第11話 幼馴染が

 リリアとのデートが始まった。

 まず俺たちが向かったのはデートの定番洋服屋。

 露店の通りを少し歩いただけで様々な衣服を飾る店を見つめた。

 その内の一つに近づく。


「これがこの辺りで流行ってる洋服ですか? 意外と地味ですね」


「貴族の服が無駄に派手なだけさ。普通はこんなもんだろ」


 そう言いながらも実は俺もリリアと同じことを思った。

 リリアはシンプルに自分の着てる服と比べて言ったのだろうが俺の場合は違う。

 前世の記憶と比べて思った。

 どれも着心地が悪そうで地味だと。


「マリウス様は平民についてもお詳しいのですか?」


「いや全然。なんとなくそう思っただけだ。実際、どれも値段はかなり安いしな」


「確かに……」


 お互いに値札に記された金額を見る。

 だいたい俺らが着る服の半分の半分の半分の半分以下だ。

 よほど素材がお手軽だと見える。


「何か興味のあるものは見つかりそうか? リリアくらいの家だと基本的になんでも買えるだろうし」


「さすがにこの辺りにある服を着る機会はそうそうありませんよ……。平民の方々には失礼な話ですが」


 そう言って彼女は苦笑する。


「それもそうか。王族が地味な安物服を着たら問題になるな」


 想像してみたらちょっと面白い。

 前世で言うと総理大臣が記者会見にYシャツ一枚で挑むようなものだ。

 ありえないな。


「ま、まあそれでも好きな人が選んでくれた服は、王族でも欲しくなるとは思いますけどね」


 ちらちら。

 ちらちら。

 期待の込められた眼差しが隣から刺さる。


「……もしかし俺はいま、リリアにねだられているのか?」


「ねだってません! 本音がぽろっと漏れただけです!」


「意味合い的には同じだろ……」


 何がどう違うと言うのだ。


「まあいい。リリアの願いなら叶えてあげたい……と言いたいところだが、いくら俺でもこの辺りで適当に服を選んだりはしない。せめてもっと貴族が、王族がお忍びで着てもなんとか許されるくらいの洋服を売ってる所に行こう。そこでなら服を一着くらいは選んで……」


「——すぐ行きましょう! ミラ! この辺りに高価な服を売ってる店はあるかしら!?

「近くにはありませんが、歩いて二十分ほどの場所に一軒ございます」


「わかりました。では案内を頼みます。……さあ、お店のほうへ行きましょうか、マリウス様」


 言い終わる前に秒でリリアが話を決めてしまった。


「……気が、少しばかり早くないか?」


 言っとくが俺は一着しか選ぶ気はないぞ?

 最初からこうなることを予期してたからな。


「そんなことありません。それに、東の国には有名な言葉で、善は急げ、というものがあるらしいですよ」


 東の国?

 それってもしかして異世界風の日本か?

 だとしたら行ってみたいな。


「よくもまあ他国のことわざまで知ってるな」


「あら? マリウス様もご存知で?」


「少しだけ、な」


 前世でよく聞くものくらいは。


「マリウス様も博識ですね。私なんて最近知ったのに」


「そんなことない。たまたまだ。たまたま」


「ふふ、たまたま、ですね」


「それより早く行こう。洋服に興味があるんだろう?」


「はい。マリウス様が私にどんな服を選んでくれるのか……今から楽しみです」


 超期待されてる件。

 彼女の瞳が爛々としていた。


「あまり期待するなよ……男のセンスなんて大概あてになるもんじゃない」


「それでも期待しちゃうのが乙女なんですよ」


「乙女、ね」


 どこにいるんだその乙女とやらは。

 俺の知ってる女なら、乙女というより捕食者って感じだが。


「……何か? いま、マリウス様から含みのある言い方が聞こえましたが」


 じろり。

 リリアにやや睨まれてしまう。

 慌てて俺は視線を逸らした。


「気のせいです。さあ行こう。さっさと行こう」


 俺はテンションに任せて踵を返した。

 未だに彼女から冷たい視線が刺さるものの、気にせず歩き出す。

 そのとき。






「——リリア?」


 背後から女性の声が聞こえた。

 俺もリリアも揃って振り返る。

 するとそこには、


「あなたは、もしかして……セシリアですか!?」


 美しい青色の髪を揺らす一人の少女がいた。

 それを見た瞬間、俺の心臓が一気に高鳴る。


「ええ。第三王女のあなたがこんな所で何をしてるの?」


「こちらの素敵な殿方とデートしてました」


 そう言ってグイッと組んだ腕を自分の方へ引っ張るリリア。

 目立ちたくないのに目立ってしまった……。


「で、デート? そう言えばお父様が第三王女殿下に婚約者ができたとかなんとか言ってたような……」


 そこでお互いの目が合う。

 ちょうど外套が風で揺れて素顔が明らかになった。


「げっ」


 それを見てわかりやすく彼女は表情を歪めた。

 こちらの台詞だと言いたい。


「あ、あんたグレイロード家のマリウスじゃない! どうしてあんたがリリアと一緒にいるのよ!」


「さすが同じ四大名家の公爵家。お知り合いでしたか」


「知り合いと呼べるほどの関係か謎だがな……一応、パーティーで会ったことがある、はずだ」


「ええ。あなたのことはよく知ってるわ。グレイロード家のワガママ子息。答えなさい! どうしてあんたがリリアと一緒にいるのよ! ま、まさか!?」


 ビシリと人差し指を俺の顔に向けた青髪の少女。

 ぎゃーぎゃー喚いたかと思うと、突然体をワナワナと震わせる。


 彼女の疑問に答えたのは、俺ではなくリリアだった。

 女神のような笑顔で微笑みながら、






「先ほどご自身で言ってたではありませんか。私が婚約したと。その相手がマリウス様なんですよ」


 平気で爆弾を落としやがった。

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