第33話 地獄への招待状

 拝啓、前世の友人。


 俺は恋愛ゲームの世界に悪役として転生しました。

 それなりに楽しく過ごし、モノグサにしては割とまともな人生を送っていると思います。


 ただ、問題が何もないと言えば嘘になる。

 特に最近は、内なる自分が暴走した結果、なぜかヒロインの一人フローラに惚れられるという珍事が起きました。

 振り返った今でもどうしてそうなったのかサッパリ理解できません。

 よろしければゲームに詳しい友人くん、何か俺にアドバイスをしてくれないでしょうか?


 ……そう思うくらいには、短期間に色々とありました。


 ようやくフローラが実家であるサンタマリア伯爵家へ戻り日常こそ帰ってきましたが……どうせまた何かしらのイベントがあるのだろうと俺は身構えます。

 そして案の定、またしても父が俺に不幸の言葉を告げにきた。











「聞いてくれマリウス。今日は大切な話をお前に伝える」


 早朝の食堂にて、父が真面目な顔でそう言った。

 こういう時の会話かいわ内容は、経験上ろくでもないことがわかる。

 俺はあまり期待せずに返事を返した。


「大切な話ですか?」


「ああ。連絡れんらく自体は昨日の内に届いてはいたんだが、改めてお前に知らせるのに時間をあけた。こういう時のほうが伝えやすいからな」


「なるほど。それで、その連絡の内容が話の本題だと」


「その通りだ。さすがに察しがいいな。——おい、あの手紙をマリウスへ見せてやれ」


 父がそばに控える執事へ命令を下す。

 すでにそれを持ってきていたのか、執事が懐から一枚の手紙を取り出して俺の前に置いた。


「……手紙?」


「見たらわかると思うが、それは王族からの手紙だ。印が裏に押されているだろう?」


 言われた通りに裏面を確認すると、王族のみが使う専用の印鑑と現国王陛下のサインが入ってた。


「たしかに……中身は……」


 間違いない。これは本物だ。偽造不可能な証拠がある。

 一気に嫌な予感がした。

 おそるおそる手紙を開いて中身を読む。


「王家主催のパーティー?」


「うむ。王家が主催するパーティーは珍しくないが、今回はただ賑やかに楽しむだけではない。続きを読んでみるといい」


「えっと……第三王女殿下の婚約を祝って?」


「要するにお前とリリア王女殿下の婚約記念も同時に行うためのパーティーだ。主役はお前でもあるぞ。よかったなマリウス」


「俺が……主役?」


 なんだそれ。夢か?

 しかし、何度なんど手紙を見直しても書いてある内容に変化はない。

 試しに頬を引っ張ってみたが普通に痛かった。

 どうやら夢ではないらしい。なるほど。


「すみませんお父様。体調が悪いので俺はパーティーを欠席します」


「ダメに決まってるだろ。主役だぞお前は」


「今にも死にそうで」


「料理は完食しているな」


「ぐああああああ! は、腹があああああ!」


「諦めなさい。お前が面倒事を嫌う人間なのは知ってるが、相手が相手だ。断れるはずがないだろう」


「ですよねぇ……今から派手に怪我してくるのはアリですか?」


「残念ながら、パーティー当日までお前を家から出すわけにはいかないな」


「だったら階段から落ちるか、窓から飛び降りるくらいしか……」


「そこまでするのか!? そんなに行きたくないのか?」


 俺の一種の狂気とも言える覚悟に父が引いてる。

 モノグサを舐めるなよ。極めた奴は自殺すらする。

 俺はそこまでじゃないが、怪我くらいなら……。


「当たり前でしょう。なにが哀しくて王家主催のパーティーなんぞに……完全に地雷原じゃないですか」


「じ、地雷? なんだそれは」


「踏むと爆発する罠のことです。つまり、王家主催のパーティーは危険地帯。一歩でもそこへ足を踏み入れれば無事では済まないでしょう」


「お前は戦場にでも行くのか? パーティー会場だぞ? 行くのは」


「お父様はわかってませんね。パーティーとは獣たちの宴。貴族同士による争いでもあるんです」


「たしかにそれは否定しないが……お前まだ子供だろ。どうしてそんなに悟っているんだ」


「現実を知ってるからでしょうね……ふっ」


 本当はパーティーのことなんてぜんぜん詳しくない。

 ただ集まるであろう他のヒロイン達に会いたくないだけだ。

 少なくともリリアとセシリアは確定として、伯爵令嬢のフローラもパーティーには参加するだろう。


 一度に三人ものヒロインがその場に集うなど、主人公のライバルに転生した俺には地獄以外のなにものでもない。

 下手したら最後の一人まで姿を見せる危険すらあった。あと主人公な。


「……よくわからんが、とにかく王家からの誘いは断れない。どんな理由があろうとお前の出席は確定だ。主役として、グレイロード公爵家の名に恥じぬ姿を期待しているぞ」


「そういう期待も苦手なんですけどね……わかりました。自分なりに頑張ります」


 手紙を机に置いて深いため息を吐く。

 次の困難がもう俺の前に立ち塞がったのだった。

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