第47話 あの日の再現

 ここにオレ以外の人間がいたら是非とも聞いてほしいことがある。

 それは、女性との関係についてだ。


 別に自慢したいわけじゃない。

 むしろその逆、女性との接し方をどう改善すればほどよい関係でいられるのか。

 それを女性経験が豊富な者に教わりたかった。


 俺としてはぜんぜんまったく問題がないと思ってた相手から、デートを誘われたまではまだわかる。

 ギリギリなんとか納得できた。リリアも関わっていたし。


 けど、なぜかそのデートの相手、大して仲良くもないはずのセシリアに俺は唐突に告白された。

 まだフラグなんて踏み抜いてないはずなのに。


 過去をいくら振り返ろうと答えは出てこない。

 俺は立ち上がり、ジッと真面目な顔で見つめてくるセシリアに、ただただひたすら呆然とすることしかできなかった。


 そして食事は終わり、さらに勢いを増した彼女に連れられたのは、リリアと同じように女性の洋服をたくさん扱うお店だった。

 こんな所で何をするのか……扉をくぐった俺は早速、彼女に質問してみることにした。











「なぁ……洋服屋に来てなにするんだ」


 扉をくぐった矢先、煌びやかな雰囲気に呑まれながら俺は訊ねる。


「なにって、洋服屋なんだから服を見たり着たり買ったりするんでしょ? リリアと一緒に買い物したじゃない」


「いや、それくらいわかるが……俺とお前が洋服屋に入る理由がわからないだろ。そういうのは一人の時でいいんじゃないか?」


「買い物はデートの基本中の基本よ。だからリリアだってあなたを店に連れて行ったんじゃない。なに? 私とは買い物デートしたくないの?」


「そこまでは言ってない。ただ、あいつと同じことを言うなら先に言っとくぞ。俺にセンスを求めるな」


「残念。最初からあなたに服を選んでもらうつもりなの私。でも、買うかどうかは見てから決めるから安心して。また、私に似合う服を選んでね?」


「あの時はたまたまだったんだけどな……」


 ちょうど目の前にセシリアに似合うドレスがあった。

 選んだ理由はそれだけだ。

 別の服が似合うとしても俺は手に取らなかっただろう。


 そんなやる気のない俺に任せるなど、セシリアもまだまだ俺という人間のことがわかってないな……。


「じゃあそれで」


「あれは……ただ服の色が青いだけじゃない。しかもシャツだし」


「シャツは万能だぞ。家で着ててもいいし、外でも着れる。使い勝手が実にいい」


「あなたはシャツを作ってる職人の回し者? たしかにシャツはあると便利だけど、今回ほしいのはそういうのじゃなくて、もっとこう……目立つ感じの服が欲しいの」


「目立つ感じの服? ずいぶんと抽象的だな。そんなこと言ったら適当にドレスを選べば一発だろ。あれ以上に目立つ服はない」


「そうじゃなくて……こう……普段用の、お洒落な服が欲しいの!」


「お前は人の話を聞いてたのか? 俺にセンスを求めるな。未だに服をメイドに選ばせてるような男だぞ? 女性物どころか男性物のセンスすら怪しい」


 前世とこの世界の文明はかなり異なる。

 食べ物ならともかく、衣服に関してはどうして前世の影響を受けてしまい俺には選べない。

 やっぱりシャツとかの方が無難じゃないかな?


「胸を張って言うことじゃないわね……けどいいわ。時間はあるし、多少は目を瞑りましょう。だから頑張って服を選んで、マリウス。私は、あなたに選んで欲しいの」


「奇特な奴だな……まあいいだろう。文句は言うなよ。適当に俺が選んでやる」


「本気で選んでね」


 無理絶対。

 こういうのは真面目にやると恥をかく。

 適当くらいがちょうどいいんだ。


 やれやれと肩を竦めて店内を見渡す。

 改めて見渡してみると、店内にはかず多くの衣服が飾ってあった。

 この中からセシリアに似合う服を探さないといけないのか……それを考えるだけでめんどくさくなってきた。


「ハァ……」


「見てるだけでめんどくさい——って顔してるわよ」


「まさにその通りだ。どうして俺がお前の服を……」


「さすがに傷つくわよ? 私、あなたが好きなの。好きな相手からのプレゼントは何よりも嬉しいものだわ」


「それ。それな。本当かどうかも怪しい」


「失礼ね。私があなたに冗談を言うとでも? そもそも冗談は嫌いなのよ」


「知ってる。知ってるけど……俺を好きになる場面なんてあったか? モノグサな俺を見てどうして好きになる」


「恋愛は理屈じゃないの。好きになっちゃったんだからしょうがないでしょ。それより早く服を選びましょ。時間があると言っても他にも行きたい所はあるんだから」


「……はいはい」


 ならさっさと適当に選んでこの不毛な買い物を終わらせるとするか。

 今だけは俺のセンスが覚醒することを祈る。


 取り合えず、青い服をメインに添えて俺は店内を回るのだった。

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