第13話 やらかし①

 リリアのメイドの案内で、高価な洋服を取り扱う店にやって来た。

 店内に入ると、露店に比べて色鮮やかな衣服が所狭しと飾ってあった。

 この中からリリアに似合うものを選ぶとなると……すごく面倒だ。

 しかし、当の本人が、


「見てくださいマリウス様。この色合い、素敵だと思いませんか?」


 非常にノリノリだった。

 置いてある服を手にとってこれみよがしに見せ付けてくる。


「金髪のリリアには青い色が似合うな」


「そ、そうですか? えへへ……ではこちらはどうでしょう」


「それも似合うな。ちょっと大人っぽいとは思うが」


「どういう意味ですか!? もう十分大人ですよ!」


「いくらなんでも早過ぎるだろ。せめて高等学校に通ってから言うべきだな」


「む~……! 子供扱いして。マリウス様はクールで落ち着いてて大人っぽいですね!」


「そうか? 普通に年頃の少年だよ」


「そういうところが大人っぽいです! まったく……早く服を選んでくださいね」


「はいはい」


 適当に答えて近くの服を手に取る。

 水色のワンピースか。清楚なリリアには案外似合ってるな。


「これなんかどうだ?」


「早くとは言いましたが、一番近くにある服を選ぶのはどうかと思いますよ……真面目に選ぶ気ありますか?」


「あるある。見てみろよ。意外とリリアに似合うと思うぞ」


「……ワンピースですか。薄着なのであまり着たことはありませんが、シンプルでいいですね」


「だろ。気に入ったんならこれにするか?」


「いえ。いくらなんでもこれに決めたら買い物がすぐ終わってしまいます。もう少し店内を見て回りましょう」


「了解。……ん?」


 ふと目についた紺色のドレス。

 なんというか大人っぽい印象でリリアには似合わないが、クールでお嬢様然としたセシリアには似合いそうだな。


「おいセシリア」


「……なに。今はリリアとのデート中なのよ? 他の女を呼ぶなんて失礼じゃない? 減点対象ね」


「何の減点かは知らんが、あのドレスどう思う」


「あのドレス? ……ちょっと大人っぽいわね。リリアには似合わないと思うわよ。というか本人に直接聞きなさいよ。さっきはそうしてたじゃない」


「だから本人に聞いたんだろ」


「え?」


「あのドレスは最初からリリアに似合うとは思ってないよ。俺が似合うと思ったのはお前だセシリア」


「は、はぁ!? どうしてあんたが私に似合うドレスを選ぶのよ!」


「別に選んだわけじゃない。たまたまお前に似合いそうなドレスがそこにあっただけだ」


「そ、それにしたってわざわざ言う必要は……」


「なんとなくな。ほら、お前の髪もリリアと同じで綺麗だろ? 性格がキツイから赤もいいかと思ったが、髪色と合わなくてな。けど同じ青系統の紺なら映える、そう思っただけだ」


「————バカ!」


 ぐえっ!

 なぜか急に殴られた件。

 横腹がジンジンと痛む。


「変なこと言ってないでさっさとリリアの所に行きなさい! 今日は、あの子とのデートなんでしょ!」


 そう言ってセシリアはそそくさと離れて行った。


「な、なんなんだ……ただの世間話だろ? ……痛い」


「どうかしましたかマリウス様」


「さあ。セシリアにあのドレスが似合うんじゃないかと言ったら殴られた」


「まあ……それは……」


「リリア?」


 俺の言葉を聞くなり考えはじめたリリア。


 少しすると顔を上げて笑う。


「なんでもありません。それより服を選びましょう。あちらにマリウス様によく似合う服がありましたよ」


「いや、俺の服を選んでどうする。リリアの服を買いに来たんだろ」


「いいではありませんか。私だけ買ってもらうというのもなんですし、お互いに贈り合うのはどうでしょう」


「……まあいいか。それで、リリアが見つけた服はどれなんだ」


「あちらです。マリウス様には暗めの色が映えると思って……」


 喋りながらリリアと一緒に店の奥へ向かう。

 結局、なぜ俺がセシリアに殴られたのかわからなかったが、リリアの気分がよくなったのでよしとしよう。


 その後も俺とリリアの服選ぶは続く。




 ▼




 おそらく一時間ほど経った。

 お互いにお互いの似合う洋服を送り合った俺たちは、揃って洋服店から出る。


 まだ日は高く時間に余裕があった。

 しかし、デートの経験など無い俺に次のプランを考えることなど不可能。

 店を出て早々にどこへ行こうか悩む。


「悪いなリリア。誰かとデートするのは初めてで慣れていないんだ……」


「構いませんよ。むしろマリウス様の初めての相手になれて嬉しいくらいです。私も初めてのデート相手がマリウス様なので、お互いに不慣れな者同士ですね」


「あはは……行き当たりばったりになりそうな組み合わせだ」


「いいではありませんか。行き当たりばったりもデートの醍醐味ですよ。自由に楽しくいきましょう! ささ、そういうことなので向こうに行きますよマリウス様!」


「ちょ、まてまて!」


 無理やりリリアに腕を引っ張られる。

 連行されたのは、なんともいえない焼き串を売ってる店。

 値段も商品も特にリリアが興味を持つようには見えないが……。


「あれが食べたいのか?」


「はい! 私が普段食べるようなものとはぜんぜん違うので興味があります!」


「ああ、なるほど……」


 単なる好奇心か。

 庶民の食べ物なんてほとんど口にしたことないだろうしな。

 気持ちはわかる。

 俺も前世は平民だったし、ちょっと興味あるな。


「すみません。焼き串を三つ。お金は……これで」


「はいよ。彼女とデートかい?」


「そんなところです」


「初デートなんです!」


「ほう。初デートでウチに来るとは光栄だね。ちょうど焼けてるから熱いうちに食べな。いい彼氏を持って羨ましいねお嬢さん」


「ありがとうございます! 自慢のか、彼氏です!」


 照れながらリリアが言う。


「ははは! いいねぇ。初々しい」


「ありがとうございました。ほら行くぞ!」


 このままだと恥ずかしい話とか暴露しかねない。

 俺は慌ててリリアを引っ張って店から離れる。

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