第71話 メイド許さん

 主人公? と別れたあと、俺はメイドに先導される形でリリア達の待つ談話室に向かった。すでにフローラを含めたヒロイン達がその場に勢ぞろいしている。商人の娘であるアナスタシアまでその場にいるとなると、なんだか元プレイヤーとしてはいろいろ感動したくなった。


 だが、扉を開けてみんなに挨拶を交わした俺に、怪訝な顔でリリアが近付いてくる。


 そして、まるで犬のようにすんすんと俺の服を嗅ぎだした。これがこの国の第三王女である。ビビるからやめてほしい。


「…………マリウス様」


「ん?」


「女の匂いがします」


「気のせいだ」


 びっっっっくううぅん!!

 即行で返事を返したが、内心、彼女の言葉に心臓が張り裂けそうになった。


 え? なに……リリアは犬なのか? ほんの少しのあいだ密着しただけの主人公? の匂いを嗅ぎ取った?

 

 もはやヒロイン要素ゼロで恐怖しかないんだが?

 俺が浮気したクズおとこ並みの心境で油汗をかく中、なおもすんすんと人様の服を嗅ぎ回るリリア第三王女殿下。頼むからそんな真顔で匂いを嗅がないでほしい。目が、怖い!


「正直に申し上げてくださいマリウス様。ここに来るまでの間、どなたかとお会いしましたよね? しかも女。また女。懲りずに女女女女女と……」


 ひいぃぃぃ!

 見開かれた彼女のどす黒い闇色の瞳が、ほぼゼロ距離から俺の瞳を覗く。もはやホラー映画のシーンにしか見えない。


 びっくりだろ? これが俺の婚約者で、恋愛ゲームのメインヒロインだぜ? ヒロインっていうか暗殺者っぽいだろ俺もそう思ってる。


「話してください。素直に大人しくあっさり吐けばまだ情状酌量の余地があります。隠していると罪が重くなりますよ?」


「なんで俺が、あたかも犯罪者のような扱い? た、たしかに女子生徒と少し会話したけど……な、何もなかった、よ?」


「本当ですか? けどおかしいですね……。何もないのにどうしてその女子生徒と喋る必要が? それともその子と話したくてどこかへ行ってらしたんですか?」


「違う違う! たまたま偶然ぐうぜん会っただけだから! ほんとに他意はないし何もない!」


「…………」


 ちらりとリリアの視線が俺から外れる。彼女の視線の先には、俺の専属メイドが。しかし残念。彼女とは子供の頃からの付き合いだ。いくらリリアであろうと簡単に口を割らせることなどできない。


「マリウス様は本日、入学式に遅刻してきた新入生とお話しておりました。猫を助けるべく木に登った彼女が落ちたので、それを助けた際に匂いが移ったのかと」


 メイドおおおお————!!


 あの野郎……ではなくあのメイド、秒で主人を裏切りやがった。そんなに権力が怖いのか!? 第三王女殿下が怖いのか!? 俺も怖いよ!!


 あっさりゲロッたメイドのせいで、再びどす黒いリリアの目が、視線が俺の下に戻る。


「入学式に遅刻してきた新入生……ああ、あの方ですか。なんでも希少な聖属性の魔法が使える特待生とか」


「……え? その情報、マジか?」


「あらあらあら? 興味がおありですか? 詳しくお話しますよ、マリウス様」


「すみませんでした」


 うんダメだ。ちょう気になる内容なのにこれ以上いじょう踏み込むと彼女に殺される。本能がそう警告していた。


「……まったく。正直に申し上げればここまで怒ることはではなかったのに、どうしてマリウス様は婚約者である私に嘘ばかりつくのですか? いい加減、私も怒りますよ?」


 ガッツリ怒ってましたがな。


「ごめんごめん。リリアに秘密にしておきたいとかそういう理由じゃないんだ。ただ、俺にとってはどうでもいいことだったから、説明するのが面倒で」


「それでも聞かれたら答えてください! 私は、どんなことでも知りたいのです。マリウス様のことは!」


「リリア……了解。次からはちゃんと説明するよ」


 ようやく彼女の怒りが収まったらしい。あの不穏なオーラが嘘のように消えた。

 しかし、




「はい。よろしくお願いしますね。……では、次はマリウス様が私に嘘をついた件の……説教を始めましょうか」




 再びどす黒オーラが彼女の背後から現れた。




「ちょっとズボンが汚れたから着替えてくる」


「ここにあります」




 なんで男用のズボン持ってんの!? 普通にメイドが取り出したぞ。どこにしまっておいたんだよ!! サイズピッタリじゃねぇか!?


 俺は彼女の用意周到さに戦慄し、この光景に慣れた他のヒロイン達が、平然とお茶会してる状況に絶望し、そしてリリアに無理やり廊下へ連行される。


 改めて、俺ってリリアの地雷じらい踏み抜くの上手すぎるだろ……。そう思った。


———————————————————————

あとがき。


総PV数50万突破!まことにありがとうございます!なんだかんだで続いてて作者はゲ○吐きそうです(嬉しくておろろろろ)。


総PV数50万を(勝手に)記念して、1月30日に3話投稿させていただきます。

あ、短編も出したいなぁ......。



最後に、皆さま!今後ともよろしくお願いします!

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