第48話 夕日と重なる君の顔
「……ねぇ、マリウス」
「どうしたセシリア」
「私、あなたに服を選んで欲しいって言ったわよね」
「ああ、言ってたな。面倒だったが服を選んでみたぞ」
「たしかに何着も持ってきてくれたのは嬉しいけど……気のせいかしら?
セシリアの目の前に置かれた数着の衣類。
青を基調にしたそれらは、たしかに彼女が言う通りどれも似たようなデザインと形をしてる。
「いやまあ同じコーナーから取ってきたし当たり前だろ。どれもセシリアに似合うと思うぞ」
「ありがとう。でも私が思ってたのとちょっと違う。デザインは好きだけど、この展開はちょっと想像と違う」
「? 何がダメなんだ? ちゃんと言われた通りに服を選んだのに」
「あなたの適当さが見え隠れしてるのよ! あ、このデザインいいじゃん。面倒だし近くの似たやつも持っていけばあいつも騙せるだろ——っていう魂胆が透けて見える!」
「おお……すごいな。俺が考えたことをどんぴしゃで当ててる」
「ぶっ飛ばしてもいいわよね、これは」
「ごめんなさい。
「もう……本当にモノグサなのねあなたって」
「自慢じゃないが、手を抜くことに関しては知り合いの誰にも負けるつもりはない! できることなら
「本当に自慢することじゃないわね、びっくりだわ」
セシリアがため息を吐く。
確実に呆れているそれだ。
「まあいいわ。最初に見せてくれた服は気に入ったし、それを買う。先にマリウスは外に出ておいて。すぐに戻るから」
「了解」
言われた通りに俺は店を出た。
セシリアは俺が店を出てから数分ほどで戻ってくる。
その手に荷物はない。
貴族になると大抵の買い物は実家にそのまま送ってもらうからな。
俺も前はそうしたし。
「さて、買い物も済んだしそろそろ次へ行きましょう。夕方までは適当に時間を潰さないと」
「ん? 夕方になにかあるのか?」
「ええ。でも秘密。その時になってからのお楽しみよ」
「ふーん」
よくわからないが、特に期待せずに待っとこう。
歩き出したセシリアを追いかけると、俺たちのデートは再開された。
▼
セシリアとのデートが始まって数時間。
様々な店を見て周り、すでに空はオレンジ色に染まっていた。
まばらに人の数が減っていく。
「そろそろいい時間ね。ちょっと西区の奥まで行くわよ」
「西区の奥? そこに何かあるのか?」
「ええ。目的地に着いたらきっとびっくりするわよ」
「目的地、ね」
何も知らされないまま俺はセシリアに先導されながら西区の奥へ向かう。
と言っても元から西区の端の近くにいたからそれほど移動には時間は掛からない。
すぐに外壁のそばに到着した。
「到着! ここが今日の終着よ」
「……ここが? どこからどう見てもただの外壁しかないんだが?」
「そうよ。この壁の上に行くの」
「外壁の上? 普段、
「そこはちょろっとあなたの名前を出したら許可を貰えたわ。さすがは騎士団長の息子さん。便利ね」
「おいこら。勝手に人の名前を使ったのか」
「グレイロード公爵から許可は貰ってる。リリアだって許可を出したわ。だからいいのよ。早く行くわよ」
「そういうことは事前に言っとけよ……」
「サプライズなんだから言ったら面白くないでしょ? それより……外壁からの眺めは最高よ」
そう言って階段を上がるセシリア。
置いてかれるのも癪なので彼女に続くと、やがて外壁の頂上に到着し、そこからは——、
「キレイ、だな」
美しい夕陽が見えた。
雲に遮られていない、オレンジ色の太陽が浮かぶ。
「ね? すごいでしょ。こんな景色そうそう見られないわよ。あなたのおかげだけど、私にも感謝していいわよ?」
「あ、ああ……これは素直に礼を言っとく。こういうのは嫌いじゃないからな」
「そっか。よかった。これで準備は完了よ」
「準備?」
何のだ。
疑問に思った俺は、セシリアの方を向く。
すると、俺が彼女を視界に入れるのと同時に、視界が埋め尽くされた。
セシリアの顔で。
「————!?」
何が起きたのかほんの一瞬だけ理解するのが遅れた。
しかし、現状が全てを物語っている。
俺とセシリアしかいない外壁の上で、オレンジ色に染まった彼女は……あろうことか、顔を真っ赤に染めながら俺の唇を奪った。
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