持ってきますね!」


「…………了解」


 俺の意思など関係ないといった感じで話は進む。もうツッコムのも面倒になって、俺はがくりと肩を落とした。




 さて、リリアにはどう伝えるべきか……隠してバレたら、間違いなく怒られる。怒られて、酷い目に遭う……。


 お礼を返されるはずが、新たな問題が浮上したことに俺は頭を痛めるのだった。




 ▼




 不安を抱えたまま時間は過ぎて翌日。

 わざわざ校内放送にて呼び出しを受けた俺は、フォルネイヤ生徒会長の待つ生徒会室へと向かった。


 その途中、渡り廊下をはさむ中庭の方からなにやら喧騒が聞こえた。なんとなく気になって足を止めると、徐々に女子生徒と思われる声が大きさを増していき、やがて俺の耳にも鮮明に届く。




「ティアラ・カラー! あなた、平民の分際でマリウス様にすり寄るとはどういうこと!? あの方は公爵令息であり、第三王女殿下の婚約者なのよ! あなたのような下賎な人間が関わっていい存在じゃないの。分を弁えなさい!」




 ……どうやら、俺が嫌いな展開っぽい。


———————————————————————

あとがき。


☆が1000を超えてて吐きました。ありがとうございます‼︎

記念用の短編を用意するか、事前にお伝えしてる

フローラ・サンタマリア短編

『夫婦ごっこ』

セシリア・アクアマリン短編

『二人からの旅行』

を載せるか悩みますね......。


全部載せればいいんじゃ......?

短編なのでちょっとだけ文字数多いですが。

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