第17話 悲報
人生とはままならないものだ。
適当に生きたところで自分の望む結末になるとは限らない。
むしろ適当に選択肢を選んだゆえに、意味不明な状況に陥ることがある。
今の俺はまさにそんな感じだ。
失敗したから「次はまあ気をつければいいか」。
そんな適当な考えのもと、考えることなく行動した結果……またしてもリリアと主人公とのイベントを奪ってしまった。
無駄に視線が引き寄せられるはずだよ。
見たことのある物だったんだから。
前も同じ失敗をしたのに、それを繰り返すとは芸がない。
だが、これもまた俺の人生。
今後どうなるのかまったく読めない状況だが、それでも俺は焦って行動しようとしたりはしない。
俺は頑張らない。
リリアと別れたあとも、平気な顔で自宅へ帰る。
ここ最近は色々あったからな。しばらくは怠惰に生きることを心に決めた。
「はぁ……! イヤリングをプレゼントされて喜ぶ王女殿下はお綺麗でしたね」
自宅へ向かう馬車の中、同乗したメイドが呟く。
「さすがはマリウス様です。婚約者へのプレゼント選びも完璧とは」
「プレゼントしろと言ったのはお前だがな」
今にして思えば余計な一言だった。
そこまで恨んではないが。
「私はあくまでアドバイスをしただけ。あれほど王女殿下に似合うものをプレゼントできるのは、紛れもないマリウス様の才能ですよ」
「なんだそれ……プレゼントを選ぶ才能か?」
「はい。男性としては中々にポイントの高い能力かと」
「超いらね。それより円満に婚約者と婚約解消する方法を教えてほしい」
厳密には、リリアに刺されないで婚約破棄する方法を募集する。
「なに縁起でもないことを! マリウス様は本当にリリア王女殿下との婚約を望んでいないのですか?」
「当たり前だ。相手は王女殿下だぞ。いくら俺が公爵家の跡取りとはいえ、荷が重い。平凡な人生でいいんだよ俺は」
「次期公爵家当主とは思えない発言ですね……。それで言うなら、リリア王女殿下の性格や外見に何も問題はないと。肩書きさえなければ彼女を愛せると」
「……そこまでは言ってない。俺にまともな恋愛ができるとは思えないからな」
たしかにリリアは可愛い。素直に好きな見た目だ。
性格も恐ろしいところを除けば優しく明るく気遣いができる。ほぼほぼ完璧だろう。
だが、それでも俺に所帯を持つ資格があるとは思えなかった。
「できていたではありませんか。今日のマリウス様は満点でしたよ?」
「あれはお前のおかげだ。俺が一人で考えたプランじゃない」
「プレゼントの話ではなく、それ以外です。普通に楽しそうにデートしてたではありませんか」
「そうか? 普通……ああ、なるほど」
そういうことか。
咄嗟に口から「普通」という言葉が出るくらいにはまともだったということだな。
「はい。普通にいいデートでした。リリア王女殿下なんかずっとニコニコしてましたしね」
「婚約者を脅してまで手を繋がせたりしたがな……」
ボソッと嫌味を呟く。
それを聞いてメイドは笑った。
「ふふ。マリウス様が将来、リリア王女殿下の尻に敷かれる姿が想像できますね」
「嫌な想像するな。俺だってそう思ってるくらいなんだ」
彼女に刃物を持たせたら一瞬で土下座する。
「気をつけてください。あの手のタイプは本当に王族としての肩書きすら捨ててでもマリウス様を追ってきますよ? いっそ受け入れてあげた方が被害は少ないかと」
「どちらにせよ受けるのかよ被害」
「それは諦めましょう。必要経費です」
「最悪だ……」
できれば避ける方法を教えてくれ。
被害を抑える方法じゃなくて。
「あの方に惚れられた時点で、マリウス様の負けですよ」
「要するに俺は……リリアから逃げられないってことか」
「はい」
俺の呻くような言葉に、満面の笑みを浮かべて肯定するメイド。
愛する自宅が近づいてきたというのに、俺の心はどんよりと曇っていた。
▼
「ただいま戻りました」
メイドが開けた正面玄関を潜り抜ける。
すると、
「おお! おかえり。ちょうどいいタイミングで帰ってきたなマリウス。リリア王女殿下とのデートはどうだった? 楽しませることが出来たか?」
ホールにはなぜか父がいた。
俺を見るなり朗らかに笑う。
「まあ普通に上手くいった方かと。最後まで笑ってましたから、殿下は」
「そうかそうか! それは何よりだ。仲良くやっているようなら私は何も言わない」
「それより、何かあったんですか? ちょうどいいタイミングだと言ってましたが」
「ん? ああ! そうだったそうだった。王女殿下のことを思い出して先に訊ねてしまったよ。まあ、そこまで重要な話でもないんだがな」
「はぁ」
そこまで重要じゃないなら後日にしてくれませんかね?
今の俺は色んな意味で疲れているんだが。
「数日後に従姉妹のフローラ嬢がウチに遊びに来る。なんでもサンタマリア伯爵がしばらく家を留守にするらしくてな。使用人はいるがどうせなら久しぶりにこちらへ顔を出してみるのもいいんじゃないかとお願いされた。先ほど了承の返事を返したから、それをお前にも伝えておこうと思ってな」
「は? フローラ、嬢?」
父の言葉に全身が固まる。
「ああ。小さい頃はよく遊んだあのフローラ嬢だ」
「……嘘だろ」
超絶重要な話だろうが。
超、超重要な話だろうが————!?
「次のヒロインが、もう、ウチに来るのか!?」
小さく呟いて、俺は膝から崩れ落ちてしまうのだった。
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